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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校三年

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苦い思い出

 受験生の日常ってつまらないな。

 勉強してご飯食べて寝て、その毎日の繰り返し。

 いや、別に受験生に限らないか。

 学校に行って勉強して家に帰っての繰り返し。

 会社に行って労働して家に帰っての繰り返し。

 人生は全て、繰り返しなのかもしれないね。


「手が止まってるわよ」

「一つだけ気になってることがあるんだけどさ、聞いてもいい?」

「くだらないお喋りならイヤよ」


 セミの大合唱が外から聞こえ、夏の日差しは湿気を帯びて耐えがたい暑さとなっている。

 本格的な夏の到来は、連日猛暑日を記録しワイドショーを賑わせている。

 八月も後半に入り、夏休みもあとわずかな日数となっている。

 そう、八月も後半に入っているのに、初日と変わらない毎日を繰り返している。


「白石さん、いつ帰るの? 三日間だけって話じゃなかった?」


 毎日白石さんと勉強して、白石さんの抱き枕として寝る毎日。

 さすがに、おかしいだろう。

 もう三週間近くいるぞ、もはや一緒に寝ることに対して何も感じなくなってきた。

 慣れってすごいね。


「あら、帰ってほしいの?」

「あー、そういう意味じゃないけどさぁ。家に帰らなくていいのかなぁって」

「たまに帰ってるわよ。ほら、寝間着とか持ってきてるじゃない」

「帰れるならもうアパート戻りなよ、さすがに男の家に泊り続けるのは不健全でしょ」


 そういえば、いつの間にか寝る時僕の体操着から寝間着に変わってたな。

 買い物に行った時に買ったものと思っていたけれど、僕が寝てる時に帰ってたのかな?

 なおさら、僕の家に居続ける意味が分からなくなってきた。


「男って、一緒に寝ても何もしてこないじゃない」

「僕の理性が限界を迎えるとかは考えないのかい?」

「お互いに好き同士なら問題ないと思わない?」

「え、いや、あるでしょ、多分。責任とか」

「ふふ、その様子なら大丈夫でしょ」


 ああ、からかわれている。

 からかいだと分かってはいるが、改めて口にされると恥ずかしいものは恥ずかしいのである。

 手を出していいのか? でも白石さん布団に入ると凄まじい速度で寝るからなぁ。

 ……寝てる間に胸でも揉んでやろうか。

 いや、人として最低なだけか。白石さんが起きていないと、僕の怖さが伝わらないだろうからな。


「それに、大学に受かったら同棲するんだからいいじゃない」

「え? 同棲するの? 初耳なんだけど」

「はぁ、何も考えていないのね」


 ため息をついてやれやれと首を振る白石さんを驚愕の目で見る。

 何を、どう考えたら同棲という結論にたどり着いたのだろうか。


「県外の大学ってことは、引っ越しするでしょ」

「この家からは通えないからね、引っ越しするね」

「村瀬君はどうせ、何も考えてないから今と似たような部屋借りればいいかと思うでしょ?」

「否定はできないね。知識とか何もないし」

「それに、私のこと好きだから、私と一緒に居たいでしょ?」

「まぁ、そのために同じ大学を選んだからね」

「なら、同じアパートを借りた方が経済的にも時間的にもお得じゃない」


 うーん、そう考えると、同棲した方が合理的か?

 これ、どっちかが嫌いになったりした時とか考えたりしないのかな。

 僕が白石さんを嫌いになることはないと思うけど、彼女は僕のことを嫌いになる可能性はあるだろう。

 その時はどうするんだろうな。


「僕との同棲生活が合わなかったらどうするの?」

「それを今確かめてるんじゃない」


 その時に、インターホンの音がした。

 おや、通販もなにも頼んだ記憶はないけれど、誰だろうか。

 そう思っていると、白石さんが立ち上がって、玄関に行って対応し始めた。

 あぁ、ろくでもないことになりそうな予感がする。

 最近気がついたけれど、イヤな予感というものは外れてくれないものだ。

 恐る恐る僕も玄関に向かって歩き出すと、段ボール箱二箱と、白石さんの叔父さんの姿が見えた。

 ふくよかな彼の体型に、アロハシャツがとても似合っている。


「やぁ、久しぶりだね。透がいつも迷惑かけてすまないね」

「お久しぶりです。こちらもお世話になっているので、迷惑ではないですよ」

「相変わらず、君は真面目だね。安心して透を任せられるよ」

「えぇと、何の話でしょうか?」

「なんだ、透。村瀬君に説明してないのか」

「説明しないほうが、面白い顔が見れるでしょ?」


 そういって僕の顔を見つめてクスクスと笑う様子は、可憐な少女で可愛らしくはある。

 性格を知らなければ、天使のような微笑みとありきたりな表現をしただろう。

 悪魔は天使の姿で現れると言った人がいるらしいが、こういうことなんだろうな。

 今までの話と、目の前にある段ボール箱と、わざわざ挨拶に来る保護者。

 鈍い僕でも分かる。

 大学に受かったらという話ではなかったのか?


「今日からよろしくね、村瀬君」

「前もって一言入れてくれれば、僕も心の準備ができるのに」

「それじゃあ面白くないじゃない」

「面白さでこんな大事な事決めないでよ」

「いいじゃない、一部屋余ってるでしょ? 食費も生活費も出すわ」


 2LDKのアパートに住んでいて、僕はリビングしか使っていなかったから実はもう一部屋空きがある。

 そこをパーソナルスペースにするつもりだろう。

 それは別にいいのだけれど、保護者としてはどうなんだ?

 思春期真っ只中の男の元に、うら若き乙女を送り出すのはどうかと思うが?

 そう思って叔父さんの方を見るが、朗らかな笑顔で返される。

 この人は、いつも笑っているな。

 それがプレッシャーに感じるのは、なぜだろうな。


「いやぁ、村瀬君がいて本当に助かったよ」

「前のアパートはどうするんですか?」

「あぁ、解約してきたよ。住人も透しかいなかったし、修繕するんじゃなくて打ち壊しにするらしいよ」


 そういいながら封筒を手渡される。

 思いのほかずっしりと重みのあるそれを、慌てて返そうとする。


「ちょ、貰えませんよこんなに」

「あぁ、気にしなくていいよ。アパートの立ち退き料として受け取ってきたものだからね。二人の生活に役立ててくれ」

「いや、それにしたって」

「それじゃあ、若い者の邪魔をしちゃいけないから、私は帰るよ。何か困りごとがあったら気軽に連絡しておくれ」


 僕が抗議の声をあげる前に、叔父さんは颯爽と帰ってしまった。

 残ったのは、呆然とする僕と、それを楽しげに見る白石さんだけだ。

 ……なってしまったものはしょうがない。

 お金も受け取ってしまった。

 今から白石さんを追い出しても、彼女は行く当てなどないだろう。

 前向きに考えよう。

 美人と二人きりの生活、しかも勉強も見てもらえるし、料理も美味い。

 甘いものを頻繁にねだられるのが難点だが、作るのも食べてる姿も見るのは好きだからまぁ良しとしよう。

 この三週間と何ら変わらない生活をするだけだ。何も問題はない。

 そう自分に言い聞かせる。

 突っ立っていてもどうしようもないので、とりあえず玄関の段ボール箱の移動だけしようかな。


「あれ、アパートから引っ越ししてくるのに、段ボール二箱は少ないんじゃない?」

「雑貨とか食器とかいらないものはまとめて売ったわ」

「そうなんだ。じゃあ本とか必要最低限のものだけある感じかな」

「えぇ、厳選したわ」

「......ねぇ、布団とかはないの?」

「ないわよ、捨てちゃったもの」

「部屋使うんでしょ? どこで寝るのさ」

「ベッドがあるじゃない、それを運ぶのよ」

「それ僕のベッドでしょ。僕どこで寝るのさ」

「一緒に寝ればいいじゃない」


 あっけらかんと言い放つ彼女に、僕は黙ることしかできなかった。

 なんだろうね、僕がおかしいのかな?


「僕と寝ることに抵抗ないの?」

「最近いい抱き方を見つけたわ。抱き枕としては及第点をあげるわ」

「いつかひどい目に遭うよ?」

「あら、同じことを何回も言うのは嫌いよ」


 白石さんの口元が、玄関でへたり込んでいる僕の耳元に近づく。

 湿った、熱い吐息が耳にかかってくすぐったい。

 凛とした彼女の囁きが、耳朶を打つ。


「私を、本気にさせてよ」

「......白石さんって、昔からこうなの?」

「失礼ね、初恋よ」


 僕の耳たぶを軽く引っ張ってから彼女は立ち上がる。

 恋愛面に関しては、文化祭からずっと振り回されてばかりだな。

 ……お望み通り、本気にさせてみようか。

 立ち上がり、白石さんの右手を握って、僕の右手を彼女の腰に回す。

 一年前のリベンジをしようか。


「白石さん、キスしやすい身長差って知ってる?」

「12㎝ね、文化祭の時に答えたじゃない」

「その後に、僕が言ったことも覚えてるかい?」

「覚えてるわよ。本気になれたのかしら?」


 白石さんはからかうようにこちらを見つめる。

 あの時はビビらせようとして、返り討ちにあったんだっけ。

 触れた肌から伝わる熱は、ドクンと脈打つ鼓動から流れる熱は、あの時と変わっていない。

 変わったものはなんだろう?

 同じ毎日の繰り返しの中で、積もったものはなんだろう?

 まぁ、細かいことは分からなくてもいいか。

 僕の中にある気持ちだけが、ちゃんと燃えていればいい。

 できれば、白石さんにも同じだけ燃えていてほしいけれど。


「ちゃんと、僕の本気を見せるよ」


 僕より小柄な体を強く抱きしめる。

 彼女の唇に、自分の唇を合わせる。

 ほのかに香る汗の臭いに混じってコーヒーの香りがした。

 重ねた時間は数秒にも満たなかったが、永遠にも感じられるような気分だった。

 セミの鳴き声も、夏の暑さも、何もかもが静まり返って僕らの体だけを感じていた。

 ムードもへったくれもない場所ではあるが、まぁ僕ららしいか。

 そう思っていた瞬間、唇が割れて柔らかい何かが僕の歯をまさぐる。

 より強く、コーヒーの苦みが広まった。

 驚いて顔と体を彼女から離した。

 何? 舌? 経験が無いから、何をされたか全く分からない。


「うふふ、あの日と全く同じ、真っ赤ね」

「僕、ファーストキスだったんだけど」

「あら、私もそうよ」

「何かしなかった?」

「乙女の口に言わせる気?」


 白石さんは妖艶にほほ笑んでいる。

 白い肌が赤く火照っているのは、夏の暑さか、別の原因か。

 僕と同じ理由で真っ赤になってればいいなぁ。


「本気になってくれた?」

「顔を真っ赤にしながら言うセリフではないわね」

「いや、無理でしょ。ちょっと僕には刺激が強いよ」

「うふふ、いつまで経ってもうぶなままね」


 離れた僕に近づいて、ゆっくりと僕の首をさすりながら白石さんは笑っている。

 くすぐったいしあついけど、文句を言ってもまたからかわれるだけだろう。


「まぁ、本気は伝わったわよ」

「そうかい、ライクはラブに変わったかな?」

「まだ頑張りが足りないわ」

「......甘いもの作るって言ったら?」

「ラブね」

「僕の努力関係なくない?」


 ドクンドクンと鼓動はまだうるさく高鳴り続けている。

 とんでもない思い出になったものだ。

 カッコよく決まらないのも、僕らしいか。


「今日はあっついね」

「そうね、いつもより暑いわ」

「その暑さ、僕にときめいたせいだったりしない?」

「確かめてみる?」

「......やめよう、段ボールの片付けしちゃおう」

「いくじなし」

「僕ぐらいが普通だと思うよ。白石さんは過激すぎる」

「人を変態みたいに言わないでよ」

「首絞めるのが好きなのは変態だと思うよ?」

「なら人の傷跡を触るのも変態じゃなくて?」


 彼女には返事をせずに、僕は段ボールを運び始める。

 やはり僕らは、お互いに変わり者のようだ。


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