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揺れる

翌朝。


目を覚ました瞬間、胸の奥に昨日の感情が戻ってきた。なんとも言えない、重たい感覚。


昨日の朝は、あんなにスッキリした気分だったのに。


ベッドの上でしばらく天井を見つめる。


体を起こすと、右腕に鈍い痛みが走った。


「……まだ痛いな」


昨日よりはマシだ。だが動かすと、やはり痛む。無理をすれば、また悪化するだろう。


俺は腕をそっと押さえた。


ふと、昨日の戦いを思い出す。


スチールゴーレム。金属の巨体。あの拳。右腕を折られた瞬間の衝撃。思い出すだけで背中に寒気が走る。


あの時は本気で終わったと思った。絶体絶命だった。


それでも最後に立てたのは――。


「……坂城」


それから。


「凛」


自分でも不思議だった。あの瞬間、頭に浮かんだのはその二人だった。それで、もう一度だけ踏ん張れた。


凛の顔を思い出す。そして同時に、膝枕の感触まで思い出してしまった。


「……いやいや」


俺は慌てて首を振る。


何を思い出しているんだ。


頭を振って、布団から出た。


今日は大学に行くつもりだった。坂城のところに。


昨日、俺は言った。


「また明日来る」


一方的にそう言った。坂城は返事をしなかった。


だが、あいつは待っているだろう。そういう奴だ。


説得できるのか。そもそも、説得する気があるのか。


自分でもよく分からない。だが、言った以上は行かなければならない。


俺は立ち上がった。


「……行くか」


身支度を整え、家を出る。


外に出た瞬間、空を見上げた。


どんよりとした曇り空。今にも降り出しそうだった。


「……俺の気分と同じだな」


小さく呟く。


駅までは少し距離がある。俺は足早に歩いた。雨が降る前に着きたい。


改札を抜けた時、ちょうど電車が入ってきた。


ドアが閉まる直前に滑り込む。


「セーフ……」


軽く息を吐く。


車内はそこそこ混んでいた。吊り革につかまりながら、ぼんやりと窓の外を見る。


ふと、昔のことを思い出した。


一年の頃。坂城と、ひなのと。探索学部の三人でよく電車に乗った。


通学の時も。ダンジョン配信の時も。


思えば、あの頃はよく笑っていた。


ひなのも、今ほど刺々しい性格ではなかった気がする。


……まあ、良いとは言えなかったが。


「はは」


思わず小さく笑った。


自分で言って、自分で苦笑する。


その時だった。


ガタン。


突然、電車が強く揺れた。


「うおっ」


吊り革につかまっていなければ転んでいた。


車内がざわつく。


「何だ?」


周囲を見渡す。


窓の外の景色が、ぼんやりと滲んでいた。空の色が、さっきより明らかに暗い。まるで墨を流したように黒ずんでいる。


周囲から声が聞こえた。


「何? え、怖いんだけど」


「置き石じゃね?」


「揺れ方半端なかったー」


ざわざわとした空気が広がる。


俺は窓を見つめたまま、嫌な予感を覚えた。


この感じ。


まさか――。


次の瞬間だった。


車内のドアの隙間から、何かが伸びてきた。


緑色。


雑草のような、蔦のような植物。


「……は?」


それはみるみる広がっていく。


床の隙間。壁の継ぎ目。車内の至る所から生えてくる。


乗客が悲鳴を上げた。


「なにこれ!?」


「うわっ、気持ち悪!」


さらに異変が起きる。


座席の素材が変わる。手すりが歪む。吊り革の形が、見たこともない形状に変わっていく。


金属とも木ともつかない、奇妙な質感。


空気が変わった。


俺は確信する。


「……ダンジョン化」


自然発生型。


列車ごと巻き込まれたのか。


周囲を見回す。


乗客は全員パニック状態だ。


閉じ込められた。


そう思った瞬間だった。


車内スピーカーから音が鳴る。


キィン、とノイズが走る。


そして。


アナウンスが響いた。


『――緊急放送』


一瞬、車内が静まり返る。


『ダンジョン化を確認』


『乗客は車両から移動しないでください』


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