共同探索
ダンジョンの通路を、俺たちはゆっくり進んでいた。苔の光が淡く揺れている。さっきまでのミスリルスライムとの戦闘が嘘みたいに、周囲は静かだった。
「次はどの辺にモンスターが出そうですか?」
凛が聞く。
「そうだな……」
俺は周囲を見渡す。通路は少し広くなっている。岩の割れ目も多い。
「この辺は小型モンスターが出やすい」
「例えば?」
「例えばあの岩陰のあたりから、とかかな」
ちょうどそのときだった。
岩陰から、何かがちょこんと顔を出した。
丸い体。小さな耳。つぶらな黒い目。
……小動物?
いや、どう見ても――
「……ハムスター?」
思わず間抜けな声が出た。手のひらサイズの小さな生き物が、こちらをじっと見ている。
ふわふわの毛。短い足。ちょこん、とした鼻。
完全にハムスターだ。小学生の頃、家で飼っていたゴールデンハムスターを思い出す。
「かわいいな……ダンジョンって、こんなのも出るのか」
思わず口に出してしまった。
凛が少し眉をひそめる。
「神谷さん。それ、モンスター」
「いや、でも」
ハムスターはぴょこぴょこと近づいてくる。完全に警戒心ゼロだ。
俺はしゃがみこんだ。
「大丈夫だろ。ほら、普通のハムスター――」
その瞬間、ハムスターが跳んだ。
「っ!?」
思ったより速い。鋭い爪が腕をかすめた。
「痛っ!」
慌てて後ろに転がる。腕を見ると、制服の袖が少し裂けていた。血がにじんでいる。
凛の声が飛んだ。
「神谷さん!」
次の瞬間、凛の短剣が閃く。
ヒュッ。
小さな影が真っ二つになった。ハムスターは床に落ちて、動かなくなる。
一瞬の静寂。
凛が俺を睨んだ。
「ふざけてるんですか」
「いや……」
思わず視線を逸らす。
「かわいかったから」
「モンスターです」
「いやでも」
「モンスターです」
凛がはっきり言った。そしてため息をつく。
「デスハムスター、1匹だけだから良かったものの。小さいですが、群れると普通に危険です」
「そうなのか……」
凛が俺の腕を見る。
「見せてください」
「大丈夫だって」
「見せてください」
有無を言わせない声だった。
観念して腕を差し出すと、凛は俺の腕を捲って傷を確かめた。
「浅いですね」
そう言いながら、ポーチから布を取り出し、手際よく傷を拭いて簡単に包帯を巻く。
「これで大丈夫です」
「……ありがとう」
凛は少しだけむっとした顔をした。
「次からは不用意に近づかないでください」
「分かった」
俺は頷く。これまでパーティに戦闘を任せっきりにしていたせいか、危機意識が足りていなかったようだ。
……この体たらくじゃ、追放されたのも仕方ないか。
そして、ふと凛を見る。
こんな少女がソロになってまで探索をしているのは何か事情があるのかもしれない。さっきのスライムとの戦いといい、小さなハムスターをあっさり捉える腕前といい、相当な苦労をしたに違いなかった。
今も、包帯を巻く手つきは慣れている。真剣な顔だ。
近くで見ると、やっぱり整った顔立ちをしている。
――かわいいな。
そう思った。
「……何ですか」
「いや」
俺は視線を逸らす。
「なんでもない」
そのとき。
コロン。
床に何かが落ちた。
凛が視線を向ける。
「ドロップですね」
小さな粒のようなものが二つ落ちていた。
俺はすぐ鑑定する。
スキルの種×2
【防御力上昇:小】
【敏捷性上昇:小】
「……スキルの種?」
「二つ……?」
思わず声が出る。普通なら一つでも珍しいはずだ。
凛も少し驚いた顔をした。
「聞いたことはあります。でも」
種を拾い上げる。指先に乗るほどの小さな粒だ。
「普通はかなりレアなはずです」
「しかも二つ」
凛が少し黙る。
そして、ゆっくり言った。
「神谷さん」
「ん?」
「さっきのスキル。ドロップ率反転」
凛が種を見る。
「……これ」
少しだけ笑う。
「かなりヤバいスキルかもしれません」
《スキルの種 身体能力強化:小》
口にしたものの該当ステータスを+3する。効果はより大きなスキル効果のみが適用され、重複しない。




