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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校三年

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一般的な恋バナ

 寒い。

 十一月にもなると気温も下がり、一桁が当たり前のようになってきた。

 雪が降る地域ではもう積もっているところもあるらしい。

 カチコチに冷えたお米が、季節の変わり目を強く実感させる。

 大学も自炊するだろうし、高いお弁当箱にでも変えてしまおうか。

 いや、来年からどれだけお金がかかるか分からない生活になるのだ、少しでも我慢できる部分は我慢しなければ。

 今でも、村瀬君には金銭面で多く甘えているのだ。

 もちろん、ただで居候させてもらっているわけではない。

 食費は私が無理を言って全て出させてもらっているし、日用品や消耗品も多く出している。

 家事も出来る限りのことはしている。

 それでも、彼が払っている家賃には遠く及ばないのだが。

 いい場所に住まわせてもらっている。

 それに、ずいぶんと甘えさせてもらっている。

 彼はそう思っていないだろうが、普通の男子高校生のキャパシティーをはるかに越えているだろう。

 村瀬君が望むのならば、体を差し出しても抵抗はないぐらいの恩を感じてはいる。

 それこそ本当にパパ活になってしまうから、自分から提案することはないが。

 そもそも、健全な男子高校生なら手を出してくるのが普通だと思うのだが、彼の性欲はどうなっているのだろうか?

 自分はそこまで魅力がないのだろうか?

 いや、からかうたびに赤く染まる彼の反応からして、魅力は感じてくれているだろう。

 難儀な性格だ、ただ単に幼いだけかもしれないが。

 屋上に繋がる扉から、すきま風が漏れてくる。

 膝掛けをギュッと体に抱き寄せて、暖をとる。

 今日は、横でかしましく喋る人の姿はない。

 私は、今までどうやって冬を乗り越えてきたのだろうか?

 当たり前になってしまった温もりがないことに、違和感を覚えるほどに冬の冷気はきつかった。


「とおるちゃん、見っけ~」

「......あなた、寒くないの?」

「オシャレと機能性はトレードオフの関係にあるんだよ~」

「そんなことはないと思うわよ」

「細かいことは気にしない~、入るね~」


 冬でも夏と変わらずに、緩く着崩した制服姿の一ノ瀬さんが真横に座って膝掛けの中に入ってくる。

 自分の足に伝わる熱が、彼女の足が生足であることを示している。

 薄い肌色のタイツでも履いてると思っていたが、そんなことはないらしい。

 オシャレであることと、生足でいることに何か関係があるのだろうか?

 少しだけ考えて、ファッションなんて人それぞれのこだわりがあるのだから気にしないことにした。

 柔らかくウェーブがかかった茶髪からは良い匂いがする。

 どう手入れしているのだろうか、少しだけ気になる。


「あは~、とおるちゃんも変わったね~」

「唐突に、何?」

「だって、去年の冬なんて全然お喋りしてくれなかったよね~?」

「一年もあれば、関係性なんて変わるものでしょ」

「それもそうだね~」


 普通の人間ならば、良かれ悪かれ関係は進むものだ。

 特に、クラスのような閉じられた環境ならなおさらだ。

 意図的に、人間関係を遮らないのならば、否が応でも関わりは出来る。

 一ノ瀬さんは、私と良い関係になろうとしたようだ。

 何回も何回も冷たくあしらっても話しかけてくるので、最近ではもう普通に話している。

 そもそも、私は築いた人間関係が右腕の傷一つで崩れるのが面倒くさいから友人を作らないだけだ。

 一ノ瀬さんのように、最初から勘づいてそうな人を拒絶する意味はあまりない。

 朗らかに笑う彼女の内心は、相当に計算高い。

 これは、同性だから分かる感覚だろうか。

 人をよく見ている、感情の機微に敏感、人との距離感が優れている、マーキングが上手い。

 同性も異性も、彼女の明るさにだまされている。

 よくやる、恐怖や忌避感よりも関心が勝る。


「それで、石井君との関係は進んだの?」

「まだだよ、じっくりじっくり、温めるんだぁ。その方が、ずっとロマンチックで、思い出になるでしょ?」


 嬉しそうに語る彼女の口調が素になっている。

 目は少し虚ろで、トロンと恍惚の表情を浮かべている。

 ゆらゆらと前後に動く体からは、甘い甘い匂いが漂っている。

 石井君も、すごい女に目をつけられたものだ。


「人も場所も、全部全部決めてるんだぁ。しょうちゃんは、どんな顔してくれるのかなぁ」


 断られることを考えていないのね。

 そう口にしかけて飲み込んだ。

 恋する乙女というものは、ブレーキが利かないものだ。

 まぁ、脈が無いわけでもないだろうし、私がいないところでやってくれればそれでいい。


「とおるちゃんは~、えいじちゃんとえっちしたの~?」

「してないわよ」

「そうなんだ~、したら教えてね~」

「教えないわよ、なんでそんなこと話さないといけないのよ」

「参考になるかもしれないし。大事に取ってあるものだけど、初めては少し怖いから」

「急に真面目なトーンになられるのも怖いのだけど」

「あは~」


 にぱっと笑うその顔に、もはや可愛いという感情は湧かない。

 よくそこまで表情が作れるものだ。

 この笑顔が作り笑いだとは初見では、分かる人はいないだろう。

 石井君は気がついているのだろうか。

 ……人の関係性に口出しするのも野暮かしら。

 私たちの関係も、人に説明するのは難しいものであるし。

 チャイムが冬の乾いた空気に鳴り響く。

 あまり温かくない教室に戻る時間だ。

 早く教室にエアコンが導入されないものか。

 導入された所で、もう私は学校にいないのだけれど。

 立ち上がった時に、私を見る一ノ瀬さんの目が楽しそうに輝いていることに気がつく。

 なにか、私は面白いことでも言っただろうか?


「とおるちゃんは、本当に変わったね~」

「言われるほど変わってないわよ」

「だって前なら、『えっちなんてしないわよ』って答えてたと思うよ? それが、教えないだもんね~。してもいい、するかもぐらいの距離感にえいじちゃんがいるんだねぇ~」

「だって、一緒に住んでるし、何があっても不思議ではないでしょう?」

「その話は初耳だな~」

「誰にも言ってないもの。ほら、教室に戻るわよ」

「あは~、今度ゆっくり、お話しようね~」


 人から言われて初めて気がつく。

 そうか、私も変わったのか。

 悪くない。

 そう思えた自分にか、変わった原因になった人物か。

 どちらにそう思ったかは分からないが、悪い気分ではなかった。

 今日の夕飯は、少し手の込んだものでも作ろうかしら。


 ——————————


「ねぇ、最近陽菜のボディタッチが多い気がするんだ。もしかして、彼氏でもできたのかな? 村瀬君は何か知ってるかい?」

「石井君、僕が呼び出しを喰らった理由ってそれだけじゃないよね?」

「だけとはひどい言い草だよ! 僕は真剣に心配してるというのに!」

「鏡でも見とけよ」

「ひどいよ村瀬君!」


 なぁ、僕は呼び出されて、何について聞かれているんだ?

 教えてくれ、誰か。



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