エピソード「二」 海岸の町、マレ(1)
中学3年生である世界は、短剣に触れた夜、不思議な夢を見る。リアルだな、と思っていた矢先、世界は腹を剣で貫かれ、死んでしまう…。
◯
「うわぁっ!?」
気づけば、俺は現実のベッドに横たわっていた。もちろん、腹に穴なんて空いてないし、吐血もしていない。
「夢、か…。」
夢にしては、妙にリアルだった。潮の匂い、海風の肌触り…そして、あいつに刺された痛み。
あぁ、クソ。今になってムカついてきたぞ。初対面の人の腹に、剣をぶっ刺すとか…。
◯
「巴、世界さん。」
「はい。」
いつもと変わらない日常。
朝のホームルーム。担任に名前を呼ばれ、それに答える面倒な時間。
そして、授業。俺にとっては簡単な内容を、隣の奴は
「ムズすぎてハゲそう!」
などと言っている。なら、なんで俺はハゲてないんだよ。お前がバカなだけだろ、と思う。
そして、昼食を食べ、また授業を受ける。そうすれば、部活なども入ってないため、速攻で帰宅する。
最近は、どれだけ早く家に帰れるかが、楽しみになっている気がする。
「ただいまー。」
「世界、おかえり。今日は学校どうだった?」
「いつもと変わんない。てか、別に聞かなくてもいいじゃん。興味ないだろ?」
「世界が学校でイジメられてないか、心配なのよ。」
はぁ?俺がいじめられてる訳ないだろ。いじめてくる奴らがいたら、そいつらボコボコにしてやるよ。
とまぁ、これの繰り返し。最近は、この生活に何の《意味》があるか、わからなくなってきた。
◯
「…マジか。」
確か、俺は自分の部屋のベッドで寝たはずだ。だけど、知らない宿屋のベッドで起きたのだ。なんで、またこの世界にいるんだ?
鏡を見る。銀髪、水色の目、イケメン…やっぱり、あの夢の世界だ。だが、この世界の俺は死んだはずじゃ…?
「あ、起きた?良かったわ。」
俺が驚き、振り返ると、そこには昨日俺を殺した長髪の赤髪の女がいた。
「大丈夫、もう殺さないわ。私はヴィネ。昨日は悪かったわ。ある人の借りを返すためだったの。」
信用できるか…!!
俺は、ベッドの近くにある剣を取り、構える。剣なんか触ったこともないが、ないよりかはマシだろう。
「私は、ボウヤの正体を知ってるわ。別の世界から来たのでしょう?」
別の世界?まぁ、夢だから別の世界とも言えるか…。って、夢なのに俺の事を知ってる?いや、よくある事か…(?)
「私は、別の世界から来た存在と仲良くなりたいと思ってるの。」
「信用できるわけないだろ!」
「でも、昨日の傷は私が治したわよ?」
俺は、自分の腹を見る。傷はすっかりなくなっているが、うっすらと傷跡が残っていて、温かさを感じる。でも、なら何で1回殺したんだよ…。
「ボウヤ、この世界にきたばっかりね?わからない事だらけで困っているでしょう。」
特にお前のせいでな…!
「まず、私達がいるこの街は『マレ』と呼ばれる街よ。さらに、マレはククス王国という国の中にあるわ。」
マレ?ククス王国?夢だとすると、妙に設定が凝ってるな。てか、この世界って本当に夢なのか?俺、本当に異世界転移してるのか?
「そして、この世界は剣と魔法の世界ね。人々は日々、魔物たちから自分の身を守るために戦っているわ。」
剣と魔法?魔物たち?…この世界は、本当に『異世界』なのか…。
これは、夢じゃない。もう一つの現実だ。そう思うのが、なぜかとても簡単で、受け入れられた。
それと同時に、俺の心の虚無感が満たされていく。
「とりあえず、ボウヤ。昨日のお詫びとして…私の力を少し、分けてあげるわ。」
ヴィネが、俺の胸に手を当てる。すると、なぜか胸が暖かくなる。
「…私は、ソロモンという組織の一員なの。私の魔力があれば、ボウヤをきっと助けてくれるはず。」
ヴィネの手が離れ、俺は一歩後ずさる。
「良い?ボウヤ、次死んだらもう生き返れないからね?覚えておいて。」
「あっ、おい!」
手を伸ばすが、ヴィネは姿を消す。
◯
俺はとりあえず、行く当てもないので街に出ることにした。そもそも、この体はもともと俺とは違う人だったのか…?
そう考えながら歩いていると、冒険者ギルドと書かれた看板に目が入る。
俺は、ワクワクしながら冒険者ギルドに入っていく。中は意外と広く、受付に掲示板、休憩所と、典型的な構造だった。
「はじめまして、ご要件は何でしょうか?」
短い黒髪に、大きな瞳。可愛らしい女の子が、受付に来た俺に話しかける。
「えっと、初めてなんですけど…。」
「あっ、ギルドカードの登録ですか?ギルドカードは、所持者の身分証ともなる物で、所持者の詳細な力を見ることもできますよ。」
「はい、お願いします。」
しばらくして、ギルドカードが机に置かれる。
「では、ギルドカードに触れてください。」
魔力の検査とか、血を染み込ませるとかはないんだな…安心した。
すると、ギルドカードに触れた瞬間から、ギルドカードに文字が浮かび上がる。
「文字が勝手に…!」
「ギルドカードはそのように、触れるだけで自動で所持者の情報が記載されていくんです。」
へぇ…便利なもんだな。
「では、続いて冒険者の説明をしますね。冒険者ギルドでギルドカード登録をしたセカイさんは、これからは冒険者として活動してもらいます。変更したい場合は、それぞれ別のギルドで手続きをお願いします。」
「わかりました。あの…具体的に、冒険者は何をすれば良いんでしょうか?」
「はい、冒険者はあそこにある掲示板からランク別の依頼を受け、解決していくという職業です。依頼を受け続けることで冒険者ランクがあがり、より高報酬の依頼を受けられるようになりますよ。さっそく依頼を受けますか?」
これもテンプレだな。どうやら、俺が想像してる異世界と、同じものらしい。
「はい、早速受けようと思います。まぁ、要は依頼された事を受け続ける便利屋って事ですよね?」
「ふふっ、大体はそうですね。では、掲示板からどの依頼を受けるか選択し、受付に持ってきてください。」
俺は、掲示板まで移動する。薬草採取に、スライム退治。貴族の護衛に…神殿の調査。大変そうだが、ザ・異世界を感じられた。
俺はとりあえず、最低難易度であるFランクの薬草採取の紙を取る。異世界といったら、まずは薬草採取だよな…!




