生還
頭の下が柔らかかった。
暖かくて、少しだけいい匂いがする。
ぼんやりとした意識の中で、俺はその感触に身を委ねていた。
……気持ちいい。
ああ、なるほど。
俺は死んだのかもしれない。
最後の記憶は、スチールゴーレムとの戦いだ。
右腕は折れて、ナイフも失って、それでも無理やりスクロールを使って——。
そこから先が思い出せない。
まぁ、やれるだけはやった。
俺にしては、よくやった方だろう。
ただ。
ひとつだけ、気になることがある。
「……凛」
俺は小さく呟いた。
「凛……無事だといいが」
その瞬間だった。
「……さん!」
遠くで声がした。
「……谷さん……!」
誰かが呼んでいる。
必死な声だ。
「神谷さん!!」
そこで意識がはっきりと戻った。
視界が開く。
最初に見えたのは、凛の顔だった。
泣きそうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「……凛?」
声を出すと同時に、体を起こした。
その瞬間。
「っ!!」
右腕に鋭い痛みが走る。
思わず顔を歪めた。
「無理しないでください!!」
凛が慌てて俺の肩を押さえる。
「神谷さん、重傷なんですよ!」
言われて初めて気づいた。
右腕は応急処置で固定されている。
だが痛みはまだ強い。
凛の顔をよく見ると、目が赤かった。
涙の跡が残っている。
そして今も、瞳に涙が浮かんでいた。
「……ハイポーションを飲ませました」
凛が言う。
「でも、完全には治りませんでした。完全に折れてると、さすがに難しいみたいです」
そうか。
それでも命があるだけ十分だ。
「……あれから、どうなった」
俺が聞くと、凛はすぐに答えた。
「スチールゴーレムは」
少しだけ誇らしそうに言う。
「神谷さんが倒しました」
「……マジか」
正直、あまり覚えていない。
凛は続ける。
「私が二本目のハイポーションを飲んだ時です」
「視界の端で、神谷さんが一人で戦っているのが見えました」
少しだけ俯く。
「だから三本目のハイポーションは温存しました。ポーションだけで回復して、様子を見ていました」
なるほど。
「流石だな」
俺は言った。
状況判断が早い。
「それより」
俺は小さく息を吐く。
「悪かった」
凛が顔を上げた。
「……え?」
「俺が油断した。巻き込んだ」
だが凛は首を振った。
「違います」
「私も油断してました」
真剣な顔だった。
「あれは仕方ありません」
少し沈黙が流れる。
坑道は静かだった。
遠くから水滴の落ちる音だけが聞こえる。
「……スチールゴーレムが暴れたせいで」
凛が言った。
「この辺りのモンスターは散っています。しばらくは安全だと思います」
そして続ける。
「もう少し休んだら、転移石で帰還しましょう」
「そうだな」
俺は頷いた。
「今回は流石に死んだと思った」
そう言うと、凛が少しだけ困った顔をする。
そこで、ふと思い出した。
「そういえば」
「俺、気を失ってたよな」
「……はい」
「よくポーション飲ませられたな」
その瞬間だった。
凛の顔が、みるみる赤くなる。
「そ、それは……」
視線が泳ぐ。
「な、なんとか飲ませました!」
慌てた様子で言った。
……?
なんだか様子がおかしい。
まあいいか。
追及する体力もない。
すると凛が慌てて話題を変えた。
「そ、それより!」
「ドロップです!」
俺は瞬きをした。
「ドロップ?」
「はい!」
凛は頷く。
「魔石がありました。依頼達成です」
「おお」
それは素直に嬉しい。
だが凛はそこで言葉を区切った。
「それと……」
少しだけ表情が変わる。
「もう一つあります」
「ん?」
凛がゆっくり言った。
「スチールゴーレムのドロップなんですが」
そして、信じられないものを見るような顔で続けた。
「報酬が……とんでもないことになっています」
俺は思わず凛の顔を見た。
「……何が出た?」
凛は答えなかった。
ただ。
足元に転がるそれを、静かに指差した。




