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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校三年

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64/74

帰る場所

「いつまで寝てるのよ、遅刻するわよ」

「うぅん、あと5分」

「無理よ」


 渋る僕の布団をはぎ取って、ベッドから無理矢理引きずり降ろされる。

 まだ十月といえど、朝は寒い。

 温もりが残っている布団がないと、ベッドに居続けることは不可能だ。

 渋々と起き上がり時計を見る。

 まだ六時になる前といったところか。

 少し前までは、この時間から日が昇り始めていたが今はまだ外は薄暗い。

 白石さんの方を見ると、既に外出できる準備は整っている。

 リンゴ狩りがメインだからだろうか。

 普段外出するときの服装とは違い、スカートではなくズボンを履いて、運動用のウィンドブレーカーを羽織っている。

 髪型もポニーテールになっており、見た目だけで言えばスポーツマンと言っていい出で立ちだ。

 ……今のご時世、スポーツウーマンって言った方が適切なんだろうか?

 マンが人って意味なんだからスポーツマンでもいいか。

 くだらない言葉遊びをしていると、僕の分の服装を白石さんが持ってきて風呂場を指さす。


「早く準備して」

「白石さんて、インドア派なのにアクティブだよね」

「インドア派は消極的って偏見かしら?」

「偏見っていうか、割と世間一般的な考え方な気がするけど」

「自分の考えを世間一般と同じと思うのはおこがましいわよ」


 それもそうだなぁ、一人で納得していると脱衣所まで押し込まれてしまった。

 どうやら、白石さんは相当今回の旅行を楽しみにしているようだ。

 僕のせいで日程がご破算になるのも忍びない。

 いつもよりは急いで朝のルーティンをこなす。

 うぅ、シャワーを浴びるまでの裸の時間が辛い時期になってきた。

 夏は嫌いだ、不快だから。

 冬は嫌いだ、辛いから。

 四季って本当に必要なんだろうか。

 あぁ、でも旬の食べ物とかあるし、美食家には必要なんだろうなぁ。

 リンゴだけじゃなくて、栗のお菓子までねだられていたことを思い出す。

 それなら、必要か。

 僕はいらないけど、彼女が喜ぶ要素ならあった方がいい。

 温かいシャワーが寝ぼけた思考を流し去っていく。


 ——————————


 新幹線や電車を乗り継いで三時間ほど揺られていると、目的地にたどり着いた。

 二人して特に話すわけでもなく、ぼんやりと外の景色を見ていた。

 特に面白いものがあったわけではないけれど、瞬く間に過ぎ去っていく家や景色は不思議と飽きることなく見続けられた。

 大して荷物も入ってないリュックを背負い駅のホームから外に出ると、自然の香りが胸いっぱいに広がった。

 決して、さっきまで澱んでいた車内にいたから、反動で空気が美味しく感じるわけではない、と思いたい。

 辺りをグルッと見回してみても、山、山、山、山。

 四方のどこを見ても山に囲まれるといった経験はないので、新鮮で良かった。

 時期がもう少し早ければ、田んぼ一面に実る黄金色の稲穂が見れたらしい。

 それかもう少し遅ければ、山一面に葉が紅葉してキレイな赤と緑のコントラストが見えるらしい。

 今回はどちらもないけれど、まぁしょうがない。

 また来ればいいのだ。それに来年からこの近辺に住むのだ。

 いつでも白石さんとまた来れたらいい。

 白石さんの方を盗み見ると、楽しそうに山々を見ている。

 彼女が満足しているなら、それでいい。

 農場までは歩いて二十分くらいか、景色を堪能しながら歩くにはちょうどいい時間か。


「歩こうか、白石さん」

「ええ」


 少しだけ傾斜の付いたコンクリートの道を歩く。

 段々と人工物が減り始め、自然の割合が高くなる。

 どうやら、果樹園が延々と続いているようだ。

 木々に実る赤い果物は、朝露を帯びてキラキラと日光を反射して宝石のようだった。

 どこまでも続くリンゴの道と、仄かに香る土の匂いが新鮮だった。

 同じような景色が続くので、どこが目的の果樹園なのか見分けがつかなくて一人で焦っていたのは内緒の話だ。

 歩いて行くと、直売所だろうか。

 カウンターにキャッシュレジスターが置かれただけの小屋が見える。

 小屋の中には段ボールやら山積みにされた道具やらが置いてある。

 その脇に『白石 圭吾様』と書かれているプラスチックボードが目に入る。


「ここみたいね」

「......あぁ、叔父さんの名前圭吾っていうんだ」

「知らなかったの?」

「初対面で名前聞けなかったときって、その後いつ名前聞けばいいか分からなくない? 失礼に感じちゃうんだよね」

「知らないままでいる方が失礼でしょ」

「白石さんはいつでも正論ばかりだなぁ」


 僕らが変わらない軽口を叩いていると、小屋の方からのそりと大柄な男が近づいてきた。

 どうやら人がいたようだ、段ボールの陰にいたようで気が付かなかった。

 いかつい細目をさらに細くして笑いながら話しかけてくる。


「おはようございます。うちの果樹園に何か御用でしょうか?」

「予約している白石です。チケットの確認をお願いします」

「あぁ、リンゴの木のオーナー様ですね。はい、確かにチケットの方確認させていただきました。レンタルされているリンゴの木のほうに案内させていただきます」


 そう言ってチケットを無造作にポケットに突っ込んでから、小屋の方から大きい脚立を軽々と持ち上げて木々の中へ歩いて行ってしまう。

 後をついていくと、木一つ一つに名前がタグ付けされていることに気がついた。

 初めて知ったが、木をまるごと一本レンタルするサービスがあるらしい。

 てっきり、農家さんが取ってくれたものを食べるだけのサービスと思っていたが違うらしい。

 案内された木の前には段ボールと三輪車が既に用意されている。


「脚立の使い方に不安はありますか? リンゴの取り方も実践して見せましょうか?」

「大丈夫です」

「分かりました。私は引き続き小屋に居ますので、なにかあればお気軽にお声がけください」


 そういって、大柄な農家さんは来た道を戻ってしまった。

 どうやら、収穫から箱詰めまでは自力でする必要があるらしい。


「お手本、見せてもらった方が良かったんじゃないの?」

「大丈夫よ、私、初めてじゃないもの」

「僕は初めてなんだけれど?」

「あら、朝起きれなくなるぐらいにはスマホで調べ事してたじゃない。調べたとおりにやればいいわよ」

「......見てたの?」

「適当に言ってみただけよ。ほら、丸々一本あるんだから、早く収穫してしまいましょう。反対側、よろしくね」


 そう言うと、白石さんはテキパキとリンゴを収穫し始めた。

 どうやら初めてではないというのは本当のようだ。

 叔父さんの名前でレンタルしてるぐらいだし、毎年来てるのかな?

 おっと、考え事をしている場合ではない、僕も収穫しなければ。

 たしか、枝に向かって下から上にひねると取れるんだっけな。

 リンゴの下側をもって上にひねる。

 パキッと音が響いてヘタからキレイにリンゴが取れていた。

 おぉ、ちょっと楽しいかも。

 何個か試行錯誤しながら収穫をする。

 ヘタに力を入れるより、軽くひねるだけの方が簡単に取れそうだ。

 周りの木と比べて小さい若木ということもあるだろうか。

 二人して黙々と作業を進めると、一時間ほどでだいたい収穫し終えた。

 若木と言っても、大きめの段ボールが二つリンゴでパンパンになるまで取ることができた。

 慣れない作業や、脚立での姿勢で体の節々が痛い。農家というのは偉大だなぁ。

 そう思っていると、白石さんが不意に段ボールからリンゴを取り出して、そのままかじりついた。

 しゃくりと小気味のいい音が聞こえて、蜜が唇を濡らしている。

 舌なめずりをするその姿は、甘いものを喜んでいるのか、どこか妖艶なほほ笑みであった。


「村瀬君は食べないの?」

「いや、いきなりかぶりつくとは思わなかったから」

「これが一番美味しいんだから」

「へぇ、じゃあ真似させてもらおう」


 僕も一つ、比較的小ぶりなものを手に取ってそのままかじりつく。

 蜜がたっぷりとのったリンゴの甘さが口に広がる。

 くどい甘さではなく、さっぱりとした清涼すら感じさせる甘さに驚く。

 果汁があふれ、リンゴから手にしたたり落ちてくる。

 デザート用のリンゴって生で食べるとあんまり甘くないからな。

 酸っぱさがあまりないのは新鮮で美味しい。

 ……どうやって調理するのが正解なんだろう。

 チラリと段ボール箱を見る。

 みっちりと詰まったその段ボール箱を、とりあえず今は考えないことにした。

 しゃくり、うん、うまい。

 僕がゆっくりと味わっていると、白石さんはもう三つ目に手を伸ばしていた。

 どうやら、消費する分には問題ないようだ。


 ——————————


 郵送の手続きを済ませて、近くにあった蕎麦屋で昼食を済ませた。

 人生で初めて蕎麦屋に入ったけれど、蕎麦ってつゆにワサビ入れるんだな。

 あっさりとした風味に、ピリリと辛みで味が引き締まってとても美味しかった。

 夏場とか、あまり食欲がないときに真似してみよう。

 昼食も済ませ、二人してあてもなくぶらりぶらりと街の方面に向かって歩く。

 志望校であるS大は果樹園からさして遠くない、歩いて30分くらいの距離感だろうか。

 線路をまたいで、農園風景と街並みがキレイに二分されている。

 白石さんはどのタイミングで買ったか分からないが、ご機嫌に栗まんじゅうを食べながら僕の横を歩いている。


「僕の分ってないの?」

「ないわ」

「そう、僕も食べたかったな」

「食べる?」


 そういうと、ご丁寧にかじりついた断面を見せながらまんじゅうを差し出してくる。

 栗とあんこか、あまり食べないけど美味しいんだろうか。

 ふと、味のことだけ考えている自分にぶんぶんと首を振る。

 もっと気にすることあるだろう、青少年なんだからさぁ。


「白石さんは間接キスとか気にしないの?」

「関接どころか直接したことあるじゃない」

「あー、まぁ、そうだけど」

「くだらないこと言ってると食べるわよ」

「食べる食べる、ありがとうね」

「しっかり味わって食べなさい」

「......僕の分を買っておいてくれるなり、買うときに誘ってくれたら良かったのに」


 恥ずかしがるかなと思って投げかけた言葉は、何のひねりもなく真っすぐに打ち返された。

 白石さんって、恥ずかしい感情とかあるのかな?

 もらったまんじゅうの断面を見ないようにして口に入れる。

 あんこと栗の柔らかい甘みが舌に広がる。

 温かいお茶が欲しくなってくるなぁ。


「ようネェチャン、俺らとお茶しないかい?」


 僕の意思を誰かが受け取ったのか、大学の近くまで歩いていたら声を掛けられた。

 十月だというのに、ぶかぶかとしたシャツとサンダルが特徴的な、男の三人グループだった。

 これは、いわゆるナンパというやつではないだろうか。

 過去の忘れたい出来事がふと脳裏に浮かんで顔が歪む。

 忘れたい物事ほど、たまに顔を覗かせるのはなぜなのだろうか?

 僕をよく知らない同学年の人は、今でも僕がカルトの一員だと思っている人もいるらしい。

 おのれ、一ノ瀬さん。

 僕の苦痛に歪んだ表情を、チャラ男達は敵意だと勘違いしたらしい。

 僕の胸倉をつかみ、威嚇してくる。


「んだガキ、お前に要件はねぇんだよ。」

「そうは言われてもね、デートの途中なんだけど」

「は! お前みたいなひょろがりより俺らの方が楽しませてやれるよ、分かったらとっとと失せな!」


 下品な笑い声が上がる。

 そういえば、前のチャラ男にももやしってバカにされたな。

 なんだろう、痩せてるってそれだけでバカにされるようなことなのかな?

 ぶかぶかのシャツを着た男たちの腕も、お世辞にも太いとは言えなかったが、彼らの中では何かが違うのだろう。

 あぁ、めんどうくさいなぁ。

 折角の遠出なのになぁ、変なものに絡まれてしまった。

 チラリと白石さんの方を見ると、こんな時にもスマホをいじっていた。

 ブレないね、白石さん。


「ほら、ネーチャンもお前と遊ぶよりスマホの方が楽しいってよ」

「現代日本人の比較対象がスマホならだいぶ上の部類になるんじゃないかな? 少なくとも、僕はスマホより面白い友人は少ないけれど?」

「お前がつまらない人間なだけだろうが!」

「どうして君みたいなチャラ男まで正論を吐くんだい? もっと共感とか同意が欲しいんだけどなぁ」

「誰がチャラ男だ! ガキ!」


 僕が軽口を叩いていると、ようやく白石さんが口を開いたようだ。

 ケンカ腰だったら、最悪手を引いて走って逃げることも視野に入れなきゃなぁ。

 僕より白石さんの方が体力ありそうだけど、まぁそこは男の頑張りどころということで。


「もしもし警察ですか。今、不審者に絡まれていて」

「「わぁ!!」」


 奇しくも、僕とチャラ男達が取った行動は一緒だった。

 お互いに、全速力で真反対に走り出す。

 チャラ男は通報から逃れるために、僕も通報されないように。

 指定校推薦が決まっているのに、その大学の前で警察沙汰?

 絶対に受かるわけないじゃん。

 最悪、僕は白石さんが行くところに引っ付いていくだけでいいけれど、彼女はわざわざ県外のこの大学を志望校にしているのだ。

 チャンスを潰すわけにはいかない。

 彼女の小さい手を引っ張って走ってから、白石さんの声が耳に入る。


「腕、痛いんだけど」

「あ、ごめん。夢中で走ってたから」


 少しむすっとした白石さんの声でようやく立ち止まる。

 結局、駅まで走って戻ってきてしまった。

 はぁ、観光って気分でもなくなっちゃったし、これで今日は帰宅かなぁ。

 あ、警察に事情を話さなきゃ。


「ねぇ、白石さん。通報だけど......」

「してないわよ」

「え?」

「通報した演技よ。村瀬君なら分かってくれると思ったけれど」

「いや、あんな状況で冷静に判断できないよ」

「人通りのある場所なんだから、そんなに怖がることはないでしょ」

「人通りの多い場所だったから、怖かったんだよ」

「大学の購買限定のサブレ、食べたかったのに」


 はぁーと息を吐いてへたり込む僕と、お目当てが達成できずに不機嫌になっている白石さん。

 いったい、どちらが男らしいんだろうね?


 ——————————


 その後は、駅近辺のお土産屋さんを二人で巡るだけだった。

 白石さんの合格点をもらえる甘味も特になく、キーホルダーもとくに何も買わずに今に至る。

 むすっとした白石さんも可愛いけれど、さすがに居心地が悪くなってきた。

 僕の早とちりが原因だし、ここは一つなんとかしてみせますか。


「しょうがない、出来ないとは言ったけど、今日のために覚えてきた一発芸を披露しようじゃないか」


 そういって、カバンから袋を取り出して、傷つかないように入れていたリンゴを取り出す。

 結局、白石さんには甘いものを与えればいいのだ。


「普通のリンゴね、親指差して宙に浮くとかはなしよ?」

「そのネタも考えたけど、親指が思ったより刺さらなかったからそれはやらない。この種も仕掛けもないリンゴを、今からキレイに二等分して見せるよ」


 収穫の時に試してみたが、リンゴって思ったよりも指が入らないのだ。

 やはり、マジックは事前準備が一番大事なようだ。

 今からするのはマジックでも芸でもない、ただのマメ知識だ。

 片手の親指をヘタの部分に当て、もう片手で親指ごと覆うようにリンゴを掴む。

 そして左右に開くイメージで引くと、簡単に割れる、らしい。

 やったことはないのでぶっつけ本番だ。

 そう思っていると、白石さんの指が僕からリンゴを奪い去って、今からして見せようとした芸を披露してくる。

 キレイに割れたリンゴの半分を、僕に向かって渡してくる。


「で? 一発芸してくれるんでしょ」

「その芸を奪われたんですけど......」

「リンゴ狩りしたことあるって言ったじゃない。さすがに知ってるわよ」

「えぇ、僕警視庁のSNSで知ったのに」

「逆に、どうして警視庁のSNSを見てたか気になるわ」


 リンゴをかじりながらしょぼくれる。

 うーん、今日は全体的に上手くいかない日のようだ。

 そういう日があるのは仕方ないことだが、よりによって旅行の日にくるとは。

 僕が悲しみに暮れていると、横からクスリと笑い声が漏れてくる。


「ふふ、へこみすぎでしょ」

「折角の遠出デートなのに、上手くいかなかったなぁって」

「あら、今までのデートで村瀬君が上手くできたことってあるの?」


 先ほどまでの不機嫌はどこへやら、僕をイキイキといじり始めてくる。

 甘いもののおかげだろうか、果汁でぬれた赤い口が楽しそうに釣り上がっている。


「水族館デートは上手くいった方じゃない?」

「あれ、村瀬君の力はほとんどないじゃない。お魚のおかげでしょ」

「クラゲのキーホルダーを選んだのは僕だから」

「私が好きだからよかったけど、普通の人ってキーホルダー貰っても嬉しくないわよ?」

「えぇ? そうなの? じゃあなに買えばいいのさ」

「普通に消えものでしょ。お菓子とか、日用品とか」

「そういうものかぁ。僕、プレゼントとかしたことなかったからなぁ」

「ふふ、何もかも上手くいかないわね」


 何が面白いんだろうか?

 僕は失敗した悲しい気持ちでいっぱいだというのに。

 新幹線が出発する前は、僕が機嫌取りをする側だったのに、今はもう僕がへこむ立場だ。


「まぁ、私たちらしくていいんじゃない」


 愉快そうに言い切る彼女の顔は、冗談でも嘘でもなく本気で言ってくれているようだった。

 私たちらしい。

 どうやら、僕の存在はちゃんと彼女の日常の一部になれたようだ。

 その事実に、胸が温かくなる。


「どうせならカッコよく決めたいけどね」

「村瀬君が? 無理よ」

「ひどい、僕だってカッコつけようと思えばつけれるよ」

「じゃあ、今カッコよく決めてよ」

「......カッコよさって何だと思う?」

「ほら、できない」


 お喋りをしているうちに、いつもの調子に戻ってこれたようだ。

 やはり僕らは、こうして話している方が僕ららしい。


「帰ろうか、二人の家にさ」

「それ、カッコつけてるつもり?」

「どう、よくない?」

「アパートでカッコつけられても響かないわ」

「二人の家ってのは否定しないんだ?」

「否定してほしいの?」

「......リンゴを使ったお菓子で何食べたい?」

「困ったらお菓子の話に逃げるのはやめなさい」


 他愛もない話をして、家についたころにはもう辺りは暗くなっていた。

 あぁー、疲れた。

 今日は早めに寝ようかなぁ。

 ぼんやりと考えていると、後ろから声が聞こえる。


「ただいま」

「......あぁ、ただいま。おかえり」

「自分の家でしょ、なにビックリしてるの?」

「いや、僕らの家になったんだなぁって」


 おかえりなんて、いつぶりに言っただろうか。

 ただいまって、最後に言われたのはいつだっただろうか。

 もう、両親のことなんてろくに覚えてやいないけれど。

 確かにあった過去に、今、しっかりと決別できたような気がした。


「おかえり」

「二回も言わなくていいわよ」

「そういう気分だったんだ。ねぇ、ただいま」

「......おかえり」


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