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断罪の咎人トーマ  作者: 橋比呂コー
Mission1 通り魔を退治せよ
7/30

2-3 奮起

 話は数刻前。マーヤが盗賊たちからエネルギー弾の連発で迫害されている時までさかのぼる。閃光とともに意識を失った當間だったが、全身を撫でるそよ風に揺り起こされる。薄目を開けると、そこは鬱蒼と木々が生い茂る森の中であった。

 辺りを鉄格子に囲まれた監獄の中にいたはずだ。それなのに、己が身を捕縛するためのかせはどこにも存在しない。そもそも、ここが刑務所とは全く別の場所というのは子供でも分かりそうなものである。


 刑務所でないとしたらどこなのか。そこで當間は夢の中で会話していたことを思い出す。夢の出来事を鮮明に覚えているというのもおかしな話であるが、実際に対面して話していたかのごとく、脳裏にこびりついているのだ。あのカムゥという謎の少年の存在と共に。

 カムゥの話だと、當間は魔法を使用する悪人を成敗するため、マギカという異世界に飛ばされたようである。それが事実であれば、ここは当然マギカという異世界ということになる。ただ、この風景だけでもどうにも判別できない。異世界だと暗示をかけられ、どこぞの田舎の山中に連行され、放置された可能性だってあるのだ。


 とりあえずは状況を確認するのが先決。そう思い立った當間は腰を上げようとする。だが、そんな彼の目に真っ先に飛び込んできたのは凄惨な光景だった。


 大人が三人がかりでいたいけな少女を暴行しているのだ。小柄な少女が屈強な男たちに抵抗できるはずもなく、為されるがままに襲撃されている。

 それと共に蘇る記憶。あの河川敷で一方的に暴力を受け続けていた妹の姿。當間は無意識のうちに雑草を握りしめていた。

 しかし、あの時とは違う。あの時はいつまでもうじうじと迷っていたから最悪の結末になってしまったのだ。今度こそと奮起するが、男たちの腰にある物を目にまたしても腰が引けてしまう。

 それはナイフであった。その男たち、盗賊の一派の所持品であったが、これはあくまで脅しのために有していただけである。盗賊たちは命の危機が迫ればこれによる実力行使も視野に入れているが、基本的に主戦力にしているわけではない。


 本来ならば主軸になりそうなナイフを捨て駒にしているのにはきちんと理由がある。それはすぐさま當間も目撃することとなった。

 盗賊たちが手のひらに光を宿すや、そこからエネルギーの塊が生成され、一直線に暴虐されていた少女、マーヤへと襲い掛かったのだ。


 ただでさえ躊躇していた當間であったが、この一撃は彼の戦意を大きく削ぐのに充分すぎた。當間が元いた世界では決してありえない光景。人間がエネルギーの塊を具現化させ、それを武器として攻撃したのだ。少年漫画やRPGではごくありふれた描写であったが、現実に目の当たりにすると、手品の類かと思い何度も目をこする羽目になる。

 しかも、まやかしではなく、あのエネルギー弾によってマーヤは傷を負っているのだ。手品にしてはあまりにも高度すぎる。そうでないのなら、こう断言する他ない。


 あの盗賊たちは魔法で攻撃している。


 あまりにも現実離れした結論ではあるが、それしか直面している現象を説明できそうにないのだ。圧倒されていると、突然強烈な眠気とともに夢の中へと引き戻された。


 一瞬後に覚醒すると、再度あの不可思議空間へと迷い込んでいた。焦燥する當間をよそに、カムゥは微笑みながら佇んでいた。

「どうだい、異世界マギカに降り立った感想は」

「どうだもくそもない。いきなり大変なことになってるじゃないか」

 別次元世界に飛ばされた矢先、少女が一方的に暴行されている場面に出くわしたのだ。これで混乱するなという方が無理な話である。


 とはいえ、周辺環境がどうであれ、この局面で第三者が取りうる行動は大きく分けて二つ。見て見ぬふりをして逃亡するか、勇気を振り絞り交戦するか。當間としてはどちらを実行するか判断しかねていた。

 そんな心中を見通しているのか、カムゥは後押しするようなことを告げに来たのだった。

「僕としても状況は把握できているよ。まさかいきなりこうなるというのは予想外だったけどね。だから、そんなに長く引き留めはしない。

 あの少女を助けたいけど、現実に魔法を目撃して尻込みしているというのが正直な感想だろう。でも、あんな低級魔法は恐れるに足りない。

 転移が完了した時点で、君にはすでにいくつかの上級魔法を扱えるだけのノウハウが伝授されている。いくつか発動できる魔法が思い浮かぶはずさ」

 半信半疑で、當間は漠然と「魔法」という単語をイメージする。すると、溢れだす水流の映像とともに、ある呪文が脳内に流れた。

「それは、水の上位攻撃魔法のようだね。発動する際は、同時に浮かんだその呪文を口にするだけでいいよ」

「やけに簡単に発動できるんだな」

「この世界の住民は魔法と親和性が高い。日常会話するのと同じような感覚で魔法が扱えるからね。

 まあ、与太話をしている暇はないだろう。いくらなんでも魔法の使い方を知らないまま放り出すのは酷だからちょっと呼び止めただけだし。この世界について知りたいことがあれば、後々相談に乗るよ」

 それだけ言い残し、當間は強制的に覚醒させられるのであった。


 経過時間としては、立ち上がろうとして急に立ちくらみに襲われたぐらいか。それでも、克明に水流のイメージが脳内に残っていた。相手が悪党とはいえ、不意打ちで大洪水攻撃を仕掛けるほど當間は鬼ではない。とはいえ、相手をお仕置きするぐらいの力は手にできたようだ。

 いわば魔法のチュートリアルのためだけに介入したという、なかなかのお節介焼きではあるが、當間の自信をつけさせたという点では感謝すべきであった。


 問題の修羅場の状況を確認するや、先ほどよりも事態は悪化していた。盗賊のうち一人が、巨大なエネルギー弾を発射しようとしていたのだ。ピンポン玉をぶつけられるより、バスケットボールをぶつけられる方が痛いというのは経験則として分かる。そのうえ、直感としてあれを受けたら「痛い」所では済まないのは確実だ。

 もはや今の當間に迷いなど存在しない。あの時とは違う。体の内から湧き上って来る摩訶不思議な力が、邪悪に立ち向かう意思を、勇気を与えたのだ。

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