憎しみの刃
「父上の恨み!!!!」
小刀を持って駆けだした紫紋姫は
目の前にいる夫の母神楽に刃を向けた
ガッキィィィン
金属音が響くと小刀が跳んだ
「捕らえよ!!」
「ぶ、無礼者!!」
「反逆者だ!!」
叫ぶ臣下達を尻目に神楽は竜祥によって取り押さえられた紫紋を見つめる
刃が向いた瞬間、竜祥が紫紋の羽織を掴んで紫紋の歩みを止めさせた
刃は神楽が持っていた扇によって飛ばされた
王である閃はすぐさま神楽を引き寄せたが
それを神楽は手で制した
「父上の敵!!!我が恨みを思い知れ!!」
取り押さえられても瞳の憤怒は消えることはなく
ただひたすらに見つめてくる
「姫様!!姫様!!」
紗萄国の兵達はすでに捕らえられ、ただあたふたとしている
それを見る限りでは彼らは何も知らずただ姫の単独行動だと分かる
「何故このようなことをなさる?紗萄国は我が国と争いたいのか?」
騒がしい中、王妃の声にその場は静けさを取り戻した
「知れたことを!!あんたのせいで我が父は!!・・・殺してやる!!」
「死ぬのはあんたの方だ。紫紋姫」
紫紋姫の血を吐くような声に応えたのは凍えるような閃王の一声だった
「一国の王妃に刃を向けるなどあってはいけぬ。ましてや我妻ぞ。罰を受けるはそなただ」
「なら殺しなさい!!生きていても戻れぬ身、最後まであがいてみせる!!!」
幼い少女とは思えぬ程の力強さに竜祥の手も力を入れる
誰もがことの成り行きを静かに見つめた
そのピーンとした空気を破ったのは
「ならば、竜祥。この者を娶りなさい。」
「「はぁ?」」
夫と子供の声が重なった
「竜祥。女はこれだけの敵の中でも物怖じせず、度胸のある女の方がよい。良き妻になりそうだ。」
笑う神楽に誰もが開いた口がふさがらず刃を向けた紫紋さえ呆然と見つめていた。