解禁
進化の先に、人類は何を手にするのだろうか?
二十一世紀も半ばに迫った人類には、選択の時が迫っていた。
環境破壊に始まり、地球を蔑ろにしてきた『ツケ』を、この世代になって払わされることになるなんて、何とも皮肉な話である。
只でさえ、第三次世界大戦の傷跡が、未だに癒えていないと言うのに。
またしても、人類は試されているようだ。
生き残るのか?滅びるのか?
どちらが答えとなるのか――
それは…………。
「また、お前らかあああ!!!!何ど言ったら解かるんだ、この悪ガキが!!!!」
「そんなこと言わないで下さいよ、前坂さん。俺達だって好きで暴れている訳じゃないんですから」
昨日の夜の事件で、俺達三人は警察署に呼ばれていた。
俺、織原ジン(おりはら)はこの街の旧市街で活動する『ボマイェ』の一応リーダーってことになっているので、何かと事件が起きれば、警察に呼ばれる毎日。
正直、ウンザリなんだが、仲間のためを思えば仕方がないかと、半ば諦めている。
それに、昨日の夜のことについては、俺達が悪い訳ではない。
同じ旧市街にいる『リグレット』てチームの奴らが、一方的に俺達を襲ってきたのだから、明らかな正当防衛だと主張する。
しかし、俺達みたいな連中の話を、まともに取り合ってくれる大人はいない。
唯一この前坂のおっさんて警官だけが、俺達の話を聞いてくれる。
まあ、最終的には怒られるのだが……。
「とにかく、今は情勢が不安定なんだ。その辺をしっかりと頭に叩き込んでおけ!!」
「ああ、確かに革命家気取りの奴らが、デモを名目に破壊活動をしてますもんね。あれじゃあ、テロリストと変わらない」
「知ったような口を聞くな!!!まさか、お前達も関わっていないよな……ええ、どうなんだ?」
「い、いやだなー前坂さん。俺達みたいな子供が、そんな事に参加する訳ないじゃないですか」
第三次世界大戦に、日本は勝利した。
開戦当初は、中立を貫いた立場をとっていたが、それをよく思わなかった他国により、日本は原爆を落とされたのだった。
第二次世界大戦に続き、三度目の核の脅威に、ついに日本もこの戦争に参加することとなった。
その結果、見事勝利して終戦を迎えたが、その後がよくなかった。
東京は焼野原と化し、天皇は京都へと還都した。
そのため、首都機能を京都に移す計画が上がったが、それを良しとしない政治家達と、軍部の間で衝突が起き、終戦後の西暦二0一九年から内戦状態へと突入した。
そこに宗教や思想、さらに政治が絡み、日本は大戦時よりも極めて不安定な状態へと突入する。
その長く苦しい内戦も、それから七年の歳月を経てようやく終わりを迎えた。
西暦二0二六年のことであった。
そして、終戦から二十年の今年、各地で様々な活動が起きていた。
戦時中から続く軍隊の撤廃や、反政府活動など内戦中を思わせる程の被害が出ている。
そのことで、警察も軍もピリピリしているようで、俺達にも疑いの目が向けられていた。
まあ、そんな難しいことや、日本の将来など、俺には関係ないがな。
「それじゃあ、俺達はこれで帰ります……いいですよね?」
「ふん!!これ以上、騒ぎを起こすなよ。帰って良し!!」
一時間に及ぶ取り調べから解放され、俺達は文句を言いながら警察署を出た。
このうっ憤は、今夜でもリグレットの奴らにぶつけるとして――
俺は気になることがあったので、仲間達と別れた。
取り調べ室を出る時、前坂のおっさんが言っていたことが気になっていた。
「ジン。そう言えば、リンの姿が見えないが、何かあったのか?」
八ヶ岳リン(やつがたけ)俺の孤児院からの親友で、同じチームに所属している。
俺達は、内戦のさなか共に両親を亡くし、孤児院に引き取られた身の上で。
まあ、孤児院と言っても更正施設と変わらず、体罰やいじめは日常茶飯事のくそみたいな所だった。
俺とリンは、そんな施設から逃げ出し、旧市街で生活しているって訳だ。
そんなリンは、最近体の調子が悪く、今日も医者(闇医者)の所に行っている。
もともと、体が弱い方なので、心配していた。
前坂のおっさんの言葉を聞いて、いてもたってもいられず、リンの所へ向かった。
病院に向かう途中の小さな公園で、ベンチに座るリンが目に留まった。
公園と言っても本当に小さく、ベンチと鉄棒があるくらいの公園だった。
そのベンチに座り、黄昏ているリンに俺は声をかけた。
「おーいリン!!何やってんだこんな所で?」
「………ああ、ジンか。別に、病院の帰りだよ」
「そうか……で、どうだった?」
「どうもこうも、原因がはっきりしないらしい。一応薬は貰ったけど、当てになるかどうか……」
リンは、医者からもらった薬の袋に目線を送った。
何て事のない解熱剤のようで、結局体調不良の原因は解からなかったようだ。
最近、リンは激しい頭痛と微熱に悩んでいた。
この間もバイクで移動中に、頭痛に襲われ事故を起こした。
幸い怪我はなかったが、それ以来、元気のない日が続いている。
リンの身に何が起こっているのか、俺はそのことが心配だった。
「まったくあのヤブ医者!!リン、他の病院で見てもらおう」
「そうだな………それより、前坂のおっさんに呼び出されたんだろ。何って言ってた?」
「ああ、それがな――」
取り調べの一部始終をリンに話した。
リンは黙って話を聞いて、相槌を打つ。
俺のしょうもない話を楽しそうに聞く、リンの顔にちょっとだけ元気が戻った。
何せよ、元気が戻ったことは喜ばしい。
すると、リンは俺にこう言った。
「それで、リグレットの奴らはどうするんだ?」
「そうだな………あいつらのせいで警察にまで呼ばれた訳だし、きっちりと落とし前を付けさせてやる!!」
「そうだね……よし、俺も行くよ!!そうと決まったら、準備をしなくちゃ。行こうジン!!」
「お、おい――」
リンは席を立ち、アジトへと足を進める。
俺も後を追うようにして、小さな公園を後にした。
それよりもリン、体は大丈夫なのか?
俺は、そんな事ばかりを考えていた。
アジトに帰ると、数人の仲間がすでに準備をしていた。
壁には落書きの数々、床には食べかけのピザが散乱していて、お世辞にも綺麗とは言えない。
だが、ここが俺達の住処だ。
社会から見放され、まともな仕事に就けない俺達には、盗みや強盗、殺人以外何でもやるしかない。
そんな奴らの集まりが俺達のチームであり、家族だった。
だから仲間意識が強く、昨日の事でも、何人かが怪我を負っていた。
「ジン、リン戻ったか。今夜はどうする?」
「もちろん、リグレット狩りだ!!準備はいいかお前らああ!!!!」
「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
すでに出る準備が整っていたようで、俺の帰りを待っていたようだ。
俺はいつものように、車の後部座席に座り指示を出した。
「行くけえええええええええ!!!!」
車やバイク、数十台が一斉に走り出した。
爆音を響かせ、地鳴りを上げて走る光景は、いつ見ても圧巻する。
この時だけが、全てを忘れさせてくれる唯一の時だ。
しばらく走っていると、リグレットと思しきバイクが走っているのが目に留まった。
車内にあった鉄パイプに手を伸ばす。
さて、リグレット狩りの開始だ!!