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深化

二層へ続く通路を進みながら、俺は周囲を警戒していた。


ダンジョンの内部は、外から見た電車とはまるで別物になっている。


床は金属とも岩ともつかない奇妙な材質に変わり、壁面には配線のような模様が浮かび上がっていた。天井には、ところどころ監視カメラのような突起が残っている。


まるで、電車という空間そのものが歪んで別の世界に作り替えられているようだった。


ダンジョン化の条件は、まだ正確には解明されていない。


ただ、統計として分かっていることはある。


電車、病院、学校。


そういった、人間の思念や負の感情が集まりやすい場所は、ダンジョン化が起こりやすい。


一説によれば――人間の負の感情が、何らかの条件で魔素へと変換される。そして、その魔素濃度が一定の基準値を超えた時、空間そのものがダンジョン化する。


そう言われている。


真偽は分からない。


だが少なくとも、この場所に限って言えば妙に納得できる説だった。


通勤電車。遅延。満員。疲労。苛立ち。


そういった感情は、決して少なくない。


そしてもう一つ。


ダンジョン化した瞬間、大量の魔素が消費される。


そのため、出来たばかりのダンジョンはモンスターの数も少なく、比較的弱い傾向にある。


だが裏を返せば、時間が経てば経つほどモンスターは増え、強くなる。救出も、どんどん困難になる。


時間との戦いだった。


一本道の通路を、およそ十分ほど進んだ頃だった。


視界が少し開ける。


二層に到達したらしい。


辺りを見回す。


まだモンスターの気配はない。


俺は小さく息を吐いた。


「……鑑定」


スキルを発動する。


視界の中に、情報が重なる。


周囲をゆっくり見回す。


すると――。


いた。


右前方。およそ百メートル先。


瓦礫のような物陰に、十人ほどの人影が集まっている。


「……いた」


だが次の瞬間、違和感が走った。


百メートル。


「……は?」


思わず足を止める。


百メートル?


俺の鑑定スキルの範囲は、確か三十メートルが限界のはずだ。


開けた視界でも、それ以上は見えない。


なのに今、明確に確認できた。


距離も、人数も。


「……スキルが、成長してる?」


可能性はある。


ダンジョン探索者のスキルは、経験と魔素によって成長することがある。


だが今は、そんなことを考えている場合じゃない。


乗客がいる。


しかも――様子がおかしい。


人影が激しく動いている。


何かから逃げているようだった。


俺は走り出した。


通路を一気に駆け抜ける。


距離が縮まる。


そして、ようやく見えた。


襲われている。


空中を飛び回る機械の影。


トンボのような四枚の羽。


金属の胴体。


そして頭部には、回転する監視カメラのレンズ。


ウォッチフライ

危険度:E

弱点:レンズ部コア

ドロップ:小型魔石 / 監視レンズ


レンズがコアか。


赤い光が、ぎらりと点灯する。


ブゥゥゥン、と不気味な羽音が響く。


数は三体。


乗客たちは完全にパニックになっていた。


「逃げろ!」


「こっち来る!」


「いやああ!」


その瞬間だった。


一体の機械が急降下する。


狙われているのは――小さな女の子と、その母親だった。


母親が必死に抱きかかえる。


だが逃げ場はない。


レンズが赤く点滅する。


攻撃態勢だ。


「――!」


俺は地面を蹴った。


一気に距離を詰める。


左手に握った金槌を振りかぶる。


ドローンが急降下する。


その瞬間。


「うおおっ!」


全力で振り下ろした。


ガンッ!!


硬い金属音が響く。


金槌が、監視カメラのレンズを直撃した。


レンズが砕ける。


内部のコアが露出する。


そのままもう一撃。


ガンッ!!


今度は完全に叩き潰した。


機械のトンボが、地面に落ちる。


ビリビリと火花を散らしながら、動きを止めた。


残りの二体が、空中で急停止する。


俺は構え直した。


だが赤いレンズが、こちらを見たまま数秒。


やがてブゥゥゥン、と音を立てて後退した。


通路の奥へと飛び去っていく。


どうやら仲間が破壊されたことで、撤退したらしい。


俺は大きく息を吐いた。


そして振り向く。


「大丈夫でしたか?」


母親は娘を抱きしめたまま、震えていた。


周囲の乗客も、まだ恐怖から抜け出せていない。


足元に転がっている機械の残骸が目に入る。


俺はしゃがみ込み、鑑定を発動した。


視界に文字が浮かぶ。


ドロップ

・監視レンズ アイテム素材 市場価格8000円

・魔石結晶(小) アイテム素材 市場価格5000円


だがその時だった。


ふと視界の端に、赤いものが映った。


血だ。


顔を上げる。


少し離れた場所。


そこに血まみれの男の死体が転がっていた。


既に息はない。


逃げ遅れたのだろう。


乗客たちは、それを見ないようにしていた。


だが現実は変わらない。


小さく息を吐いた。


――時間がない。


助けられる人間を、助けるしかない。


俺は立ち上がった。



ウォッチフライ


電車ダンジョンに発生する監視型モンスター。

監視カメラの機構と魔素が融合して生まれた個体。

群れで行動し、侵入者を発見すると仲間を呼び寄せる。


弱点:レンズ部コア


ドロップ

・監視レンズ アイテム素材

・魔石結晶(小) アイテム素材


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