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反転

スキルの種


床に落ちていた二つのスキルの種を、俺は手のひらの上で転がした。


小さな粒だ。


見た目はただの石みたいなのに、これでスキルが手に入るらしい。

話には聞いたことがあるが、俄かには信じられない。


「……なあ」


俺は凛を見る。


「これ、凛が使えばいいんじゃないか」


凛がきょとんとした。


「え?」


「さっき助けてもらったし」


腕の包帯を軽く叩く。そうでなくても、ミスリルスライムも実質凛が一人でやったようなものだ。

俺のスキルでレアアイテムが出たにしても、それを自分の手柄のように振る舞うのは流石に気が引ける。


「もらってくれ」


防御力上昇。敏捷性上昇。

どちらも凛の戦闘スタイルには合っている。


だが凛は、少しだけ呆れた顔をした。


「神谷さん」


「ん?」


「さっきみたいに足を引っ張られると困るので、自分で使ってください」


凛は真顔で言った。さっきのことで少しガッカリさせてしまったのかもしれない。


「いや……お礼の意味ないじゃないか」


「あります」


凛はきっぱり言う。


「神谷さんが強くなれば、探索効率が上がります」


「それが一番です」


あまりにも合理的な答えだった。こちらに気を遣っている様子は一ミリもない。


俺は苦笑する。


「じゃあ、遠慮なく」


そう言って、種を一つ口に入れる。


カリッ。


石みたいな感触が一瞬して、口の中ですぐに溶けた。種というより飴のような食感だった。


次の瞬間。


体の奥に、じんわりとした感覚が広がる。


視界の端に文字が浮かんだ。


【スキル習得】


【防御力上昇:小】


「……お」


体を軽く動かしてみる。


大きな変化ではないが、なんとなく体が安定している感じがする。


「どうですか?」


凛が聞く。


「少しだけ体の内側から固くなった気がする」


「それは多分、正しい感覚です」


凛は頷いた。


「防御系スキルは、そういう変化が出ることが多いので」


俺はもう一つの種を見た。


「これも使うか」


同じように口に入れると、こちらもすぐに溶けた。


今度は少し違う感覚が走る。


体が軽くなった。


【スキル習得】


【敏捷性上昇:小】


試しに軽く動いてみると、足が少しだけ軽い。


続けてトントンと跳んでみる。

自分の身体なのに、ふわっと浮いたような感覚があった。


急に体が変わったせいで、感覚がまだ追いついていないのかもしれない。


「……ほんとだ」


「軽くなった気がする」


凛がじっと俺を見ていた。


「どうした?」


「いえ」


凛は少し考えるような顔をする。


「やっぱり」


「神谷さんのスキル、ちょっと強すぎる気がします」


「ドロップ率反転か?」


「はい」


凛は床を見る。


「ミスリルスライムのドロップ」


「デスハムスターのスキルの種」


「普通じゃありません」


「まあ、そうだな」


俺も同意する。


凛は、少しだけ真剣な顔になった。


「こういう強いスキルには、だいたいデメリットがあります」


「デメリット?」


「例えば、発動条件が厳しいとか」


「私の戦禍の加護のように、マイナスの補正や反動があるとか」


凛は肩をすくめた。


「まだ分かりませんが、少し警戒しておいた方がいいと思います」


俺は少し考える。確かにあり得る話だ。


だが。


「まあ、もう少し試してみないと分からないだろ」


凛も小さく頷く。


「そうですね」


俺は通路の奥を見る。


「じゃあ、もう少し探索するか」


「はい」


凛が短剣を構える。


俺たちは再びダンジョンの奥へ歩き出した。


そのときだった。


通路の奥から、声が聞こえた。


「……おい」


男の声。


「坂城くん!」


聞き覚えのある声だった。


ひなのだ。


俺と凛は顔を見合わせる。


どうやら、向こうもまだダンジョンにいるらしい。


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