相棒
探索者ギルドを出ると、夜の空気が少しひんやりしていた。
昼間ほどではないが、広場にはまだ人が残っている。
屋台の灯り。探索者たちの笑い声。ダンジョン帰りらしいパーティが、装備を外しながら談笑していた。
俺は空を見上げる。気がつけば、もう夜だった。
「……あ」
時計を見る。
「もう二十時過ぎてるな」
横で凛が頷いた。
「今日はここまでですね」
「そうだな」
俺は軽く伸びをする。体は疲れているはずなのに、妙に気分がいい。
「じゃあ」
俺は凛を見る。
「明日、何時集合にする?」
凛は少し考えた。
「朝は装備を揃えましょう」
「装備?」
「神谷さん」
凛が言う。
「荷物袋、燃えましたよね」
「……あ」
そうだった。ミスリルスライム戦で投げた袋は、溶解液で跡形もなく消えた。
「なので、朝は装備補充です」
凛が続ける。
「ミスリルコアのお金がありますから、昼からダンジョンに入りましょう」
「なるほど」
俺は頷いた。合理的で凛らしい。
そしてふと思う。
「しかし凛」
「はい?」
「ミスリルスライム。ミノタウロス。ストーンゴーレム」
指を折る。
「結構な連戦なのに」
凛を見る。
「楽しそうだな」
凛が一瞬きょとんとした。
それから小さく笑う。
「神谷さんこそ」
「そうか?」
「はい」
凛は言う。
「楽しそうです」
俺は少し考える。そして、正直に言った。
「危ないのは分かってる。でも…なんか」
少し言葉を探す。
「ドキドキするな」
凛が目を丸くした。
「…ドキドキ?」
「うん」
俺は笑った。
「遠足みたいで」
一瞬、凛が固まった。
そして。
「……ふっ」
吹き出した。
「遠足……」
肩を震わせている。
「そんな言い方します?」
「変か?」
「変です」
凛は笑いながら言う。
それから少し落ち着いて、言った。
「でも、嫌いじゃないです」
そして指を立てる。
「だから、今日は早く寝てください」
「え?」
「明日から探索ですよ」
真面目な顔だった。
「ちゃんと休まないと危ないです」
俺は苦笑する。
「分かった分かった」
「凛もな」
「はい」
少し沈黙が流れる。
ギルド前の広場。屋台の灯りが揺れている。
凛がふっと手を差し出した。
「神谷さん」
「ん?」
「明日から」
少しだけ笑う。
「私達はパーティです」
俺はその手を見る。
一瞬だけ迷って。
それから手を出した。
パチン。
軽く手を合わせる。
「じゃあな」
俺は言った。
「相棒」
凛が少しだけ目を細める。
「はい、おやすみなさい」
「相棒」
二人で軽く手を振った。
「また明日」
「おう」
凛は夜の街の方へ歩いていく。
俺はその背中を見送った。
それから空を見る。
明日から本格的な探索だ。
俺は小さく笑った。
「……遠足か」
少なくとも。
一人の探索より、ずっと面白くなりそうだった。
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