目覚め
「それに私と神谷さん、相性良いかもしれません」
「相性?」
ふいに意味深な事を言われて、思わずドキッとする。
「私のスキルです」
…まぁ、そんな事だろうとは思っていたが。
俺の少しだけがっかりした様子には気付かず、凛は少し渋い顔をした。
「《戦禍の加護》というスキルを知ってますか?」
首を軽く横に振る。講義でも聞いたことがないスキルだ。
「戦闘系のスキルです。身体能力が上がります」
「筋力と敏捷がかなり伸びます」
なるほど。恐らく余程レアなスキルなんだろう。さっきの動きを見れば納得だった。
「ただ…デメリットがあって」
凛が少し俯いた。あまり言いたくないのか、少し躊躇っているようだった。
「…モンスターのドロップ率が半分になります」
「半分?」
思わず聞き返す。ドロップ率が上がるならまだしも、落ちるというのは聞いたことがない。
凛は頷いた。
「はい」
「だからパーティを組むのを嫌がられることが多いです。戦闘は出来るんですけど、探索としては効率が悪くなるので」
「だからソロ配信で稼ぐしかないので、活動資金も余裕なくて」
なるほど、だから1人だったのか。あれ程腕が立つのに不思議だとは思っていた。
「でも」
意図が伝わり、凛の言葉を遮った。凛が顔を上げる。
「俺のスキルが上乗せされれば、そのデメリットは相殺出来る可能性がある」
凛の目が少しだけ輝いた。
「……そう思ったんです」
「だから」
凛は少しだけ真面目な顔になる。
「一緒に探索してみませんか?」
少しの沈黙。狭い通路内に風の音だけが聞こえる。
やがて、俺は床に落ちているドロップを拾い上げながら、小さく息を吐いた。
「君の言いたい事は分かった」
「……まあ、でも」
俺は言った。
「今日はここまでかな」
凛がきょとんとする。
「え?」
「さっき荷物袋投げただろ」
通路の奥を見る。溶解液で跡形もなく溶けてしまった、あの袋のあたりだ。
「回収袋も回復薬も全部あれに入ってた」
肩をすくめる。
「俺にこれ以上潜るのは無理だ」
凛は少し黙った。
そして、ぽつりと言う。
「……帰るんですか」
「まあな」
「でも」
凛は少しだけ視線を落とす。
「でも、ミスリル装備もあります」
「そうだな」
「……」
凛は黙った。少しの間考え込んだが、やがて小さく息を吐いた。
「神谷さん」
「ん?」
「……残念です」
「何が?」
凛は少しだけ頬を膨らませた。
「せっかく…初めて、安心してパーティを組める人だと思ったのに」
思わず苦笑する。ただ、追放されたばかりの俺には心が温まる言葉だった。
「パーティって言っても、まだ一体倒しただけだぞ」
「それでもです」
凛は言う。
「さっきみたいな戦い方、普通はできません」
「俺は見てただけだよ」
「違います。」
凛はきっぱり言った。
「神谷さんの機転が無かったら、ミスリルスライムは倒せませんでした」
そう言ってから、少しだけ視線を逸らす。
「……それに、一人で戦うより」
「その……」
少し言いにくそうにしてから、ぼそっと言った。
「楽しかったです」
俺は少し驚いた。
凛はすぐに顔を背ける。
「…勘違いしないでください」
「効率の話です」
思わず笑う。
「分かった分かった」
そのときだった。
視界の端に、文字が浮かんだ。
【条件達成】
俺は一瞬固まる。
続けて文字が現れる。
【鑑定スキル進化】
【新スキル取得】
思わず声が出た。
「……え?」
「どうしました?」
凛がこちらを見る。
視界の中の文字が変化する。
《逆転鑑定》
ドロップ判定時、各アイテムのドロップ率を反転させる。効果はアイテムごとに適用される。
俺は数秒、固まった。
そして小さく笑う。
「……なるほどな」
「神谷さん?」
凛が首をかしげる。
「どうしたんですか」
「スキルが進化した」
「え?」
「鑑定に新しい効果が追加されたらしい」
凛が目を見開く。
「本当ですか?」
「多分な」
俺はミスリルスライムのドロップを思い出す。
三つ。あれは明らかに普通じゃなかった。
「ドロップ率が反転するらしい」
「反転……?」
「普通、レアが出にくい代わりに普通のドロップが多いだろ」
「それが逆になる…んだと思う」
凛が考え込むようにしばらく黙った。
そして、ゆっくり言う。
「……それって」
「かなり強くないですか?」
「たぶんな」
俺は軽く肩を回す。
「…ちょっと試してみたい」
凛が顔を上げる。パッと顔が明るくなった。
「じゃあ、まだ探索しますか?」
俺は少し考えた。そして笑う。
「…お願いしてもいいか?」
通路の奥を見る。
まだモンスターの気配はある。
「せっかく相棒がいるんだ」
「試してみるか」
「はい!」
そして短剣を構える。
「じゃあ」
「次のモンスター、探しましょう」
俺もミスリルナイフを握った。
ダンジョンの奥は、まだ暗い。
だが――今は、一人じゃない。




