No.005:ログ
「ユー、ちょっと来てくれ」
朝の作業が一段落した頃、ケンが珍しく真顔で声をかけてきた。
軽い調子ではない。
冗談もない。
悠真は黙って頷き、後について歩く。
向かった先は、X地区の外れにある小さな管理棟だった。
普段は使われていない、半ば倉庫のような建物。
中に入ると、そこかしこに魔導端末が陳列されていた。
壁際に置かれた端末は、X地区のものとは明らかに違い
古いが、整備は行き届いている。
「触るなよ」
ケンが先に釘を刺す。
「これは“ここのモン”じゃねぇ」
端末の画面が点灯する。
中央地区管理局規格の認証表示。
悠真は、そこで初めて理解した。
――もう、見られている。
画面に表示されたのは、淡々としたログ。
[ 記録:X - EAS - 17 ]
> 手順逸脱
> 事前報告なし
> 判断根拠:未記載
> 再現性:確認不可
魔導晄炉の停止操作。
あの一連の行動が、そのまま抜き出されている。
だが――。
爆発の有無も、被害の軽減も、どこにも書かれていない。
赤字で一行だけ、補足があった。
> 評価不能な判断基準を確認
ケンが言う。
「中央はな、
“正しいか”より先に、“制御できるか”を見る」
X地区の空気は、今日も変わらない。
誰も点数をつけない。
誰も、順位を決めない。
それでも。
管理側の視線は、確実にここまで届いている。
評価されないということは、
見逃されないということでもある。
悠真は、端末から目を離した。
胸の奥で、静かに理解する。
――それでも、あの時止めた判断を、
間違いだったとは思わなかった。
声に出さず、誓いもしない。
ただ一つだけ、腹に落とす。
評価されない選択は、
見逃されない選択でもある。
それでも進むなら、
最初から、見られる覚悟を持つだけだ。
それでいい。
それが、悠真の出した答えだった。




