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1 衝撃の事実

 ファンタジー学園では、毎年九月になると学園祭が執り行われる。様々な世界よりやって来た人々の祭りということもあり、その装いはまるで万国博覧会と言ってもいいだろう。


 世界毎に集まったり、高等学校以下はクラス単位での参加だったり。様々な催し物がキャンパスの中で繰り広げられ、日本全国、それにとどまらず世界中から観光客が訪れる。

 学園が誇るというよりも、もはや国が誇ると言っても過言ではない。


 一方、大学に通う人たちは呑気なもので、クラスというものが存在しないため、模擬店や催し物といったものを行うのは、サークル活動をしている人達に限ると言ってもいい。

 同じ講義を受けている者が集まって行うこともあるが、それはやる気のある者がやる気のある者を誘って、という前提があり、それ以外の者はただ、祭りを楽しむ観客に徹するのみだ。


 私も、後者であるはずだった。大学に通うようになってから、ずっと観客に徹してきた。元来、人見知りをする性格であるし、高校までは集客が見込めないようなことをする部活動に参加し、のんびりと店番をして過ごしたものだ。

 賑やかな場に、自分の居場所を見出せなかった。そう言ってもいいと思う。友人同士という小さなコミュニティであるなら、自分を出すことは出来るのに。勿体ないと感じたことも、多少はある。


 そんな数少ない自分を出せるコミュニティ、私が参加するミステリー同好会は、基本的に学園祭にはノータッチだ。何かやりたいよね、なんて話は持ち上がるものの、誰も何かを提案したりはしない。そうして、自然と話は消えていくのである。

 そもそも活動内容からして、学園祭というものに向いていない。ミステリー小説を読んで、たまに感想を言い合って。それで済んでしまう活動なのだから。


 それに加え、推理小説研究会と、未確認生物や未確認飛行物体等といったものを調べる、ミステリー研究会も存在しているため、これと言った活動内容を示せていない我が同好会は、肩身が狭いという現状もある。


 だから、そう。今年も、賑やかな場を眺めるだけの日々が始まるのだと、私は、一ヶ月前まではそう思っていた。


 ――時は八月。暑さ真っ盛りの富士の麓。夜になれば山頂に向かうライトの筋が、幻想的に映る季節だった。


 都市と言っていいほどの広さを誇る学園にある、いくつかの住宅街。そのうちの一つにある地上十五階建てのマンション。その十四、十五階が私の暮らす住居であり、メイドと二人で暮らすには広すぎるメゾネットである。

 十五階に当たる二階部分は、主にパーティールームやゲストルームで占められており、カラオケが備わっていることから、数少ない友人を泊めて朝まで盛り上がる、なんて使い方が主だった。


 そんな殆ど娯楽にしか使われていなかった空間に、普段とは不釣り合いな重たい空気が充満していた。そこにいるのは四人。私とメイド、そして、ごくごく偶に泊まりに来ることがある、生まれ故郷の王家に仕える家臣だ。


 室内の片隅に置かれた対面するソファーにそれぞれ座り、間にあるテーブルには、メイドが用意した自慢のお茶と菓子が並ぶ。


 クラシカルなメイド服とは正反対の和菓子の数々。私はその中の羊羹を楊枝で割って、一口大にしたそれを口に運ぶ。

 甘い。とても甘い。けれど、世の中そんなに甘くない。


「もう一回、聞いていい?」

「我が国の王族は、姫様を除いて、すべてお亡くなりになりました」


 右の大臣が言う。私から見て右だ。あえて言おう、意味わかんない!


「ちょっと待って、先月、お父様が会いに来たんだよ?」

「病に冒された王の、最後の望みでした」


 最後に言うことがあったでしょうが!


「お兄様がいたよね?」

「実は、病気で幼少期の内に亡くなっていました。その後、子宝には恵まれず、今度こそと思うままに、今に至ります」


 呑気な生活の裏に、そのような重大な事態が起きていたなんて!?


 などのツッコミをひとしきり終えたあと、二人の大臣はいそいそと帰宅の途についた。あまりの急な展開に、私の身体は根を張ったようにソファーから離れなかった。

 二十一歳にもなって、こんなに喚くのはどうなのかと思ってしまうが、事が事だけに仕方がないと思いたい。私は、人に物静かな印象を与えるのが常なのだが、ツッコミを入れるタイミングは逃せない質なのだ。それを遺憾無く発揮し、若干の気疲れを感じているせいもあるかもしれない。


 ことの重さ故に、きっぱりと断ることも出来なかった。そんな中でもしっかりとツッコミを入れたのは、まぁまぁの及第点ではなかろうか。

 そもそも、私は今の生活に満足している。権力なんて要るはずもなく、威張るような性質でもない。今更新たな境地に足を踏み入れるような度胸もないし……、と頭を悩ませては羊羹を口に運ぶ。


「美味しい。美味しいよぅ」

「静岡の有名な羊羹です」

「なんて名前?」

「ヴァンシュタイン」


 それは洋館……、ではなく城だ!


「こんな時でも平気でボケるんだもんなぁ。まぁ、いいや。私はテレビでも観ているからさ。美味しい晩御飯をよろしくね」

「瓶ビールを冷やしておきますね」


 王冠は要らないから! そう言い残して、私は部屋を出て階段を降りる。間取りとしては、広いリビングにトイレが二つ。風呂も大きくキッチンも広い。三つある部屋も広々としている。そんな感じだ。

 ネームプレートが掲げられた部屋に入り、テーブルの上に置かれたリモコンを取る。この時間帯なら、アニメの再放送があったはずだ。この時間に家にいることは少ない私だが、今日は来客があったのだから仕方がない。あまりアニメは見慣れていないのだけど、古いアニメなら入門編には丁度いいだろう。


 テレビはゲーム専用のモニターになって久しいし、幼少期には観ていたであろうが、その記憶も殆どない。そんな調子なのだ。今更故郷に戻って、何になるというのか。


 電源ボタンを押して、チャンネルを合わせる。


『おーほっほっほっ。貴女のようなぽっと出の姫など、此処に居場所はなくってよ!』


 私の人生を映したような主人公が、お妃様にいびられていた。テレビを消そう。


「あーあ。私はもう、一般市民でありたいんだけどなぁ」


 もう一度テレビの電源を入れ、今度はゲーム機のスイッチも入れる。こういう時は、気分転換に限る。ゲームの中でなら、私はいとも簡単に無双ができるのだ。そんな感覚、現実では要らないかな。

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