エピソード「八」 味のしない潮風
七つの大罪、嫉妬のインウィにより、殺されてしまったラエティ。セカイは必死でラエティを抱き抱え、町へ急ぐ。
◯
「はぁっ、はぁっ!」
俺は、走っていた。腕の中で動かないラエティを抱えて。
「っ、はぁっ!」
もう、無理だってわかってる。でも、魔法とかで助かるかもしれない。
「っ!はぁっ、はぁ!」
俺が、連れていなかきゃ。俺が、ラエティを…
熱い。全身が熱い。走ってるから?いや、違う。
体が重い。足が動かない。
鼓動が速い。
眠たい
◯
「っあ!!」
気づけば、見慣れた部屋にいた。ここにラエティはいない。
あるのは、現代日本の物ばかり。
朝日と静寂が、俺を馴染ませていく。
「っ…俺は、最低だ…。」
それでも、涙は出てこなかった。
◯
「では、みなさん各自グループで行動するように。以上。」
疲れ切った先生の声が、周りの騒音に負けずに響く。
「よっしゃ、行くぜ、世界!まずはジェットコースターだよな!」
瑠輝が俺の肩を掴み、ほぼ叫びに近い声で言う。
「...ん、あぁ。」
一つ遅れた返事をしてしまう。
「どうしたー?世界、いつにも増して元気ないじゃん?」
同じ班員の三玲がそう言う。
「まぁまぁ、こいつにも色々あるんだよ。だからこそ、楽しませてやるからな、世界?」
瑠輝がそう言う。余計なお世話なのに。
「いやー、思ったより早く乗れてよかったな。」
ジェットコースターの前の座席に座っている、班員の山口が瑠輝の方を見て言う。
「それでも、20分も待ったけどね。」
三玲が嫌味のように言う。
「でもラッキーな方だろ?いつもは30分以上も並ぶらしいし。」
隣の瑠輝が言う。
「ま、そうだな。ポジティブに考えた方が良いか。」
山口があくびをしながら言う。
しばらくしないうちに、ジェットコースターは動き出す。
決められたレールをたどい、決められた速度で、決められた動きで進む。
これに意味なんてあるのか?
○
そこからは、あっという間だった。なぜなら、ほぼ何も覚えていないから。
ずっと、心の風穴が気になっていたから。
「なぁ、世界?」
レストランに向かう最中、瑠輝は俺の方に顔を向け、言う。
「まぁ、なんだ?面白い考え方だと思うが、中二病はほどほどにな?」
っ!そうだ、これは中二病だったんだ。そういうことか!
とたんに、俺の心の風穴が、埋もれていく。
そうだよ、全部夢で、俺が中二病だからだ。気にしないのが正解なんだ。
その後の記憶は、無い。楽しかったはずなのに、覚えていなかった。
○
「ただいまー。」
玄関の扉を少し強く開けて、靴を脱ぐ。
「あら、世界おかえり。どうだった?遊園地は楽しめた?」
出迎えるようにママが来る。
「え?あぁ、うん。みんな、楽しそうだった。」
妙に重い体を、ソファに放り投げる。
「そう、それならよかった。じゃあ、夜ご飯できてるし、食べよっか。」
少し、寒いな。隙間風が吹いてる気がする。でも、わざわざ立ち上がるのも面倒だ。いいや、気にせず寝よう。
いや、寒い。やっぱり閉めよう。
そうだよ、閉めなくちゃ。
○
ん...来てしまった。こんなに来たくないと願ったのに、また潮風の部屋で目覚めてしまった。
一瞬、あの出来事は夢だと疑った。でも、床にある折れた剣を見れば、すぐに否定された。
「...伝えなきゃ、ラエティに。」
俺は体を起こし、マレの町の村長の家に向かった。
○
俺が、扉をノックする。
「...入っていいぞ。」
俺は心の風穴を掘っていく。
「ラエティは...私の本当の娘みたいだった。」
ちょっとだけ、寒い。
「みんなに優しくて、素直で明るい子だった。」
ちょっと、寒い。
「だからこそ、心配していたんだ。疲れてないか、とね。」
少し、寒い。
「でも、君が現れてからは、心配しなくなったよ。勘によるものだけどね。」
結構、寒い。
「...君を責めている訳ではないんだ、セカイくん。ただ...もう一度、ラエティと話してくれないか?」
とても、寒い。
目の前のベッドに、横たわるラエティがいる。昨日と変わらない姿で。
俺はベッドの傍にしゃがみこみ、ラエティの手を握る。もう、寒くない。
「...ラエティ、守ってあげられなくてごめん。」
本心かはわからないが、頭に浮かぶ言葉を口にする。
「でも、決めた。俺はこのまま、逃げたくない。目を反らしたくない。」
ラエティの手を強く握る。
「俺が、七つの大罪を滅ぼす。それしかできないから。」
その時、ラエティの手の甲に水滴が落ちる。
それは、俺が流した唯一の、一滴の涙だった。
連続投稿、3 CONBO!




