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使者ですかー……。

なんとも微妙な気分になりながら私は使者の待つ部屋へと歩いて行く。

ルリは少し後ろからついてきている。


「ねぇ、ルリ」


「いけません」


「…まだ何も言ってないよ?」


「使者の方がいらしたのですから逃げ出してはいけません」


「なんで私が対応しないといけないのー」


「使者の方がお嬢様をご指名になられたからです」


「…はあ…」


だから、なんで?


お父様は正直に言ってお母様にしか興味がない。

彼の世界はお母様クレア中心で回っている。


そうだ、言い忘れていた。

兄弟は五人。

姉、兄、私、弟、妹だ。

まあ、あれだけイチャイチャしている割には五人という数は少ないほうではないだろうか。

兄弟達の説明はのちほど、たぶん、作者が面倒だなとか思わなければ(もうこの時点で思っているのだけど)書いてくれる、だろう……


お父様が私に用事って、あれかなあ、お母様をどうやって言いくるめるか、とかかなあ。

ちなみに、今の私の年齢はもうすぐ十九歳。

上の相談を親から持ちかけられる――それも男親――など可笑しいがお父様には前科がある。

三歳の時、突然お父様の執務室に呼び出されどぎまぎしながら行った私に開口一番、


「クリスティーヌ、最近クレアが構ってくれないんだ。どうすればいいと思う?」


と 本 当 に !


本当マジに!


聞いてきたのだ。

その時はさすがに絶句した。

一瞬、私が前世の記憶を持っていることがばれたのかと思ったけど…違った。後で聞いてみたら兄も姉も三歳の時に同じことを言われたそうだ。

ちなみに、お父様はバカではない。

お母様馬鹿かと聞かれたら世界中の人間が頷くが馬鹿ではない。

お父様が私に相談した時の微笑みを見て嫌でも言いたいことは理解できた。

要するに、だ。


クリスティーヌ?私とクレアの時間のために自重しようね?


ということである。三歳という年は母親に甘えたい盛りである。

そのため父と母の触れあいを邪魔している、と。

私はすぐにそれを察知して(この時程前世の記憶があって良かったと思ったことはない)「お父様、お母様にサプライズプレゼントなんてどう?」などと言ってお父様の気をそらした。あの笑みは怖かった。ナポレオンの話をした次の日、バラの花を一面に敷き詰めた玄関(といっても螺旋階段とかある、あれね)に感動して瞳を潤ませたお母様とこの後の片づけを想像して涙目になった執事長とメイド長達召使との対照的な差は忘れない。

その時の教訓を生かして、下に出来た弟と妹の世話は私が一手に引き受けた。


お父様はお母様のことになると周りが見えなくなるのだ。


さて、とりあえず私は今、使者が来ているという部屋の前にいる。

ため息を一つ。


「ルリ、入りたくない」


「駄目です」


「…うん、だよねー」


分かってるよ…。

駄目だと言いながら苦笑してくれるルリは優しいと思う。


……はぁ。



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