エピソード「六」 海岸の町、マレ(5)
ラエティと星空を見る約束をした巴世界。そのお陰か、最近は毎日が楽しく感じていた...
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ふぁ...あぁ。いつものベッドだ。学校行かなきゃ...
俺は着替えて階段を降りて、美味しそうな朝食が用意された机に座る。そして、ほぼ寝ぼけたままご飯を食べる。このトースト、美味しいなぁ...
「こら、世界。食べたまま寝ない。」
ママが俺の頬をつまむ。なんてことない、色のない日常。だけど、今日だけは現実世界も鮮やかに見えた。
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「巴、世界さん」
「はいっ。」
俺が少し元気に返事をしても、その声は教室内ではあまり響かなかった。クラスのみんなが、明日の校外学習を楽しみにしているのだ。
ホームルームが終わり、少し興奮気味の瑠輝が俺に話しかけてくる。
「なぁ、世界!ついに明日だせ!俺、今夜寝れる気がしないぜ!」
「いや、それはさすがに盛りすぎだろ。」
「そんなことないぞ!世界も楽しみだろ?な?」
なぜ、たかが校外学習なのに盛り上がってるかって?それは、校外学習なのに遊園地に行くからだ。中学三年生で毎日が勉強漬けの彼らにとって、まさに天国のような一日なんだろう。そんなに勉強してない俺は、瑠輝に苦笑いしておいた。
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「ただいまー」
いつもより少し軽い体で玄関を開くと、ママが話しかけてくる。
「おかえり、世界。今日は学校どうだった?」
「みんな、明日のことでずっとはしゃいでたよ。ホント、みんなまだ子供だ。」
俺は少し傾けた首を横に振る。
「まぁまぁ。でも、世界も楽しみでしょう?」
「いや、別に…。まぁ、久しぶりに瑠輝と遊べるのは嬉しいけど。」
俺と瑠輝は、幼稚園からの幼馴染だ。なにかと、昔から瑠輝の明るい雰囲気に助けられていた気がする。
「中学三年生になってから、瑠輝くん毎日勉強漬けだもんね。…明日、みんなを気遣ってあげてね?」
ママが、俺に対して少し睨みをきかせる。多分、俺が全然勉強していないからだろう。
「わかってるって。あと、俺は勉強しない方が向いてるんだよ!」
その後、すっかり夜が深まり、静寂も深まっていく。
俺は、まるで子供のようにベッドに潜り込む。俺の心臓が早く脈打っている事がわかるが、30秒も経てばそんなことを意識できなくなっていく。
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「…んん。ここは…。」
俺は、潮風が溜まっている部屋で目を覚ます。
良かった、無事異世界で目覚められた。
「さてと、今日はラエティと約束があるが…それまでは、マレの町をぶらぶらしようかな。」
俺はゆっくりと体を起こし、呑気にあくびをした。
◯
「こんなふうに町を歩くのは、初めてだな。」
マレは、大きな港から伸びた中央通路に連なって形成された町だ。恵まれた気候と立地により育てられたマレの海鮮物は、ククス王国の代表的な特産品となっているらしい。
「そこのお兄さん、新鮮なログマフィッシュ見ていかない?さっき獲ったばかりだよ!」
声のした方を見た瞬間、俺は驚く。店主の女性が、3mはありそうな巨大魚を片手で軽々と持ち上げていたのだ。
「あれ、ログマフィッシュを見るのは初めて?この時期は身に脂がたっぷり乗ってて、刺し身がおいしいんだよ。」店主が持っているログマフィッシュが、店主の言葉に同意するかのように「ビチッ!!」っとはねる。
「なんなら食べていかないかい?ウチは店もやってるからね。」
店主が後ろを指差した先には、ほぼ家のような食事店があった。
「じゃあ、お言葉に甘えて...」
その時
「店主さん!今日も来たよ!」
見覚えのある赤髪の少年が、声をあげる。
「お、セカイじゃん!お前もここで昼飯か?」
「うん、そうしようと思ってた。」
俺は、ラグニスに対してそう答える。
「なら、ここを選んで正解だったな。この店の料理、全部うまいんだよ!全メニュー制覇した俺が保証するぜ?」
「そう言ってもらうと嬉しいねぇ。さぁ、店入りな!」
店主が、俺とラグニスを店に連れて行く。
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「はい、お待ちどおさん。ログマフィッシュの刺し身、二人前だ。」
目の前の机に、大量の刺し身が乗った巨大な丸皿が置かれる。マグロの刺身っぽいな…
「んん〜!口の中でとろけるみたいだ!」
もう料理を食べ始めているラグニスが、そう言う。てか、刺し身を素手で食べるのか…まぁ、箸なんてあるわけないもんな。俺は、刺し身を一枚口の中に入れる。
「んまっ!」
脂身が多く乗った赤身の刺し身が口の中で溶けてる!まるで口の中に鮮やかな海があるみたいだ…!現実世界のマグロとは比べ物にならないほど美味しいぞ!
「お、セカイもここの料理にハマったか?」
「あぁ、めっちゃ美味しい!」
「そういってもらえたら嬉しいよ。ほら、サービスもするから沢山食べな!」
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「ふぅ~、腹一杯だ!」
俺は、満杯になった腹をさすりながら再び大通りを歩いていた。
「俺も、もう何も食べられないぜ...セカイ、よく食うな。」
俺のとなりでは、食べ過ぎで重くなった体を、ラグニスは引きずるように歩いていた。
「まぁ、妙にお腹すいてたからね。」
「そうか...っと、俺このあと用事があるんだ。またな一緒に飯食おうぜ。」
ラグニスはそう言い、俺とは別の方向に歩き出す。俺は軽く手を振り、マレの町観光を再開した。
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それからしばらく経ち。約束の時間になり、俺は橙色に染まる草原を歩いていた。
「セカイくん!来てくれたんだね。」
ラエティが、小走りで俺のそばに来る。
「そりゃ、約束事だし。にしても、キレイだな。」
いつもの爽やかな青色と地面の新緑は、今はどちらも琥珀色に染まっていた。
「でしょ?でもね、夜になるともっとキレイだから。ほら、ここに座って待ってようよ。」
ラエティは、大きな岩に腰を掛ける。俺も、隣に座った。
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どれくらい経ったのだろうか。空は鮮やかな朱色になり、木々には黒色が覗いている。
「...前に、わたし。両親はいないって、捨てられたって言ったよね。」
久しく感じられた振動に、俺は意識がはっきりする。
「でもね、違うの。わたしは、捨てられたんじゃなくて、逃げたの。」
ラエティの声が、震えている。冷たく震えている。そして、俺の目を見る。
ラエティの目には、涙が浮かんでいた。
「わたし、自分の両親を殺したの。」
その言葉に、俺は驚くべきだったのだろうか。でも、俺はただ興味が湧いた。
「...どうして?」
最低だな、俺。でも、こうするのが正解な気がする。
ラエティの目が少し見開く。
「わたしの両親は、貴族だったの。わたしも、7歳までは貴族の娘だった。幸せだった。楽しかった。お父さんと、お母さんと、妹と。」ラエティの声は、何故か落ち着きを取り戻している。
「わたしには、友達がいた。両親が治める土地に住む、普通の男の子だった。でもね、突然いなくなったの。跡形もなく、物も、部屋も。」風が、吹く。
「わたしは不思議に思って、いろいろ調べてみた。そして、裏山の暗い洞窟に、お墓があったの。わたしの友達の名前だった。わたしの両親、わたしの友達を殺したの。でも、ただ殺しただけじゃない。」
風が、止まる。
「七つの大罪に、わたしの友達の魂を差し出したんだって。」
「しかも、これまでで116人もそうしたんだって。わたしの両親、116人も殺して、その分七つの大罪を強くしてたの。意味わからないでしょ?」
「脅されてたんだって。七つの大罪に。だから、生け贄を捧げたんだって。わたしは、許せなかった。両親を可哀想だとは、思えなかった。皆のために、わたしは殺した。そして、逃げた。」
「でも、悪いことだとは思ってないよ?妹はちゃんと逃がしたから。妹には、普通に生きてほしかったから。」
「...ねぇ、セカイくんはどう思う?わたしは、幸せになる資格はあるのかな?両親を殺したのに、わたしだけ幸せになっていいのかな?」ラエティが、細い声で呟く。
「『事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。』...つまり、全部ラエティの自由なんだよ。資格がないと思うならそれでいいし、あると思うならそれでもいい。その上で、これから何をするかが大切だと思う。」ふぅ、今頑張って考えたことを言ってみたぞ...
「ふふっ、なにそれ。それじゃ、本当に自由じゃん?」ラエティは、そっと笑う。その後、ラエティは立ち上がる。
「ねぇ、見て。」
空は、闇だった。でも、闇の中には数々の光があった。地平線から見え始めている夜空は、まさに満点の星空だった。
ぐおおおっ!1ヶ月+5分!




