王妃って?①
ついた先は後宮の最奥の王妃の間であった
そこは王妃の間というには簡素なほど調度品がなかった
生活用品が置かれ、まるで中流階級の奥方が頑張って作ったような部屋内部だ
だが置かれている調度品は簡素であるが一級品である
「さぁさぁ入って!!」
呆然と部屋の内部を見つめる紫紋達に声をかける神楽
声に促されるように部屋に置かれた椅子に腰をかける
目の前の黒の丸机に二匹の黄金の竜が掘られている
「ふふっ。簡素な部屋で驚いた?」
「えっ・・」
「ごめんなさいねぇ。本当だったら王妃の待ってものすごい豪華なんでしょうけど、そういうの苦手なの。質素な方が好きなの。貧乏性でしょう?」
笑顔で話しながらお茶を用意する神楽に紫紋は呆気にとられていた
昨日間違いなければ私はこの人に刃を向けた
殺すつもりで刃を向けた
今も帯の下に隠した小刀をいつでも抜けるようにしている
「その剣は抜いちゃダメよ。抜いたら夫が怒ってしまうわ。・・・はぁ、話していたら来たわ。」
慌ただしい足音が近づいてくると思ったらバンと音を立てて扉が開いた
「神楽!!!!!」
全力疾走してきたのだろうか息も絶え絶えに璉国王が叫んでいた
あまりの怒気に紫紋の女官達は腰を抜かしてしまった者もいる
「あらあら」
暢気な声と共に立ち上がった神楽は腰を抜かした者の傍に寄って
「大丈夫?」
声をかけた女官は一瞬は差し出された手に縋ろうとしたが、差し出した人物が誰かを思い出した瞬間その手をはね除けていた
バシンと響いた音と同時に部屋を包み込んだ殺気
「ひぃぃっ」
悲鳴をあげて紫紋達の女官達は腰を抜かしてしまった
紫紋ですら顔面蒼白で殺気を出している人物に目を離すことが出来ない
ゆらりと動いた閃王は腰に差して剣を抜いた
誰一人として動くことが出来ない
イヤ呼吸すらうまくできない
閃王の黒き眼がたった今妻の手をはたいた女官を捕らえている
見つめられた女官は両目から涙を流し、ガチガチと震えて歯が鳴っている
「この馬鹿!!今すぐその殺気を引っ込めなさい!!」
ゴンと王の側頭部に軽めの手刀した神楽によって一瞬で殺気は消えた
それでも部屋に残った嫌な空気が包まれている
心臓を鷲掴みされたような心底冷えるような怖さに誰もが怯えた
そんな空気を全く気にした様子もなく神楽は
「ったく!誰よ!!王を呼んだのは!!それに何やってるの!!さっさと仕事に戻りなさい!!今日は他国との会議の日でしょう!!」
幼子をしかりつけるかのように腰に手を当てて怒り出す神楽に
有るはずもない尻尾と耳が王に見えるような気がする
ショボーンとしなだれて怒られた子犬のようだ
「だけど・・・神楽・・・。」
叩かれた手を取り優しく撫でている
ゆっくりとした撫で方は愛撫にも似た動作だ
それでも神楽はにっこり笑って
「まじめに仕事しなさい!!」
撫でられていた手をスルリと外して外を指さした
「!!!!!」
大きく開いた眼は先ほどまでの殺気は消えてしまった