救出
作戦の方針は、坂城と俺の二人で決めることになった。
坂城が「少しだけ二人で話したい」と言うと、他のメンバーはすぐに頷いた。
むしろ当然だというような反応だった。
即席の集まりとはいえ、今この場で一番状況を理解しているのは俺たち二人だ。
少しだけ距離を取り、群衆から離れる。
周囲のざわめきが、少し遠くなった。
俺は坂城を見る。
「流石だな」
思わずそう言っていた。
坂城は一瞬だけ眉をひそめる。
「よせ」
短く返す。
「状況が状況だ。こうするより他になかった。それだけだ」
相変わらずだ。
褒められるのが本当に苦手らしい。
俺は肩をすくめた。
「それでもだ」
少しだけ笑う。
「やっぱお前、向いてるよ」
「リーダー」
一瞬、空気が止まった。
坂城は何も言わない。
ほんの短い沈黙が落ちた。
だが、すぐに坂城が口を開いた。
「……だが」
視線が鋭くなる。
「ここからどうする?」
俺は少しだけ考えた。
いや、正確には考えるまでもなかった。
救出に行ける人間は限られている。
索敵ができる人間。単独で動ける人間。
この中で該当するのは一人しかいない。
俺だ。
「俺に考えがある」
坂城が俺を見る。
俺は続けた。
「俺が一人で三層まで行く」
「取り残された人達を探して、ここまで連れて帰る」
坂城の表情が変わった。
「無茶だ」
即答だった。
「今は武器もない」
「第一、お前――」
俺の腕を見る。
「利き手が折れてるだろ」
俺は右腕のギプスを見る。
確かに万全とは言えない。
だが。
「無茶かどうかは、今は関係ない」
静かに言った。
「索敵ができる俺が適任だ」
「正直、救出に回せる戦力はない」
坂城は黙って聞いている。
「皆んなを守るためには」
「お前か俺のどちらかが、ここに残らないといけない」
群衆の方を見る。
不安げな顔。
怯えた目。
頼る先を探している人間たち。
「だがお前が行くと、みんな不安になる」
坂城の視線が動く。
「分かるだろ、坂城」
坂城は何も言わなかった。
だが、否定もしない。
それが答えだった。
それでも、坂城は言う。
「危険すぎる」
「三層だぞ」
「モンスターが出る可能性も高い」
俺は笑った。
「坂城」
まっすぐ見る。
「俺を信じろ」
坂城の眉がわずかに動く。
「今のお前は」
言葉を選ぶ。
「……ここの人達にとって希望だ」
そして少しだけ笑った。
「いや、違うな」
「俺にとってもだ」
坂城は黙っていた。
長い沈黙だった。
数秒。
いや、もっと長かったかもしれない。
やがて、坂城が小さく息を吐く。
「……分かった」
そして言った。
「でも」
「絶対帰ってこい」
「任せろ」
「親友」
その後、お互いに顔を見合わせて、少しだけ笑った。
――――――――――
作戦会議は終わった。
すぐに全員の前へ戻る。
坂城が状況を説明し、簡単な役割分担を決めた。
まず、乗客を守る役。
坂城と、サラリーマンの探索者。
二人を乗客の対角線上に配置する。
そして、その脇を探索学部の一年生と高校生二人組が固める。
四隅を囲む形だ。
即席だが、防御陣形としては悪くない。
「出来たばかりのダンジョンなら」
坂城が言う。
「モンスターも弱い」
「素人でも、素手で倒せるレベルの可能性が高い」
乗客たちの中から、何人かが頷いた。
「残りの人は後方からサポートしてくれ」
即席の隊形が決まる。
そして。
俺は武器を探した。
乗客の持ち物の中から、使えそうなものを選ぶ。
まず、折りたたみ式のナイフ。
刃は短いが、無いよりはずっといい。
そして。
工具用の金槌。
重さもある。
打撃武器としては十分だ。
坂城は金属のパイプを選んでいた。
振ればそれなりの威力は出るだろう。
準備は整った。
坂城が最後に全体を見渡す。
そして俺を見る。
「行くのか」
「ああ」
短く答える。
坂城は少しだけ目を細めた。
「絶対帰ってこい」
「親友」
俺は頷く。
「ああ」
振り返る。
ダンジョンの奥。
暗い通路が続いている。
二層へ続く道だ。
「行ってくる」
坂城を見る。
軽く頷いて、俺は奥へ向かった。




