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風を裂き、道を切り開き、二人を新世界へと運ぶビッグ・マシン。男は少年の如く、どうしようもない位に「ワクワク」を止められず。女はそんな男を、全てを、受け入れて、ただその身を任せる。
「海へ行こう」男は突然言った。女は一瞬、驚いた表情をしたが、すぐに微笑んで「うん」と言った。二人はベッドから飛び起きると、いそいそと身支度を始める。ブラの紐を直す女を、後ろからソッ、と、抱きしめる男。二人ともまだ下着姿。「これじゃあ、いつまで経っても出かけられないよ」と笑う女。「そうだな」と一言呟き、男は彼女の首にキスをしてゆく。一度、二度、三度、と、キスをされる度に女の顔は色を帯びてゆく。そうして、二人とも無言となり、夜明け前の部屋には、唇が首筋を這ってゆく音と少し荒げた息遣いとが静かに響いてゆく。女は振り向き、男の頭を抱える様に腕を回し、思い切り、熱いキスをした。男の全てを求めるが如く、その唇を貪っていった。二人の荒い息が木魂し、やがて、唇と唇がゆっくりと離れる。外の薄明かりで青く染まる女。その顔は何かを求めている表情であった。男は親指と人差し指とで彼女の頬を弄びながら、「愛してる」と囁いた。女の顔に喜びが満ち溢れ、今度は優しいキスをした。
まだ夜が明けきらない街に、エンジン音が鳴り響いている。女が玄関を出ると、そこにいたのは現代の騎士か、又は王子か。男はフルフェイスのメットを渡す。形も、色も、そして貼られたステッカーも。揃いにしたヘルメット。女が水色が好きだから貼った、水色の星型のステッカー。二人が二人で在り、二人でいる証。男が一度は捨てようとして捨てられず、もう使うことも無いだろうと思われたにも関わらず、大事に保管してあった揃いのメット。再び。あの頃の様に……。女は少し泣いていた。
二人とも歳を取った。様々なことが変わった。髪型も、顔立ちも、背丈も。そしてバイクも。何もかもが昔とは違う。そのはずなのだ。それでも、二人はあの頃の二人を感じている。昔とは違う相手を、昔と同じ様に、いや、昔以上に愛せる。今二人が乗っているのは、タイムマシン。魔法の絨毯。翼の生えた白馬。
トンネルを抜けると、あの頃と同じ海が広がっていた。二人がもう一度、いや、何度でも見たかった海。「二人でないと見れない海」、「二人だけの海」だ。
もう、あの頃の少年と少女はいない。いるのは、ただの男とただの女。あの頃に戻ってやり直すのでは無い。新しい二人で、新しい想いで、新しい道を行くのだ。
朝焼けの海岸、砂浜の上で、もう一度手は繋がれる。