第二話:断罪の真意と、力を託す決意
聖なる力が暴走を始めたリリアにとって、世界は恐怖に満ちていた。
自分の意図せぬところで、周囲の植物が枯れ、人々が怯える。
それは、聖女として生まれた自分にとって、耐え難い苦痛だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい! 私、もう……止まらないの……!」
学園の中庭で、制御不能な力に身体を蝕まれ、リリアは泣き崩れた。
人々が自分から遠ざかっていくのを見て、自分が本当に「怪物」になってしまったのだと絶望した。
その時、視界の隅に、愛しい「お姉様」であるエヴァンジェリンの姿が見えた。
彼女は迷うことなく、自分に向かって駆け寄ってくる。
「ヴェラ様……どうして…?」
次の瞬間、エヴァンジェリンが、まるで過去の舞踏会のように、高らかに宣言した。
「リリア・エルトリア嬢! 貴女のその力は、世界の平和を乱す悪であると、ここに断罪する!」
その言葉に、リリアの心は砕け散った。
信頼していたエヴァ様までが、自分を「悪」と断罪する。
周囲の民衆は「悪役令嬢だ!」「やっぱり、あの子が裏で糸を引いていたんだ!」と罵声を浴びせる。
そして、エヴァンジェリンの掌から、黒い魔力の槍が放たれた。
それは、紛れもなく自分を狙っている。
(やっぱり、私は、みんなの邪魔でしかなかったんだ……)
リリアは、自らの聖なる力を完全に絶つために、自害しようと腕に魔力を集中させた。
その時だった。
エヴァンジェリンが、震える手でリリアの手を掴んだ。
「消えるな、リリア! あなたは、私の『居場所』だ! あなたが消えたら、また私は独りぼっちになってしまう!」
エヴァンジェリンの言葉に、リリアは目を見開いた。
彼女の瞳には、怒りや憎しみではなく、深い悲しみと、そして、失いたくないと願う純粋な感情が宿っていた。
(独りぼっち……?)
エヴァ様も、自分と同じように孤独と戦っていたのか。
そして、その孤独から救われるために、自分という存在を必要としてくれていたのか。
エヴァンジェリンの言葉が、リリアの心を覆っていた絶望の霧を晴らしていく。
「あなたの力は、世界を壊す力じゃない! 私に…私に、その力を使わせてくれ!」
エヴァンジェリンは、再びそう願った。
リリアは、涙を流しながら、迷うことなく頷いた。
「……はい。エヴァ様! 私の力…あなたに使ってください!」
リリアは、自身の聖なる力をエヴァンジェリンの掌へと流し込んだ。
それは、自身が「悪」と断罪されても、この世界を、そして自分を救おうとするエヴァンジェリンへの、揺るぎない信頼と、感謝の証だった。
エヴァンジェリンの身体から、彼女自身の魔力と、リリアの聖なる力が混じり合い、新たな光を放つ。
それは、闇を打ち破り、世界を救う、唯一無二の希望の光だった。
影の魔術師が、私たちの共闘に驚愕する。
「この力で、お前を断罪する!」
エヴァンジェリンの放った魔力が、影の魔術師を完全に飲み込み、彼は光となって消滅した。
戦いが終わり、静寂が訪れる。
リリアは、力を使い果たして倒れ込んだエヴァンジェリンを抱きしめた。
その温かさが、どれほど尊いものか、リリアは痛感する。
(ありがとう、エヴァ様……。あなたは、私を救ってくれた。そして、私に、生きる意味を与えてくれた)
たとえ、世界が彼女を「悪役」と呼んでも、リリアにとって、エヴァンジェリンは、いつまでも変わらない、自分を救ってくれた唯一無二の「英雄」だった。
その絆は、聖なる力よりも、何よりも強固なものだと、リリアは確信していた。