ぬか漬けのはなし
あんだけ偉そうなこと抜かしておいていまさら言うのは気がひけますが……実は私、そんなに料理得意じゃありません。理論はできても実技がダメなタイプで、私の手には常に包丁で切った傷があります。自殺志願者とかじゃなく、すべてうっかりの産物……。
味付けも特筆するほどうまいわけじゃなく、ぶっちゃけ自分の舌を全く信頼していません。味付けの時はたいてい家族のだれかを引っ張ってきて味見を頼みます。私ひとりだと薄味すぎる代物が出来上がるんだそうです。
基本迂闊なもので何をしでかすのか分からないので、一人で料理するなとすら言われています。
が、そんな私が唯一自分ひとりでどうにかできるもの。それがぬか漬けというわけです。だってあれ、火を使わないし。
作り方は簡単。炒りぬかに塩と水と、好みで唐辛子を混ぜたものを用意します。何度かクズ野菜を適当に漬けては捨ててを繰り返します。いい感じに味が落ち着いてきたら、毎日しっかりかき混ぜてぬか床を空気に触れさせて、好きなものを漬けこむだけです。あ、夏はできれば一日に二回くらいかき混ぜてください。発酵が早いから。
野菜ならば大抵のものをつけられるそうですが、ピーマン・ネギ・タマネギはお勧めしません。あと香味野菜系統も。ぬかににおいがついて後処理が非常にめんどうくさいんです。私のお気に入りは野菜なら定番のキュウリ、ミョウガ、ダイコン、ニンジンあたりでしょうか。ヤマイモもおいしいです。
一番のお気に入りはゆで卵! 鍋にお湯を沸かして沸騰したらちょっと塩を入れて、卵のおしり(立てたときに尖ってないほう)に穴をあけたらゆっくりとお湯の中に。卵に穴をあけるのは専用道具でもいいですし、なければ画鋲で十分です。鍋の中をかき混ぜながら(こうすると遠心力で黄身がきちんと真ん中にとどまるんですよね)大体七分弱茹でて、冷たい水で一気に冷やします。で、殻をむいたらぬか床に入れるだけ。半熟の黄身にほんのり塩味がついて美味です。
そうそう。ゆで卵を作るときに、殻がゴミになりますよね。それ、捨てないでください。裏側にある薄皮をはがして捨てて、殻を細かく砕いてぬかに混ぜ込むのをおすすめします。炭酸カルシウムがぬか床内のpH値をうまいこと調整してくれるんだとか。
きちんと世話をすれば、それこそ子々孫々にまで受け継ぐこともできるというぬか床(今のところ子供どころか配偶者もいませんけどね!)
使い込んでいくほどに愛着がわくものです。世の中にはぬか床をダメにしたという理由の夫婦げんかもあったとかなかったとか。なので、ある日「ぬか床を混ぜようと思ったら、ぬかが消えて水につかった野菜と化していた」なんて夢を見たときは思わず台所に走りましたよ……。無事で、夢でよかったです。本当に!
ぬか床は使っているうちに水がたまってゆるくなります。そんなときは昆布や干しシイタケを入れて水分を吸わせたり、水抜きの道具をネットかホームセンターで買ってきて使ってください。一番お手軽なのはキッチンペーパーに吸わせることですけど、さほど効果は高くないので。