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No.006:人間関係と距離

 X地区にも、序列はある。


 スコアもランキングもない。

 だが、信用は可視化される。


 仕事を途切れさせない者。

 管理局と無難に折り合いをつけられる者。

 トラブルを起こさない者。


 そういう人間は、自然と“上”にいる。


 悠真は、まだその列にいない。


 ――いや、正確には…一歩、外れかけている。


「ねぇ、そこの新入りくん!」


 補給区画の通路で、声をかけられた。


 振り向くと、女の子が立っていた。

 歳は、悠真とそう変わらない

 …が、この国では珍しい紅玉色(こうぎょくいろ)の目、”異邦人”のようだ。


「中央から目をつけられたって、君?」


 もう噂になっている。

 その事実が、胸に引っかかった。


「……そうみたいです」


 女の子は、小さく息を吐いた。


「やっぱり」


 困った、というより――残念そうな声音(こわね)だった。


「厄介ごと、持ち込んじゃったね」


 責めてはいない。

 でも、距離を測る言い方だった。


「魔導晄炉の件」


 女の子は言う。


「ああいうのは、止めちゃだめ」


「止めるなら、理由を“先に”出すの」


 正論だ。

 否定しようがない。


「結果が良くても、手順を壊したら意味無いよ」

「ここはね、はみ出しモノを守ってくれる場所じゃないの」


 X地区を理解している人間の言葉。

 だからこそ、胸に刺さる。


 悠真は、すぐに返事ができなかった。


 一瞬だけ、

 自分の判断が“軽率だった可能性”が頭をよぎる。


 ほんの一瞬。


「……誰かが、止めなきゃいけなかった」


 それでも、言葉はそう出た。


 女の子は、少しだけ眉を寄せた。


「違う」


 一拍、間があってから続ける。


「“誰か”じゃない」


「“資格のある誰か”だよ」


 線が引かれる。


 能力でもない。

 判断力でもない。


 許可。


「君のやり方は、不安定なの」


 言い切る直前、ほんのわずかに言葉が揺れた。


「……再現できない判断は、仲間を巻き込むから」


「みんな、生活があるんだよ」


 正しい。

 けれど、そこには感情が混じっていた。


 恐れだ。


 X地区は、理想郷じゃない。

 逃げ込んできた人間たちの、現実の寄せ集めだ。


「君が問題を起こすと」


 女の子は言う。


「管理局は、“地区全体”を見る」


「それ、わかってる?」


 悠真は、少し間を置いた。


 喉の奥に、重たいものが引っかかる。


「……ごめん」


 女の子は、目を伏せる。


「それでもやる人はね」


 一瞬、言葉を探してから。


「……ここじゃ、生き難い(いきづらい)よ」


 視線を戻し、続ける。


「私、巻き込まれたくないから…こめんね?」


 本音だった。

 謝る理由は、どこにもないのに。


「じゃ……」


 女の子は、それ以上何も言わず、歩き去った。


 通路に、人の気配が戻る。


 いつもと同じX地区。


 同じ配置。

 同じ空気。


 でも。


 悠真は、確かに一段、外に出た。


 評価されない選択。

 見逃されない選択。


 それは、

 味方を減らす選択でもある。


「まぁ、そうなるよな」


 背後から声がした。


 ケンだ。


「正しい奴ほど、制度に近づく」


「正しくない奴ほど、目立つ」


 悠真は、何も言わなかった。


 胸の奥に、沈んでいく感覚がある。


 孤立。


 だが、後悔ではない。


 あの日の判断は、今も揺らいでいない。


 だから。


 悠真は、心の中でだけ答える。


 ――それでも、次も同じだ。


 ここから先は、

 選び続ける人間の物語になる。

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