採掘場
採掘場ダンジョンの入口は、山の斜面にぽっかりと口を開けていた。
元は鉱山だったらしい。
崩れかけた木製の支柱。錆びたトロッコのレール。岩壁には、ツルハシで削った跡がそのまま残っている。
そこに、青白いダンジョン苔がぼんやりと光を放っていた。
人工物とダンジョンが混ざり合った、不思議な光景だった。
「……思ったより鉱山っぽいな」
俺は周囲を見回す。
凛が頷いた。
「元採掘場ですからね」
「ダンジョン化しても構造は大きく変わっていません」
そう言ってから、凛は軽く手を叩いた。
「では、おさらいです」
依頼書を取り出す。
「今回の依頼はストーンゴーレム討伐」
そして指を一本立てた。
「ただし、今日は第二層までを区切りにします」
「それより先には行きません」
「理由は?」
俺が聞くと、凛はあっさり言った。
「ミノタウロスみたいなモンスターが出ます」
……なるほど。
あれは正直、もう一回やれと言われたら嫌だ。
「あと」
凛は続けた。
「二層に着くまでに、神谷さんにモンスター討伐を経験してもらいます」
「俺が?」
「はい」
凛は俺の装備を見る。
「ミスリルナイフと強化腕輪」
「計算上、ストーンゴーレムも倒せます」
そして少し真面目な顔になった。
「でも、実際に倒した経験があるかどうかで全然違います」
俺は頷いた。
「分かった。期待に応えられるよう頑張る」
凛が少しだけ笑った。
「期待しています」
俺たちは採掘坑道へと足を踏み入れた。
内部は思ったより広い。
トロッコのレールがそのまま残っていて、足音が静かに反響する。
少し進んだところで。
「……待て」
俺は小さく言った。
凛が足を止める。
「どうしました?」
俺は通路の奥を指さした。
「いる」
土色の塊が、ゆっくりと動いた。
人型。
身長は一メートル半ほど。
全身が泥で出来ている。
「クレイゴーレムですね」
凛が言った。
「ちょうどいい相手です」
そして一歩下がる。
「神谷さん、一人で倒してください」
「え」
いきなりかよ。
だがクレイゴーレムはすでにこちらに気付いていた。
腕を振り上げる。
次の瞬間、硬質の泥が塊になって飛んできた。
「うおっ!」
反射的に体を横へ流す。
泥の弾は肩の横をかすめ、そのまま後ろの岩壁に叩きつけられて弾けた。
続けて二発目。
三発目。
クレイゴーレムは腕を振り回しながら、次々と泥の塊を投げてくる。
だが――見える。
飛んでくる軌道が、はっきり分かる。
右へ半歩。
しゃがむ。
今度は左へ流れる。
体が勝手に動くようだった。
避けるたびに、泥の弾が足元や背後で弾けていく。
「神谷さーん」
背後から凛の声。
「避けてばっかりじゃダメですよー」
「がんばれがんばれー」
完全に観戦モードだった。
「いや無理だろ!」
思わず叫ぶ。
すると凛が、ため息混じりに言った。
「…それだけ動けるのに、何ビビってるんですか」
……え?
その一言で、ふっと意識が変わる。
確かに。
俺は今、全部見えている。
クレイゴーレムの腕の振り。
泥の弾の軌道。
次の動き。
全部。
分かる。
次の瞬間、クレイゴーレムが突進してきた。
腕を振り上げ、叩き潰すように振り下ろす。
俺は半歩だけ体をずらした。
拳が空を切る。
すれ違いざま、ミスリルナイフを振る。
刃が関節に滑り込み、泥の腕が鈍い音を立てて地面に落ちた。
「グォッ!」
怒ったクレイゴーレムが体当たりしてくる。
その瞬間、鑑定眼を発動した。
視界に文字が浮かぶ。
【コア位置:頸部後方】
そこか。
俺は一歩踏み込む。
突進してくる体を紙一重でかわし、その勢いのまますれ違いざまに体をひねる。
ナイフを振る。
刃が首の後ろを深く裂いた。
一瞬、クレイゴーレムの動きが止まる。
そして次の瞬間。
全身が崩れ落ちるように泥へと変わった。
「……」
後ろで凛が固まっていた。
目を丸くしている。
俺は息を吐く。
「……倒した?」
少ししてから、実感が湧いた。
「おお!」
思わず声が出る。
「初討伐!」
俺は凛を見る。
「なんか、コツ掴んだかも」
その時だった。
カラン。
通路の奥で、小さな金属音が響いた。
俺と凛は同時にそちらを見る。
クレイゴーレムの崩れた泥の中で、小さな光が転がっていた。
ドロップだ。




