友達
いつもありがとうございます。
1章を大幅に加筆・修正しました(大筋は変更せず)。
またPCで読んでいただく方が多かったため、2章と3章も極力改行を削って以前より読みやすくしました。
よろしくお願いいたします。
「神谷?」
振り返ると、そこに立っていたのはひなのだった。右手には杖が握られている。先端には、まだ微かに炎の残り火が揺れていた。
体の震えはまだ止まらない。
だが――助けられた。
それだけは、はっきり分かった。
「よお」
俺はへたり込んだまま言った。
「助かった」
正直、かなり危なかった。あと二、三回でも触れられていたら、間違いなくあの死体の二の舞になっていた。
……あの死体。
思い出した瞬間、思考が止まる。
「……はあ?」
ひなのが眉をひそめた。
「何であんたがこんなところにいるのよ」
助けて損した、とでも言いたげな顔で俺を見下ろしている。だが、その瞳の奥には、ほんの少しだけ安堵が浮かんでいた。
たぶん。
俺も今、同じ目をしている。
「……お前と同じだ」
俺は答えた。
「電車に乗ってて、ダンジョン化に巻き込まれた。一層には坂城もいる」
ひなのの目が丸くなる。
「俺は他の階層の人を助けに来た。誰か、生き残ってる奴はいないのか?」
一瞬、ひなのの顔が歪んだ。今にも泣きそうな顔だった。
だが次の瞬間、いつもの表情に戻る。
「バッカじゃないの?」
吐き捨てるように言った。
「偉そうに。今死にかけてへたり込んでる奴が、よくそんなこと言えるわね」
ひなのが鼻で笑う。
「また英雄気取り?」
そして、短く言った。
「きっしょ」
いつもならカチンと来る。
だが今は違った。不安の中、独りで死にかけていたところを助けられた直後だ。
その罵倒すら、妙に胸に沁みた。
「まあ、そういうなよ」
俺は苦笑する。
「本当に助かった。ありがとう」
「……っ」
ひなのが言葉に詰まる。ほんの一瞬、耳が赤くなった気がした。
俺は話題を変える。
「で、ひなのはなんでここにいるんだ?」
「一層に向かった方がいいって分かるだろ」
ひなのの表情が曇る。
その顔を見た瞬間、嫌な予感がした。
「……うっさいな」
ひなのが視線を逸らす。
そして、小さく言った。
「……友達を探してるの」
「恵って子」
「あんたも見たことあるでしょ」
その名前を聞いた瞬間、胸の奥が冷えた。
恵。
……思い出した。
さっき見た、あの死体。
だが。
思い出したからといって、恵が戻ってくるわけじゃない。
「……アンタ」
ひなのの声が低くなる。
「何か知ってるのね?」
俺の表情を見て、ひなのが悟る。
次の瞬間。
胸ぐらを掴まれた。
「恵はどこにいるのよ!」
「答えなさい!!」
俺は反射的に目を逸らした。
何と言えばいいのか分からない。どんな言葉をかければいいのか、分からない。
代わりに――
「……ごめん」
それだけが口からこぼれた。
ひなのの手が止まる。
それで、全部伝わった。
ひなのが膝から崩れ落ちる。
俺の服を掴んだまま、その場に突っ伏した。
小さな嗚咽が漏れる。
肩が震えていた。
俺は何も出来ない。
ただ、立ち尽くしていた。
そのくせ。
頭のどこかでは、まだ考えている。
他の生存者のこと。
残された時間のこと。
そんな自分が、心底嫌だった。




