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追放

3/15 加筆、修正しました。(話の内容は変えてません)

「またこんなガラクタ?」


ダンジョンの通路に、ため息が落ちる。洞窟の鬱屈とした雰囲気には少々場違いな、無遠慮な声。落ちた石の欠片に、ひなのが露骨に顔をしかめた。


「神谷さ、それほんとに当たってるの?」


殆ど石ころと変わらない魔石を拾って袋に詰めた。中の素材を見下ろしてから、肩をすくめる。

ひなのが文句を言いたくなる気持ちも分かるが、そのガラクタを運んでいる俺の気持ちは一向に汲んでくれそうになかった。


低純度魔石。石片。予測通りのドロップだ。


既に同じようなガラクタが袋の中で所狭しとひしめき合っている。この調子なら、もう少しすれば良いブラックジャックが作れそうだ。

もっとも…それで倒せるのはせいぜいスライム一匹ってところだろうが。


俺も軽くため息を吐き、言った。


「当たってると思うけど」


「思うけど、じゃなくてさぁ」


ひなのは腕を組む。まるで俺のせいだ、とでも言いたげな顔をしている。


「またハズレじゃん」


その横で、リーダーの坂城が苦笑した。俺とひなのの中を取り持つように二人の間に割って入る。リーダーというと聞こえはいいが、ひなのの高慢の前では、せいぜいバイトリーダーくらいの立ち位置だ。


「まあまあ、鑑定は確率だから」


言葉とは裏腹に、言い方がやけに軽かった。期待されていないのは明らかだった。それを聞いたひなのも満足そうに鼻を鳴らした。


後ろでは撮影担当が配信端末を構えている。


大学のダンジョン配信サークル《シーカーズ》。


俺はそのメンバーだ。


――一応。


「ねえ坂城くん」


ひなのが言う。


ひなのはシーカーズの紅一点で、性格はともかく、顔だけは良い。配信でも人気で、再生数の半分はこいつで持っている、と言っても過言ではなかった。


ひなのの人気が確固たるものになってからは、リーダーの坂城より発言権を持つようになった。大学のPRと上層部の意向とはいえ、本来命懸けのダンジョンで、人気者が意思決定の強権を持つと、大抵ろくなことにはならない。


「最近さ、ドロップ渋くない?」


「まあ……そうだな」


坂城が苦々しく笑う。


「神谷の鑑定ってさ」


ひなのがちらりと俺を見る。そして、ニヤついた目でこちらを見つめた。


「ほんとに意味あるの?」


純粋な悪意とは、どうしてこう人の目を輝かせるのだろうか。


俺は肩をすくめる。


事実、《鑑定》の結果は間違っていない。さっきも予想通りのドロップだった。


ただ、ここでひなのが言う意味とは、俺のスキルに付与されたもう一つの効果の方だった。


「少しはある」


俺は答えた。このやりとりももう何回目か分からないが、こうして一々答えるのは、そうしないとひなのが不機嫌になるからだ。


「少しってどのくらい?」


「……レアドロップ率、三パーセントアップ」


俺は事もなげに言った。


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


「三パー!?」


ひなのが笑い出した。


「少な!」


「誤差じゃん!」


後ろのメンバーもつられて笑う。


厳密に言えば探索者でない撮影班ですら、後ろでゲラゲラと笑っている。悪意のあるやり取りもこいつらのフィルターを通せば、俺が冗談でも言って皆んなを楽しませているように見えるのかもしれない。


このやり取りももう何度目か分からない。まあ、受けているならそれでいい。


坂城も困ったように笑う。


「まあ……ないよりはマシかな」


俺のスキルは《鑑定》。


モンスターのドロップを予測して、その中のドロップ率をほんの少し上げる。その副次効果として、効果範囲内のモンスターの距離測定や軽い索敵も出来る。


ひなのは役立たず、無能と好き勝手に言うが、俺はこのスキル自体はそこそこ気に入っていた。


サークル活動といっても、モンスターに手心はない。鑑定にも色々な種類があるが、危険を伴う探索中の索敵と、中でもレアドロップ率アップは割と珍しいスキルらしい。


他のメンバーにバカにされながらも、俺がシーカーズに抜擢された理由はそこにあった。


ただし。


見ての通り戦闘能力は、ほぼない。


前衛で戦うのは坂城たち。後衛でサポートするのはひなの。配信を管理するのは撮影班の撮影担当。


そして俺は――


雑用と荷物持ち。


「ま、次行こっか」


ひなのが軽く言った。ひと通りバカにして、少しは気分が晴れたらしい。


通路を進むと、岩陰で入り組んだ少し広い空間に出る。死角が増え、ランプの灯りでは物陰や奥は見渡せないので、待ち伏せされるとかなり危険だ。


「神谷、いけるか」


坂城の合図で、俺はスキルを使う。


《鑑定》。


暗闇で暗視ゴーグルを付けたように、周辺の状況がクリアになる。脳が冴えるような感覚で、見たいところを注視するだけで、周辺の生物や物体の情報が浮かび上がってくる。


【ストーンスライム】

ドロップ

・低純度魔石

・石片


「ストーンスライム、三体。前方右15メートル、核は中央だ」


俺の合図と同時に、坂城が腰の剣に手を掛ける。


「了解」


言うや否や、岩陰からスライムが現れた。坂城は一歩踏み込むと同時に勢いよく抜刀し、その勢いのまま横薙ぎに振り抜いた。


瞬間、銀の剣から放たれた光刃がスライム三匹を纏めて切り裂き、核を割られたスライムが砂となって跡形もなく消え去った。


「流石だな」


俺は言った。相変わらず見事な手際だ。コイツなら大学卒業と同時に、幾つもの有名パーティから声が掛かるはずだ。俺はギルドの職員でものらくらやりながら、昔の仲間の武勇伝を職場の皆んなに自慢するおやじになる。

まあ、そんな人生も悪くはないだろう。


そう思っていると、


コロン


と、スライムが消えた場所にアイテムが転がった。どうやら、またドロップしたらしい。


あまり期待せずに鑑定を発動すると、先程と同じ低純度魔石と石片だった。既に親の顔よりも見ている気がする。


ドロップなのか、ゴソゴソと無言で袋を開ける俺が気に入らないのか、それを見たひなのがまた顔をしかめる。


「……またそれ?」


「予測通りだろ」


俺は回収袋に魔石を入れながら答える。


「いや、そうだけどさぁ」


一拍置いて、ひなのは振り返った。

「ねぇ」と、坂城を見る。


猫のように甘ったるい声だった。こいつが、自分のお願いを他人にきかせる時の声だ。


「ねえ坂城くん」


「ん?」


「神谷ってさー」


一拍。


「いらなくない?」


空気が止まる。


坂城が眉をひそめた。


「ひなの?」


「だってさ」


ひなのは俺を指差す。周りのメンバーの注目が一瞬にして俺に集まる。


「鑑定しかできないんでしょ?」


「まあ……そうだけど」


坂城は答える。いつもならボロクソに言って気が済むはずだが、今日は何やら雲行きが怪しかった。


「しかも三パーでしょ?」


ひなのは肩をすくめ、鼻で笑った。


「正直さ」


「荷物持ちなら誰でもよくない?」


ひなのが振り返ると、後ろのメンバーも笑って、同調する。


「それなー」「確かに」「思ってたわ」


俺はそいつらを横目で見た。鑑定を使わずとも厄介ごとには巻き込まれたくない、と顔に出ている。誰だってそうする。俺もそうする。


ただ一つ厄介なことは、今回は俺が当事者だと言うことだった。


坂城が困った顔をする。否定しろ坂城。否定しろ、リーダー。


俺は心の中で強く念じた。


「いやでも……神谷もメンバーだし」


今一つ、声に力がない。やっぱりダメか。


「いやいや」


ひなのは首を振った。今の坂城の言葉で確信したようだった。


「配信って効率大事じゃん」


俺を見る。


「神谷さ。今回ここまで来たの私たちの力だよね?」


「まあ、そうだな」


「だったらさ」


「ここで帰れば?」


ひなのは軽く言った。本当はお前も帰りたいんだろ、みたいな軽いノリだった。


坂城が目を見開く。


「ひなの、それは――」


「だってさぁ」


ひなのは笑う。


「この先、敵強くなるよ?」


「神谷ついてこれないでしょ」


俺は少しだけ考える。考えた結果、お前らがいれば問題ない、と思ったが、それをここで口に出すのはあまりにも憚られた。


「帰れって?」


「うん」


ひなのはあっさり頷いた。


「その方が安全じゃん」


坂城が言う。


「でも出口遠いぞ」


「一本道でしょ?」


ひなのは笑う。


「大丈夫だって」


少しだけ目を細めて、俺の方を見る。


「ね?」


周りのメンバーは視線を逸らしていた。もう俺を受け止めてくれるのは、ダンジョンの奥から吹く風だけのようだ。


坂城がため息をつく。


「……神谷」


だが、その言葉を遮るようにひなのが先に言った。


軽い口調で。飽きたおもちゃを捨てるように。


「お前、もういらねぇわ」


ダンジョンの奥からまた、冷たい風が吹いてきた。


俺は石ころ同然の魔石が詰まった袋をギュッと握りしめた。


――まあ、いつかこうなるとは思っていた。

初投稿になります。

第一話を読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白いと思っていただけたらブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


次話もよろしくお願いします。

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