鋼鉄の巨人
スチールゴーレムは瓦礫の山の上からゆっくりと降りてきた。
鉄の足が地面を踏みしめるたび、重い音が坑道に響く。
さっきのストーンゴーレムとは明らかに違う。
体は岩ではなく、完全に金属でできていた。
俺はミスリルナイフを握り直す。
「……来い」
呟くと同時に、ポケットからスクロールを取り出した。
風魔法のスクロール。
紙を破る。
瞬間、圧縮された風刃が一直線に飛び出した。
だが。
スチールゴーレムは一歩横に動く。
風刃は鉄の肩をかすめただけで、奥の岩壁を深く抉った。
避けた。
それでいい。
こっちを敵だと認識しろ。
俺はすぐに走り出した。
凛のいる場所から距離を取る。
スチールゴーレムがこちらを追ってくる。
重い足音。
だが速度は思ったほど速くない。
振り返った瞬間、鉄の腕が振り上げられた。
次の瞬間、叩き潰すように振り下ろされる。
俺はその軌道を見て、踏み込んだ。
拳が地面を砕く瞬間、その脇をすり抜ける。
そのまま胴体へナイフを叩き込んだ。
ギンッ!
嫌な音が響く。
刃が弾かれた。
「……硬ぇ」
予想はしていた。
この装甲は普通じゃない。
やはりコアを潰すしかない。
俺は距離を取る。
「鑑定——」
視界に情報が浮かぶ。
【コア位置:胸部内部】
……は?
心臓だと?
表面じゃないのか。
その瞬間だった。
スチールゴーレムが足元の瓦礫を掴み上げた。
巨大な鉄骨。
それをそのまま投げつけてくる。
俺は横に飛んだ。
鉄骨が背後の壁に激突する。
粉塵が舞う。
次の瓦礫。
さらにもう一つ。
避けながら、俺は考える。
内部コア。
普通に刺しても届かない。
だが——
脳裏に浮かんだのは、ミスリルスライムとの戦いだった。
凛がやった、同じ場所を何度も正確に狙う攻撃。
それなら、或いは。
瓦礫を避けながら接近する。
距離を詰める。
ゴーレムが拳を振り上げる。
俺は一歩踏み込んだ。
胸部へナイフを突き立てる。
やはり通らない。
だが、その瞬間、金属の継ぎ目が見えた。
ここだ。
俺はすぐに距離を取る。
次の攻撃が来る。
拳が振り下ろされる。
避ける。
踏み込む。
同じ場所に刃を叩き込む。
二回。
三回。
四回。
スチールゴーレムの腕が俺の肩を掠めた。
躱して、五回。
ゴーレムの拳は、ミノタウロスより少し遅い。
その差が命綱だった。
避けながら、同じ場所を狙い続ける。
やがて。
継ぎ目が開いた。
金属の隙間から、赤い光が覗く。
コアだ。
次で殺せる。
そう思った、その瞬間。
スチールゴーレムが突然背を向けた。
……?
逃げるのか?
一歩。
二歩。
その瞬間、理解する。背筋が凍った。
違う、あいつは———-
俺を無視して、凛の方へ向かっている。
「てめぇ!!」
頭に血が上った。
全力で走り、ゴーレムの背中へ飛び込む。
トドメを刺す。
だが、その瞬間、スチールゴーレムが振り向いた。
鉄の腕が横薙ぎに振られる。
避けきれない。
直撃した。
体が吹き飛んで、横の瓦礫に叩きつけられた。
肺の空気が一瞬で抜ける。
「……っ」
咄嗟に腕で庇った。
だが、その衝撃で何かが弾き飛ばされるのが見えた。
視界の先で、地面にミスリルナイフが転がっている。
俺は起きあがろうとした。
その時、違和感に気付く。
右手が動かない。
見ると、腕が変な方向に曲がっていた。
折れている。
「……最悪だ」
衝撃の余韻が残る体。
遅れて押し寄せてくる痛み。
視界が歪む。
歪んだ先に、スチールゴーレムがこちらへ歩いてくる。
鉄の足音がゆっくり近づく。
逃げ場はない。
俺は息を吐く。
「悪いな、凛」
小さく呟く。
「なるべく粘るから」
「逃げろ」
その時だった。
ふと、昨日のことを思い出した。
……走馬灯か。
ひなのに追放されて、凛と出会って——-
——-坂城と和解した
坂城。
あいつもミノタウロスにやられて、重傷を負っていた。
それでも。
仲間を守ろうとしていた。
……凄いな。
坂城も。
そして。
…凛も。
俺は歯を食いしばる。
体を起こす。
その瞬間、ギッギッギッと金属が擦れる音がした。
スチールゴーレムの胸部が震えている。
……笑ってやがる。
そう思った。
「…そりゃそうか」
こっちも仲間を殺してる
殺されても、文句は言えない
「ただ」
折れてない方の腕をポケットに入れる。
俺は呟く。
「礼儀がなってないよな」
そして小さく言った。
「相棒」
スチールゴーレムが拳を振り上げる。
振り下ろされる。
俺は体をずらした。
紙一重で避ける。
その勢いのまま、頭からゴーレムの懐へ飛び込んだ。
そして。
左手からスクロールを取り出して、ゼロ距離から歯で強引に引きちぎった。
暴風が解き放たれる。
風刃が、亀裂の入った胸部へ叩き込まれた。
轟音。
スチールゴーレムの巨体が吹き飛ぶ。
同時に衝撃で俺も地面に叩きつけられた。
鉄の体が地面に倒れるのが見える
…
倒したのか——-
それを確認する前に。
視界が暗くなり、そのまま意識が沈んだ。




