やっぱり悪い知らせです。
部屋に入ると使者だという人が。
「レオタール侯爵の次女、クリスティーヌと申しますわ」
人と接するにあたって気をつけることがいくつかある。
一、ルリアを引き立てること。
二、出来るだけ存在感をなくすこと。けれど偉そうな雰囲気を醸し出させる。
三、微笑みは絶やさず、人の視界にはいらないようにすること。
まぁ、他にも色々ある訳だけど、特にこの三つは多く活用している。二を発動して一を行いつつ、三をすればほぼ間違いなく私は多くの人の記憶に残らない。ただ…二の後半と前半の比率はかなり難しい。
声は簡潔明瞭ではないが聞き取れないほどでもないように。
貴族と言うのは煌びやかで華やかであればいい、というわけではなく、腹に一物抱えた腹黒達がのさばる、森に住んでいる野生の魔獣・猛獣達よりもずっとやっかいな生き物だと私は思っている。心の中がタダ漏れでは貴族社会ではやっていけない。よって三は必須だ。どんな時も笑顔…。正直辛い。
「レオタール侯爵様からレオタール侯爵令嬢クリスティーヌ様へお手紙です」
「……手紙?」
「どうぞ」
使者がとりだした白い封筒を半信半疑で受け取る。
……確かにお父様からですわね、ホホホ……
内心はがっかりしながら、外面は使者へ微笑んだまま頷いた。
「確かに受け取りましたわ。お父様へよろしくお伝えくださいませ」
「こちらへ」
ルリアがすぐに使者を部屋の外へ穏便に叩き出す。
別の誰かに使者の見送りを頼んでルリアは部屋へと戻ってきた。
「本物でございますか?」
「うん……びっくりなことに本物でございますのよ」
「何の用でしょうか」
「ほんと、何の用なんだろ」
「嫌な予感がするのが杞憂であるとよいですね」
「……ルリの嫌な勘ってあたるよね」
「………」
ああ、自覚はあったんだ。
ルリが神妙な顔をして黙ったのを現実逃避ぎみにそんなことを思いながら、とりあえずー…と切り出した。
「部屋、戻ろう」
◇◆◆◆◇
私は目の前にある封筒をじーっと見つめた。
簡素な白い封筒には確かに家紋の印が押され、「サマエルより」という字は確かにお父様の文字であった。そして中にあった手紙の最後には「私が愛するクレアと私との娘クリスティーヌへ。クレアの男、サマエルより」とまさにいかにもお父様らしい署名がある。苦笑しか出ない。
「…お父様、だよ。この字は確かに父様だけどなんていうかこの最後の文がお父様じゃなかったら私裸で町のなかを逆立ちで歩くよ」
「もしこの手紙がサマエル様のではなければ私もそれにお付き合いいたします」
二人で顔を見合わせて微妙な顔をして頷きあった。
私は意を決して手紙を読み始めた。
『………娘、クリスティーヌ。
私は今非常に幸福だ。
なんと陛下が私とクレアに王宮の一部屋を下さることになった。 これで私は朝と昼と夜、クレアに触れていられる!
陛下は私とクレアが一緒の部屋を貰う交換条件として家族全員が王宮に住むことと仰られた。
ジュリアーヌとキャロルは既に後宮の一角に部屋を貰った。
フェリクスはオズワルドの所に、レオンスは騎士宿舎に行った。
一ヶ月以内に王都に来ること。
お茶をいれてくれているクレアが可愛すぎるので今からクレアを食べようと思う。
王都で会えることを楽しみにしているよ。
私が愛するクレアと私との娘クリスティーヌへ。クレアの男、サマエルより』
………………とりあえず。
「手紙で親の夜の営み報告せんでいいわぁぁぁぁ!!!!!」
と叫んだ私は間違っていない。




