No.003:X地区へようこそ!
X地区は、思っていたより静かだった。
警告音も、監視ドローンもない。
それだけで、この場所が「例外」なのだと分かる。
割り当てられた居住区画は、古い集合住宅の一室だった。
最低限の生活設備。
だが、スコア表示パネルはどこにもない。
それが、妙に落ち着かなかった。
「新入り?」
背後から声をかけられ、振り返る。
年は二十代前半だろうか。
癖毛を短く切った髪、気の抜けた笑顔。
「ここ、X地区」
男は自分の胸を指さす。
「オレは賢司。」
「ここじゃ、みんなケンって呼ぶ。」
「お前さんも、それでいい。勝手にガイドしてるだけ」
ガイド、という言葉が、この場所に似合わなくて少し笑えた。
「スコアは?」
無意識に聞いてしまう。
ケンは、肩をすくめた。
「聞かないのがルール」
「ここじゃ、それはもう意味がない」
歩きながら、地区の中を案内される。
古い魔法陣を改造した給電装置。
規格外の端末。
誰かが勝手に作ったらしい施設。
どれも、制度の外側で生きている感じがした。
「ここに来る連中はな、二種類いる」
ケンは言った。
「低スコアで追い出されたやつ」
「……もう一つは?」
「違和感を持ったやつ」
胸が、少しだけ痛んだ。
「数値に納得できなかった」
「自分が、自分じゃなくなる感じがした」
言葉にできなかった感覚を、
ケンはあっさり口にする。
「お前さんは?」
視線が向けられる。
答えに、少し迷った。
「……測定不能、だった」
一瞬、ケンの表情が変わる。
驚きでも、恐れでもない。
興味だ。
「へえ」
「それは、珍しい」
「怖くないのか」
思わず聞いた。
「何が?」
「評価されないことが」
ケンは立ち止まり、空を見上げた。
「最初はな」
「でも、慣れる」
「ここでは、誰も点数をつけない」
「代わりに…」
ケンは、こちらを見る。
「何ができるか」
「何を選ぶか」
「それだけだ」
胸の奥で、何かがほどけた。
評価されない。
でも、無価値でもない。
そう思えたのは、初めてだった。
「居場所を、見つけたらいい」
ケンは言う。
「ここは、自由じゃない」
「でも……逃げ場にはなる」
X地区の夜は、穏やかだった。
「そういゃ、お前さんの名前、
聞いてなかったな。なんて呼べばいい?」
「…ゆうま」
「俺は、悠真だ。」
「そうかい、じゃあ、ユー。そう呼ぶぜ」
ここX地区は、評価のスコアもランキングもない。
ただ、人の気配だけがある。
そして――
評価されないということは、
俺が失敗しても、消えても、
誰にも知られないということだ。




