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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校三年

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私の軌跡

 r5 04/01

 今日から高校生になる。

 地元から少し離れ、誰も私を知らない高校に入学することになる。

 もう、面倒な思いはしたくない。

 傷跡のことがバレないように、友人は作らずに静かに生きよう。

 それが、私にとって一番良いだろう。


 r5 07/05

 クラス内のカーストはおおよそ決まったようだ。

 私に話しかけてくる人もいなくなった。

 本を読むには快適な環境になった。悪くない。

 ただ、どうやら三年生に目をつけられているらしい。

 面倒くさいことにならなければいいが。


 r5 09/27

 夏休みに入る前に振った先輩の腹いせだろうか。

 私に対する悪い噂が広まっている。

 クラスメイトも、こそこそと陰口を叩いている人がいる。暇なことだ。

 直接絡んでくることはないから何も困ることはない。

 ただ、これ以上の面倒事は避けたいものだ。


 r6 01/07

 新学期に入っても私に対する陰口は消えていないようだ。

 よく、関わりもない人間に対してそこまで熱量を割けるものだ。

 噂曰く、私は体を売ってお金を稼いでいるらしい。

 それが本当なら、こんなにボロいアパートに住んでいないだろう。

 もっと面白い悪口はないのだろうか、誰もが思いつく悪口はつまらない。


 r6 03/20

 お気に入りの作者の新刊がついに発売された。

 書店に行った時、平積みされた分が無くなっていたので売り切れだと落胆した。

 ただ、一冊棚の上部に置いてあったので買うことができた。珍しくツイている。

 少しだけ浮かれていて、傷口を隠す用のインナーを着忘れたが誰も見ていないだろう。

 学校に行くときだけは、しっかりと気を付けなければ。


 r6 04/07

 こないだの書店で、私の傷跡を見た人がいて、その人がたまたまクラスメイトだったようだ。

 クラスでいつも一人、沈んだ顔で窓を眺めている男子だった。

 どうやら彼も、人には言えない過去があるようだ。

 私に対する物珍しさか、それとも共感か。

 理由は分からないが、友達になりたいようだ。変わっていると思った。


 r5 05/10

 いい雰囲気のカフェを見つけたと思ったら、村瀬君が働いていた。

 雰囲気も、コーヒーも悪くないだけになんとも言えない気持ちになる。

 ただ、彼の作ってくれたパンケーキはとても美味しかった。

 あまり話しかけてこなければ、いい場所だと思うのだが。

 ……不快ではないから気にしないことにしよう。


 r6 06/12

 クラスの人気者はどうやら言葉足らずのようだ。

 衆人環視の中で、付き合ってくださいと急に言ってくるのだから驚いた。

 友達になってほしかったらしいが、言葉選びが悪すぎる。

 それよりも、私と村瀬君は傍から見たらカップルに見えるらしい。

 本人に教えてあげたら間抜け面をしていた。精々、巻き込んであげよう。


 r6 08/20

 ふと気がつけば、村瀬君と知り合ってからもう半年近くなる。

 愛想の悪い私に離れていくものと思ったが、彼は物好きらしい。

 今日も、彼の誘いで夏祭りをドミシリオから眺めていた。

 友人は作らないと高校に入るときに決めたはずだったが。

 今の生活が、悪くないと感じている自分がいる。


 r6 10/03

 あぁ、自分で自分のことが分からない。

 どうしてああも、大胆な行動を取ってしまったのだろうか。

 真っ赤になった、村瀬君の顔が頭から離れない。

 人除けの、彼氏役のつもりだったはずなのに。

 それ以上でもそれ以下でもないはずなのに。


 r6 11/15

 今日は村瀬君と水族館に行った。

 両親と行った以来だろうか。青い世界は静かで、とても心地よかった。

 がらにもなく、自分語りもしてしまった。

 プレゼントしてもらったクラゲのキーホルダーは、彼にしてはセンスがいいと思う。

 楽しかった、素直にそう思う。


 r6 12/25

 村瀬君のアパートに、無理を言って部屋を作ってもらった。

 自分が選ばないような家具が、新鮮で心が躍った。

 自分が選んだエプロンも、気に入ってもらえたようで安心した。

 久しぶりの、人と過ごすクリスマスだった。

 彼といる時間が自分にとって心地よい時間のことは、もう誤魔化せない事実のようだ。


 r7 02/14

 今日で十七歳になった。

 誕生日がこうも楽しい一日ということを、久しぶりに思い出した。

 もらったブックカバーを、使って汚してしまうことに抵抗がある。

 私があげた日記帳も気に入ってもらえるといいが。

 作ってもらったケーキは、いつもより力作で美味しかった。


 ——————————


 村瀬君が日記をつけているのを見て、ふと自分の日記を見返したくなった。

 本棚に置いてある、違う小説の表紙カバーを被せて誤魔化してある私の日記帳を手に取る。

 村瀬君が読まないように、彼の好みではないジャンルの小説に擬態させているから読まれることはない。

 今みたいに、彼が風呂などの居ないときに毎日書いていた。

 その日記に書いた、高校一年生から二年生の終わりまで読んでパタンと日記を閉じる。

 あまり気にしたことはなかったが、改めて文字で見返すと分かることがある。

 思ったよりも、早い段階で村瀬君に心奪われている。

 読み返していて、ずっと彼の名前が出てくるのが恥ずかしい。

 バレンタインデー以降は読み返さなくても分かる、もっと甘ったるい文章になるだろう。

 私は、自分が思うよりもチョロい女かもしれない。

 好きになったことは否定しないが、あくまで村瀬君から寄せられた好意に反応する形だと自分では思っていた。

 しかし、日記を読んだ後に、記憶を振り返ってみて気がつく。

 ずっと、私から先に行動しているかもしれない。

 彼氏役に無理矢理したのも私だし、文化祭で耳たぶを噛んだのも私だ。

 最近だと、キスをするのも私から無理矢理する形でしている。

 夏祭りや水族館など彼から誘ってもらうことは確かに多いが、より強い行動を起こすのは常に私からだ。

 さっきも、唇に生クリームをつけているのに気がつかないものだから、思わずキスをしてしまった。

 ……私は、思ったよりもはしたない人間のようだ。

 いや、相当に我慢をしている方だろう。

 村瀬君は私のことを過激だと言うが、彼が奥手すぎるだけだ。

 同棲までしておいて、毎日一緒に寝ておいて、どうしてあそこまで手を出さないでいられるのだろう?

 彼の恥ずかしいと思う感性がよく分からない。

 どうして好きと言ったり手をつなぐのに真っ赤になるのに、一緒に寝るのは何ともないのだろうか?

 普通、逆だと思うのだが。

 まぁ、今更村瀬君の性格を気にしたところでどうしようもない。

 これからも一緒に暮らすのだ、順々に進めていけばいい。

 そう考えてから、また日記の最初の方をパラパラとめくる。


「ふふ、私も変わったわね......」


 友人なんていらない、静かに暮らしたいと願っておきながら、今は一人の人間に首ったけになっている。

 三年か。長くなると思っていたが、過ごしてみればあっという間の高校生活だった。

 この調子なら、大学の四年間もすぐに過ぎるだろう。

 悪くない。そう思える生活も、そう考えられる私も。


「おや、ずいぶん楽しそうだね。その小説はそんなに面白いのかい? 今度僕も読んでみようかな」

「絶対に駄目、読んだら怒るわ」

「なんで読んじゃいけない本が本棚にあるの?」

「村瀬君には刺激が強いわ」

「えぇ......なおさら僕も使う本棚に置かないでよ。そもそも、刺激が強いジャンルならそんなに笑わないでしょ」

「あら、刺激が強いジャンルで何を想像したのかしら?」

「......ノーコメントで」

「顔真っ赤よ?」

「風呂上がりだからだよ」

「そういうことにしてあげるわ。ほら、寝るわよ」


 風呂上がりの、まだ髪が少し濡れた村瀬君を引っ張ってベッドに向かう。

 私とお揃いのシャンプーの匂いがする。

 この生活が、ずっとずっと続けばいいと思う。

 村瀬君も同じ気持ちならいいのに。

 寒い冬の夜には丁度いい湯たんぽ代わりになる彼の体を抱きながらそう思った。


「ねぇ、また水族館に行きたいわ」

「いいね、僕も行きたいと思っていたよ。白石さんから誘ってくれるなんて珍しいね」

「そういう気分だったの」

「今度はペンギンショーも見れるといいなぁ」

「見れなかったら、また別の日に行けばいいわ」

「ずいぶんと前向きだね、白石さんらしくもない」

「えぇ、私でもそう思うわ。でも、悪くないでしょ?」

「......そうだね、すごく良いと思うよ」


 あぁ、やっぱり。

 私はとても変わったわ。


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