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遠延の蝶  作者: 抹千猫
1/1

《野蝶》




風になびかれ草木の音がする。

空気は乾燥し始め、紅葉の終わる時期。足元には落葉した葉が落ちており、歩くと心地好い音がする。


「ここかな。」


目的地は谷で分断され、外界との関わりが少ない辺境の村。


「にしてもさ…橋がオンボロすぎないかな…」


異様な程までにボロボロで、強い風が吹いただけで崩れてしまうんじゃないかと思う。


「怖!…い、けど意外と頑丈…?これなら難なく…渡れそうだね…」

「にしてもこんな長かったかな」


少なからず怖いと感じる感情のせいだろうか。思っていたよりずっと長い橋を渡っている。


「ひぇー、落ちたら死んじまうよ…ん、何か…《蝶》かな……?」


橋の下に、まるでもう1本の橋を描くかのように蝶が光り集まって太い1本の束になっている。


「蝶がいるとは聞いてたけど、こんなにだったなんて…早めに律さないとまずそうだね」


それに魅入られる前に目を離し、足早に橋を行く。

橋を渡りきると一人、女性の村人が立っていた。その奥には夫だろうか?同じくらいの年齢の男性が立っている。


 八子「私は 八子(やこ) と申します。来て下さりありがとうございます、 蝶律師 様」

 琴野「そんなに改まらないでください。別にお偉い方でもなんでもないですから。私は 琴野(ことの) と申します。それで、呼ばれた理由と言うのは?」

 八子「最近…いや、ここ数年、農作物の出来が急に悪くなってしまいまして…案内しますよ、ついてきてください」

 琴野「ありがとうございます。そちらの男性は」

 浩介「そいつの夫の浩介(こうすけ)だ。もうそろそろ夜だ。女達だけじゃ心配だろう。」

 八子「お節介な人でしてね…あんな面していますが、優しい人ですよ」


八子 に案内され後ろをついていく。橋を渡る前とは違い、辺りは紅々と染まった竹の葉の天井が広がっており、どこか開放的だった。

もう少し歩くと竹林を出て、一面の田畑が広がっていた。規模の割に蝶が殆どおらず、明らかに作物の出来が悪いことが分かる。


 八子「この一面の田畑なのですが…どこももう米が出来て良い時期なのに、どれだけ待っても米が出来ぬのです。実りも悪く、このままじゃいつか飢えてしまい…」

 琴野「なるほど……」


蝶が原因で作物の成長が阻害されることがある。大抵は、何かの外的要因があることが殆ど。土壌が悪い訳でも無さそう。

村のどこでもこの状況なら、かなり大きいことがあった筈。今回の原因はなんだろう…何かこの村であったのかな?

少し思案していると、八子が話す。


 八子「村長の宅を案内しましょうか?」

 琴野「お願いします。どういう状況なのか詳しく聞かせてもらいたいです。」

 八子「わかりました。少し歩きますね」


道中の田畑も全て同じような状況だね…枯れていたりするわけじゃない、まだ青いだけのような…


 八子「おーい村長さん!蝶律師の方が来たよ!」

 村長「本当か!ちょっと待ってろ!」

少し遅れて返事をし、家の奥から歩いてくる音がする。そして、ガラガラと音を立てて戸を開ける。

 村長「おお、あんたが蝶律師かい、良く来てくださった。とりあえず中に入って話をしよう、茶くらいしか出せないが」

 琴野「いえ、ありがとうございます」


 琴野「それで話って言うのは、やはり農作物のことでしょうか。」

 村長「ああ、ここずっと作物の出来が悪くてな。ずっと青かったり実りが悪かったりなんだ。それで他の村の村長と話したんだが、蝶ってのが原因かもしれないって聞いてな。蝶律師って人がいるっちゃ聞いて、呼んだんだ。ここに来るまでに畑があったと思うんだが、どうだった?」

 琴野「ええ、先程八子さんに案内してもらって見てきたのですが、やはり蝶が関係しているかもしれません」

 琴野「蝶は基本、畑等の人と自然が関わる場所にいます。何か特別なことが起きて離れてしまうのが殆どで、それによって環境を乱してしまうことがあります。その原因を特定し解決すれば戻ってきますが、何か心当たりとか無いでしょうか…」


村長が少しの間考える。


 村長「…四年前の夏だったか。まだ二十にもなってない息子と喧嘩しちまって、どっかいっちまってな。いくら探してもみつからねんだ。村を出ちまったのかと思ったんだが…思えばその後から、作物の育ちが悪かったかもしれん…」


人が一人いなくなっただけでこうもなるのか…?いや、蝶律師でもない限り蝶を操ったりは出来ない。

一人にほぼすべての蝶がついていくなんてあまり考えられない。となるとやっぱり何かあったのかな…


 村長「…やっぱり、何か関係があるか?」

 琴野「………確実なことは言えません。たった一人にほぼすべての蝶がついていくのは、あまり考えられないです。ただ、もう一度調べてみる必要はあるでしょう。蝶が完全にいなくなってしまった訳ではありません。なんとかやってみます」

 村長「ありがとう、何か助けが必要なら言ってくれ」


出されたお茶を頂き、村長宅を後にする。


 琴野「さて…蝶の力を借りるか迷うな…」


蝶の力を借りると、蝶が消えてしまうことがある。この蝶が殆どいない場所で、それは避けたい。


 琴野「といっても、出来ることもないよねぇ…」


一匹二匹使うだけならなんとか大丈夫かな…?というか、本当に息子さんは村を出ていっただけなのかな…


 八子「あ、琴野さん。村長との話は終わりましたか?」

 琴野「はい。少し聞きたいんですけど、村長の息子さんがどこに行ったとか、分かりますか?」

 八子「息子…藤助(とうすけ)のことですか、私にも…急にいなくなってしまったので、他の村の人も知らないと思います」

 琴野「そうですか…」


 八子「こんな時間ですし、もし良かったらうちに泊まっていきませんか?こんな状況なので、豪勢なものは出せませんが…」

 琴野「本当だ、もう日が沈む…では、お言葉に甘えさせてもらいますね」

 八子「勿論です。ゆっくりしていってください」


八子と浩介に夕飯をもらう。


 八子「どうでしょう、本日は」

 琴野「ん、ああ、蝶のことですね。実は全然分かっていなくて…何か情報があればいいんですけどね…」


本当に困ったなぁ、これじゃ何も…

……ん?いや、違う。いたじゃん、蝶。

下が見えないくらいの谷に、蝶がいたじゃん。なんで忘れてたんだ…?いや、これも蝶のせいだ。蝶は自分達を隠そうとする、多分忘れさせられたんだ。


 琴野「…もしかしたら」

 八子「?」

 琴野「浩介さん、ついてきてください!八子さんは薬師と村長を谷の橋につれてきてください!」

 浩介「んっ?!わっ分かった!八子、頼んだぞ!」


浩介を連れて外に出て走る。


 琴野「はぁ、はぁ、やっぱり蝶が沢山いる。多分このしたに藤助さんがいるかもしれません!」

 浩介「本当か?!だが、こんな崖じゃ降りれないぞ」

 琴野「大丈夫です。蝶の力を借ります。」


 蝶よ、汝に応え汝を助けよ。


 琴野「浩介さん、私飛び下ります」

 浩介「は?!いや、おい待っ」


琴野は勢い良くジャンプし飛び下りる。


 八子「浩介!琴野さんは?!」

 浩介「蝶の力を借りるとかいって飛び下りちまった!」

 八子「えぇ?!」




いってて…蝶のお陰で怪我は…無さそうかな、良かった。……多分、藤助さんがここら辺にいると思うんだけど…


 琴野「いたっ藤助さんですか!大丈夫ですか」


倒れている藤助に近寄って見る。


 琴野「意識はないけど怪我はない…蝶の力かな、大丈夫そうで良かった…早めに戻ろう。蝶の力が借りれなくなる前に」


 蝶よ、汝に応え汝を助けよ。



 

 八子「…との…ん、琴野さん、大丈夫ですか?」

 琴野「ん…あれ、私…」

 浩介「下から飛んできて驚いたよ。とりあえず薬師に見てもらったが、あんたも藤助も無事だ」

 琴野「本当ですか?良かった…」

襖が開く

 村長「あっ琴野さん!起きたか、良かった。藤助を本当にありがとう。でも、どうやって見付けれたんだ?」

 琴野「ここに来る時、橋を渡る際に下に蝶の群れを見たんです。それを思い出して、もしかしたらと」

 村長「そうなのか、蝶律師ってのは凄いな…」

 琴野「作物が育たなかった理由は、恐らく蝶が時間を使っていたからです。作物の時間を利用して藤助さんを生かし続けていたのでしょう」

 村長「ということは、畑も元通りになるっていうことか、本当にありがとう。何と礼を言ったらいいか…」

 琴野「良いんです。それに、私はもうこの村を出ないとなりませんから」

 村長「そうなのか?どうしてだ、少しくらい休んでいっても」

 琴野「蝶の力を使った者がそのまま留まると、また環境を乱してしまうことがあるんです。時間を置けば大丈夫なのですが」

 村長「そう、なのか」


 八子「では、今度近くに来ることがあったら寄っていってください。その時はご馳走しますよ」

 琴野「ありがとうございます。では、私はそろそろ行きますね」

 浩介「気を付けて行くんだぞ」

 琴野「はい。では、また今度」


畑をなるべく避け、竹林を抜け、橋を渡る。


 琴野「うぅ、この橋、本当に馴れない…村長さんに言っておけば良かったな」


蝶は、律し方によって益にも害にもなる。

私は人と蝶が共存できる環境を目指す。

それが、私の律し方だ。




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