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断罪の咎人トーマ  作者: 橋比呂コー
Mission1 通り魔を退治せよ
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2-1 少女と盗賊

木々が入り組んだ森の中を一人の少女が疾走していた。カールした髪を揺らし、くるぶしまでかかるスカートを少したくし上げながら懸命に走り続ける。フランス人形のようなかわいらしい顔立ちも、あまりの必死さで歪んでいた。そして、背負っている風呂敷包みはパンパンに膨れ上がっていた。

 その少女、マーヤを追うのは屈強な男たち三人組。いずれも刃物を片手に威圧している。頭にバンダナを巻き、ストライプのシャツと布の腰巻。物語世界によくいる、典型的な盗賊の恰好を惜しげもなく披露していた。


「待ちやがれ、このクソガキ」

「クソガキではないのです。マーヤにはマーヤという名前があるのです」

「てめぇの名前なんざどうでもいい。舐めたマネしやがって」

 血相を変えて差し迫って来る盗賊たち。これが一本道ならすぐさま引っ掴まれていたに違いないが、複雑に並び立つ樹木が追手たちの進路を妨害していた。まさに地の利がマーヤを助けていたのだが、それも長くは続かなかった。


 この手の逃走劇にはよくある顛末ではあるのだが、後方にばかり注意を払っていたせいで、マーヤは足元が疎かになっていた。盛り上がっていた木の根に足をとられ、無様に転倒してしまったのだ。


 起き上がろうとするも、盗賊たちはマーヤの周りを取り囲んでいる。這いずってその隙間から逃走を図るが、首筋を掴まれ持ち上がられてしまった。

「いきなり服を脱がそうなんて、変態なのです」

「てめぇの貧相な体になんざ興味はない。とっとと返すもん返してくれりゃこっちも文句は言わねえ」

「これはダメなのです。マーヤが生きるために必要なのです。大体、盗賊さんたちも、きちんとこれを手に入れたとは思えないのです」

「ガキんちょのくせに俺たちに説教する気か。笑わせる」

 盗賊がマーヤを放り投げると、その反動で彼女のポケットから一枚の硬貨が音を立てて転がった。マーヤはそれを拾おうとするも、盗賊のうちの一人に先に回収されてしまう。しかも、身を屈めたせいか、矢継ぎ早にポケットの中の硬貨がばらまかれてしまったのだ。それらもまた、マーヤがもたついている間に、すべて盗賊の手中へと収められていく。


「ざっとここにあるだけでも、二万ドルゴはある。いけないな、ケツの青いガキがこんなの持ってちゃ」

 ドルゴ硬貨には四種類あり、金は千ドルゴ、銀は百ドルゴ、銅は十ドルゴ、鉛は一ドルゴの価値がある。大量に散らばっている硬貨は大半が金と銀であり、目算するとそこそこ性能の高い剣ぐらいは買える金額はある。


 もちろん、年端もいかない少女がまともに稼げるとは思えない額ではあるのだが、マーヤはすっとぼけるように、

「マーヤの尻は青くないのです。少なくともあなたたちに見せた覚えはないのです」

 てんで見当違いの返答をしたのだから、盗賊たちが逆上するのは当然であった。

「どうやら、きついお仕置きをしないといけないみたいだな。その袋の中の物をいただくのは当然として、たっぷりとその体に、俺たちに刃向った報いを刻もうじゃねえか」

「こ、これはダメなのです」

 背負った袋を抱きかかえるが、盗賊の手がそれに伸ばされる。マーヤはその手に噛みつくや、全身で袋に覆いかぶさった。


「こいつ、とことんふざけてやがる」

 蹴られたことに腹を立てた盗賊が、何度もマーヤの体を蹴飛ばす。蹴られるたびに呻くが、それでも一向に袋を手放そうとしない。

「おい、いっそのことあれでやっちまおうぜ」

「あれはさすがにまずいんじゃないか。単純に殴り飛ばすよりか罪が重くなるって話だぜ」

「そんなもん気にしてられるかよ。目撃者がいなきゃ、あれを使ったなんてバレやしねえ。このガキもまともにしゃべれなくなるぐらい痛めつけてやりゃ問題ないさ」

「それもそうだな。よっしゃ、やったろうじゃないか」


 物騒な談義が終わったと思いきや、盗賊たちは急にマーヤから距離をとった。逃亡を図ろうとしたが、蹴られたせいでわき腹が痛み、上体を起こすことすらままならない。

 盗賊のうち二人が両手を広げ、マーヤへと標準を合わせる。すると、その姿勢をとった盗賊の一人が、ふと目配せをする。

「あの男、どうにも怪しいな。念のためあいつもやっておきますかい」

 盗賊の言葉をマーヤも気にかかり、上目づかいで盗賊が指差した方向を確認する。


 マーヤと盗賊たちが対峙している地点から少し離れた樹木で、一人の青年がそれにもたれかかるようにして寝息を立てていたのだ。白のコートを纏い、かなりの長身でくせ毛。そのコートはマギカでは見慣れぬものであったが、盗賊たちは魔法使いのローブの一種だと見当をつけた。

 町から外れた森の中で昼寝をしているとは明らかに只者ではなかった。第一、凶暴な魔獣も生息していると噂があるこの場所を単独で訪れること自体不可思議だ。ギルドからの依頼をこなしにやってきたのだろうか。


 だが、盗賊はその男が大した装備を身に着けていないことから一笑に付した。

「間抜けな冒険者が道に迷って、途方に暮れた挙句に昼寝してんだろ。このガキをやった後に、ついでに金目のものを奪ってずらかりゃいい」

「そうだな。あんな野郎は放っておいて、こいつのお仕置きが先だ」

 助けを期待したマーヤであったが、完全に夢の中に旅立っている男ではお話にならない。再度顔を伏せ、頑なに風呂敷を守る。


「ここまで必死に守ろうとしているってことは、相当なお宝が眠っているかもしれねぇ。さっさと頂いちまおうぜ」

 二人の盗賊の両手がほのかな紫色に発光した。

「ケヌチウ テリナ トンガンダ ヨクリョマ」

 同時に呪文のような文言を詠唱する。それに合わせ、手のひらからエネルギーの塊が徐々に膨張していく。

 人間の体からはオーラなるエネルギーの層が発せられているという。それを手のひらに集中させ、具現化しているのだ。それがさくらんぼの実ぐらいの大きさまで育ったところで、盗賊たちは叫んだ。

「マギス・バレット」

エネルギーの塊は一直線にマーヤへと放たれる。脇腹へと命中し、苦痛に呻き悲鳴を上げた。

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