決意
シーカーズの部室の前で、俺は一度足を止めた。
部屋からは物音ひとつ聞こえなかった。少し迷ったが、そのままノックした。
「入るぞ」
ドアを開ける。
中にいたのは坂城だった。
机に向かってスマホを見ていたが、俺を見るなり目を丸くした。
「神谷?」
そしてすぐに立ち上がる。
「その腕……どうした?」
ギプスに固定された腕を見ている。
「ああ」
俺は肩をすくめた。
「昨日の依頼でちょっとな。ゴーレムとやり合って折られた」
坂城はしばらく黙っていた。
「……依頼?」
「凛と一緒に、ギルドの探索者になったんだ」
そう告げると、坂城は小さく息を吐いた。
「そうか」
それから少しだけ笑う。
「やっぱりすごいな、お前」
ひなのの時とは違い、皮肉ではない。それが分かるから、俺も否定しなかった。
「……そんなことより」
俺は言う。
「なんで噂を否定しない」
坂城は一瞬だけ視線を逸らした。
それから静かに答える。
「否定する資格がないからだ」
「……は?」
「追放したのは事実だ」
坂城は淡々と言った。
「だから今さら、違うとは言えない」
「いや、それは——」
俺が言いかける。だが坂城はその言葉を遮った。
「気付いてたんだ。俺よりお前の方が、パーティのことちゃんと見てたって」
俺は黙る。
坂城は続けた。
「リーダーは俺だった。でも実際にみんなをまとめてたのは、お前だ」
少しだけ苦い顔をする。
「それを認めるのが怖かった」
「ひなのも…ああいう性格だ」
「俺がきちんと向き合えていたら、お前とも、ひなのとも最高のパーティをやれてたかもしれない」
俺は首を振った。
「仮にそうだとしても、俺は自分が出来ることをやってただけだ」
坂城が顔を上げる。
「それに」
俺は続ける。
「俺だってお前に助けられてきた」
坂城の目が少しだけ動いた。
「一昨日だって、昨日だってそうだ」
「お前とのことがなかったら」
俺は腕を軽く上げる。
「こんな怪我じゃ済まなかった」
言いながら、少し熱くなっている自分に気付く。だが、止めなかった。
「俺は一人で強くなったわけじゃない。お前がいたからここまで来れた」
坂城はしばらく黙っていた。
部室に静かな時間が流れる。外から学生の声が聞こえた。
坂城はゆっくり椅子に腰を下ろす。それから小さく笑った。
「……変わらないな、お前は」
俺は肩をすくめた。
「そうか?」
「そうだよ」
少しだけ視線を落とす。
そしてぽつりと続けた。
「…コラボ配信」
俺を見る。
「誘ってくれて、嬉しかった」
俺は頷いた。
「だろ」
「また一緒にやりたかったが」
坂城は短く笑う。だがその笑みはすぐに消えた。
それからゆっくり口を開く。
「だけど」
坂城は言った。
「こうなった以上、責任は取らないといけない」
俺は嫌な予感がした。
「……何言ってる」
坂城は真っ直ぐ俺を見た。
「シーカーズを、抜けようと思う」
部室の空気が止まった気がした。
俺は何も言えなかった。
坂城の目は、本気だった。




