騎士たちの処遇です
平和的解決を望みます。
……遂に週間ランキングにも……!
ありがとうございます、ありがとうございますっ!
さて、さて、気になる騎士さん達の処遇は……?
魔具……それは道具。
魔具……それは魔力の少ない者でも使いこなせる道具。
魔具……それは不器用な物も簡単に扱える道具。
平民が買える値段の魔具は、使い捨ての物だけだ。その分、種類は多い。
だが、永久的に使えるような物は、数も殆どないし、貴族、はたまた、王族であっても簡単に欲しいと言えるような物ではない。
金持ち達が主に買うのは、平民と同じ使い捨てのものか、もしくは、半永久的な魔具。それでさえ、普通の平民の給料、一ヶ月分~五年、十年にもなる物もあるのだ。見栄のために買う人は少なくないが。
宮廷魔術師達の、これからの頑張り次第で如何様にも変わるのだろうが、今は研究と発明、閃き、それから、試行錯誤のみである。
先ほど、兄様がお父様の執務室に来た時に使っていたのは、恐らく陛下も知らない、宮廷魔術師の最新魔具。試作品だろう。効果はたぶん、防音、とかだ。きちんと発動されていたので、成功とみていい。
兄様は、私が素で話せるように用意をしてくれたのだろう。
というような、現実逃避はそろそろ通用しないようで。
目の前には、土下座している騎士さん二人、それを、ぽかん、と見る姉様。
兄様は、目つきが鋭くなってきていて、ルリは二人を見る目がさっきの気持ち悪い男を見た目つき以上に冷たい。
私は、と言えば、それらを見まわして空を仰ぐくらいしか………こんな何処かよくわからない場所で何故こんな。
「……説明して頂けますか、フェリクス」
「さぁ、私にもちょっと……クリス」
「私、お姉様とお茶を飲みたいですわ」
あぁ、兄様と姉様の視線が痛い……
いいじゃないですか、現実逃避しても。
姉様は私じゃ埒が明かないと理解したのか、ルリアの方を向いた。
「ルリア、説明して頂戴」
「はい、ジュリアーヌ様。そこの馬鹿どもが、フェリクス様がいなくなった後、お嬢様に剣を向けたのです」
「なんですって!?」
「…………剣を」
やーめーてー
私、気にしてないよ。
いつものことだから、気にしてないから、慣れてるから、止めてぇ
怖い。
兄様と姉様、怖い。ルリはこの二人が剣を向けた時からだったけど、兄様と姉様が怖い、怖すぎる。
何が怖いって、兄様、笑顔なんです。
凄く怒ってるのに、笑顔なんです。
そして、隣にいる姉様は、無表情なんです。
目元は笑っているような感じがしないでもないのに、遠くから見たら土下座した騎士に朗らかに笑いかけてる兄様と姉様にしか見えないだろうに、何故か、近くで見ると無表情なのだと分かる、ある意味不思議な表情。姉様って器用ですよね、表情筋。
二人とも威圧感が半端ないです。そこらの冒険者とか騎士じゃ、太刀打ちできないくらいのプレッシャーが……
「お兄様、お姉様!」
私が止めるしかないじゃないですか! ルリは全然止める気配……むしろ、ニコニコ見守っているよ。怖いよ。この状況で、その笑顔!
「とりあえず、中に入って落ち着いてゆっくり話したいわ」
……ちょっと、泡ふかないでよ、騎士さん
◇◆◆◆◇
泡を吹いて倒れた騎士二人を、兄様がそれぞれの片足を持って引きずるように、いや、引きずって、姉様が出てきた部屋の中に入った。
ドン、という音が聞こえてきそうな勢いで騎士二人を放り投げた兄様は、あっという間に二人を縛り上げ(どこから縄をだしたんだろう)、一足先に部屋に帰っていた姉様の隣へと腰を下ろした。
部屋の中は、桃色と白とレースがふんだんにあしらわれていて、おとぎ話の『御姫様』の部屋そのもの。
いくつか扉があるのは、寝室、浴室、と分けられているからだろう。
バルコニーもある。ここからでは詳しくは見えないが、植物があるのは分かるので、バルコニーもまた乙女仕様なのだろう。後でよく見せてもらおう。
いくつかある窓は全て開けられ、心地よい風が吹いている。
客間だと思われる部屋の中央にあるレースったっぷりの白いソファに座る兄様と姉様は、正しく、深層の姫君と白馬の王子様。この場に画家がいれば、絶対に絵にしたくなる素晴らしさだ。
可愛らしいテーブルクロスの上には、三人分の紅茶と御茶菓子が向き合う形で置いてあったが、姉様の向かいにあるカップの中身は半分ほど減っていた。さっきの男が飲んだものだろう、と推測しながら、私は姉様と兄様に見惚れていた。
「クリス? どうしたのですの? 座らないのですの?……あぁ、わかりましたわ、ちょっと待ってて」
「え」
「アビー!」
私が二人に見惚れて座るのを忘れていたのを、どう勘違いしたのか、姉様は知らない名前を叫んだ。
すると、寝室かなあ、と思っていたドアから赤毛の女性が入ってきた。
美人でも可愛らしい訳でもないが、どこか愛らしいと思わせる女性。
彼女は部屋に入ってきて見まわし、フェリ兄様を視界にいれて少し硬直したがすぐに、一礼した。
素晴らしい、兄様を見て固まらないなんて、なんて仕事のプロ。
「はい、ジュリアーヌ様。お呼びでしょうか」
「休憩中なのにごめんなさいね」
「いいえ。私たちはジュリアーヌ様の使用人として配属されておりますので」
「そう、ありがとう。すまないけれど、私の目の前にあるこの食器……捨ててもらえるかしら。それから、その肘掛け椅子は念入りに拭いて、机の上も。カバーは洗濯、肘掛け椅子は間に合わせでいいから、取りあえず、代わりのものををここに置いて頂戴」
「かしこまりました。直ちに行います」
不可解な姉様の命令に、アビーと呼ばれた女性は、眉一つ動かすことなく、出てきた部屋に戻ったと思ったら、後ろに何人か連れていて、姉様の注文を滞りなく済ませ、窓も閉めて、
「それでは、失礼いたします」
と、出て行った。
その間、私とルリは黙って見ているだけだった。姉様はメイド達が居なくなったのを見て、私に輝く笑顔を向けて、椅子を示した。
「さぁ、これでいいですわ。ごめんなさいね、あんな男の座った後なんかに座りたくないですわよね。私なんか、見るのも不愉快だったのですもの。アレが座った後に、可愛い妹を座らせることなんてできるわけありませんわ」
「あの男……ですか?」
「えぇ、そこで会いませんでしたの? 目つきが嫌らしい気持ちの悪い男のことですわ」
あー…えっと、子爵のこと、かな。
速攻で名前忘れたから、そこしか覚えてないけど。
あ、兄様、目つきが。
「あぁ、あの……ティーを一夜の相手にしようと目論んでいたアレのことを姉上は言っているのでしょうか」
「………なんですって」
「私が出てきたときに、身分不相応にもティーの顎に手を置こうとしておりましたので私がはらっておきました」
「よくやったわ、フェリ。後で色々相談しなければいけませんわね」
「ええ、色々と……」
色々って何!?
思わず、突っ込みそうになった私はぐっと拳を握って我慢した。
兄弟達への突っ込みは、出来るだけ回避することを、生きていく中で私は覚えた。
聞くんじゃなかった……!と思うことのほうが多かったからだ。
落ち着くために、先ほどのメイドさんが新しく持ってきた―――豪華ではあるが可愛らしくはない―――ソファに座る。
メイドさんが用意してくれた紅茶を一口飲んで、落ち着いた。
ルリは、私のすぐ傍に控え、姉様と兄様は私を微笑ましげに見つめている。
柔らかな雰囲気に、ほっとして姉様にどうしてこんなことに?と告げようと口を開こうとしたところで、視界に入ったものに「あ」と声を上げた。
「どうしたのですの、クリス」
「どうしたんだい、クリス」
「お姉様、お兄様……あの、騎士の方々について話し合わなければならないと思いますの」
「あら、あのような馬鹿はフェリクスに任せて置けばよいのですわ。いいようにするわよね、フェリクス」
「勿論ですよ、姉上。クリスも心配しなくていい」
あぁ……何時の間にか目を覚ましていた騎士の人たち、また滝汗かいてるよ……顔も真っ青と真っ白だよ。
でも、この人たち、別に悪い人じゃないと思うんだけどなあ、実力はあるっぽいし、う~ん……
「お兄様、お姉様。今回は許してあげるべきだと思いますわ」
「! お嬢様っ! 剣を向けられたのですよ!? 何を甘いこと言ってるんですか!」
わぁ……まさか、ルリから抗議がくるとは。
「あら、でも、実力はあるのではなくて? それなら、状況判断の出来ない馬鹿でも、お姉様の護衛としていてくださったほうが嬉しいですわ。実力のない、状況判断度できる騎士がきても仕方ありませんもの」
「何言ってるんですかっ!! フェリクス様の連れの方に剣を向けただけで打ち首ですっ! 死刑ですっ! 拷問後、クビです! クビ!!!」
ルリ、凄く過激だね。
必死の形相で訴えてくるルリに苦笑を返す。でも、まあ、ルリが言っていることの方が正しいんだよね。
仕方ない、正直に言おう。
「だって、ここで急にお姉様の護衛騎士が変わってしまったら、私、変な方向に目立ってしまうわ。それは嫌ですもの。ルリアもそのことは知っているわよね? ね、お兄様、お姉様、だから彼らは、そのままにしてくださらないかしら。次に状況判断を先走って馬鹿なことをやったら、問答無用でお二人の好きなように扱って下さって構わないわ」
じっと、兄様と姉様を見つめて、何拍か経つと諦めたような顔をして兄様が笑った。
「……仕方ないな……私は構わないよ、姉上の護衛だし。剣を向けられた本人もこう言っているからな」
「お兄様、大好きですわ」
「私は愛しているよ」
姉様は、と見ると、美しい顔を歪めて花の模様がついたティーカップに入った紅茶を見つめている。
葛藤しているようだ。
しかし、それもすぐに諦めた顔になって苦笑に変わった。
「まあ、分かりましたわ……クリスがそういうなら私も今回は目を瞑ることに致しましょう、フェリクス」
心得た、とばかりに立ち上がった兄様は、ぱぱっと騎士二人の縄を解いて、お尻を蹴り上げた。
「「い―――っ!」」
「さっさと持ち場に戻ってくれるかな、馬鹿ども。可愛い妹が嘆願しなかったら、それこそルリアが言った通り、クビだったんだけどね。ああ、その前に裸、逆立ちで王城一周か。感謝しなよ」
「え、あ……」
「返事もできないのかな、ここの騎士は」
兄様の容赦のない口調にガクガクと顎が外れそうなくらい首を振った二人に、同情の視線は流石に私も向けないが、私のお願いを聞いてくれた兄様と姉様には、後で何かお菓子でも差し入れしておこう、と心の中でひっそりと決意していた。
騎士二人が扉へ猛ダッシュをし、飛びつき、開けようとしたところに、姉様が更に追い打ちをかける。
「―――――次は、ありませんわよ」
「「はいっっ!!!!!」」
これ以上ないくらい、素敵なお返事が返ってきたのだった。
あぁ、よかった。平和的解決に持ち込めて。
いい事をした私は、いい気分で美味しいクッキーを食べて――といっても、この世界の食事事情はそこまでよくないので、この世界の中ではという基準になるが――紅茶を飲んだ。
「よし、いいですわ……フェリクス」
「ちょっと、待ってください………………………いいですよ、姉上」
「ん?」
兄様が何かしていると思ったら、さっき父様の執務室で使った魔具を取り出し、発動させた。
と、その瞬間、
「ティー!!!! 大丈夫よね?! アレに触られたりしてないわよね!? ああぁぁぁぁ、もうっ! 私より先にフェリが会ったのは仕方ないけど、アレが先に会って貴女に話しかけたのが腹が立つわっっ!!! ちっ……あの男、本当に閨に誘い込んで捩じり斬ってやろうかしら!」
「何を!?」
「そんなの決まっているだろう? ナニをだ」
兄様ぁぁぁぁ、ちょ、え、姉様も、あの、えぇぇぇぇ
「ジュリアーヌ様のお手を煩わせる必要はございません。私がやります」
「あら、なら二人のほうが面白くないかしら」
「ちょっと、ルリ! 何言ってるの!? 姉様も兄様もルリも! そんなことさせないからね!?」
「…まぁ、相変らず、ティーは優しいわね…」
優しいとかじゃないと思う。
私、間違ってないよね? 間違ってないよね?
「まあ、アレをどうするかの議論はそこら辺で止めて、本題に移ろうか」
兄様、冗談とは言ってくれないんですね……
お姉様の話し方が決まりません。
どうしよう。
お姉様もお兄様も何だかんだ言いつつ、クリスティーナに甘いです。
一応、苦言を言うのはルリの仕事。
でも、結局は受け入れてしまうのです。
ちなみに、フェリとジュリが騎士がいるのを忘れていたのはワザとです、当然ですね(おい