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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校三年

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夏、セミ、汗

 勉強勉強勉強たまに善行勉強勉強......

 受験生の一般的な生活ではあると思うがさすがに飽きてくるな。

 雲一つない青空の下、陽光に焼かれながらあくびをする。

 もう少しすれば夏休み、三年生は勉強合宿があるらしく、希望者は二週間はみっちりと勉強するらしい。

 自分で塾に通っている人や自習できる人は行かないらしいが、僕はどうしようかな。

 白石塾があるからなぁ、他人との集団生活もしたくないし、不参加でいいか。

 気分転換に訪れた公園のベンチで、缶コーヒーをすすりながらぼうっと虚空を見つめる。

 座っているだけなのにじわっと全身から汗が吹き出してくる。

 黄昏ているのもやめて、さっさと帰るか。

 期末テストも終わったし、夏休みが一つの山場になるだろう。

 夏は受験の天王山。

 先生方が口酸っぱく言っているのだ、大事なんだろう。

 歴史の先生だけが、天王山争奪戦は創作の可能性があるよと冷めたことを言っていた。

 そういった小話は面白いが、受験に関係ない分野でやってほしい。

 僕はもう山崎の戦いと天王山を紐づけて覚えてしまったのだ。

 ……試験直前に、歴史を揺るがすような大発見があった場合ってどうなるんだろうな。

 昔は『いい国(1192)作ろう鎌倉幕府』だったのが、今は『いい箱(1185)作ろう鎌倉幕府』って言うし、何かの拍子で年代が変わる可能性は0ではないだろう。

 ……まぁ、問題差し替えか該当部分だけ受験生全員に点数配布で終わりだろうな。

 心配するだけ無駄というものだ。

 現実逃避、もとい気分転換は終わりにしよう。

 立ち上がって大きく伸びをする。

 今日は白石さんが来ないらしいから、自分で追い込んで勉強しなければ。

 騒々しく鳴くセミの声が公園に響き渡る。

 まだ八月前だというのに、本格的に夏だなぁ。

 滴り落ちた汗がアスファルトに黒い点を作っては、すぐに蒸発して消えた。


 ——————————


 返却された期末テストの結果も悪くなく、進路相談も特に何も問題なしということで特筆することもなく終わった。

 あくまで現時点での話になるが、僕らの高校からS大志望は僕と白石さんしかいないらしいので、もしかしたら二人して指定校推薦で簡単に入れるかもしれない。

 そうしたら、十二月には受験結果が分かるので残った時間、二人でどこかに遊びに行けるかもしれない。

 終わりが見えると、少しだけ気分が楽になる。


「愛してるの響きだけでー、強くなれる気がしたよー」


 夏休み初日、結局僕は合宿には参加せずに自分で勉強することを選んだ。

 自分の力である程度は頑張らなきゃな、いつでも他人の力を借りることができるわけではないのだ。

 朝起きてから、夕方まで黙々と勉強することにも慣れてきた。

 今は、休憩も兼ねて夕飯を作っている最中だ。

 白石さんに料理を教わり始めてから、自炊にもだいぶ慣れてきた。

 カレーの良い匂いがキッチンに漂ってきた。

 自分の好きなように味付けしていいのは、少し楽しい。

 僕は辛いのが苦手だから、カレーは甘口だ。

 食べる前にちょっと醤油をたらすのがブームだ。

 菓子パンだけの食生活をしていたころが懐かしい。

 よく栄養失調とかにならなかったな、今考えてみれば健康に悪すぎる生活だった。

 白石さんには感謝しなければなぁ。

 ピンポーン。インターホンがなったのは、そんなことを考えていた時だった。

 僕の家にインターホンがなるのは大変珍しい。

 五階の角部屋にわざわざ来る怪しげな勧誘やセールスマンなんていないし、通販もだいたい置き配だからな。

 誰だろうか。

 玄関のドアスコープを覗くと、私服姿の白石さんが立っている。

 合鍵で入ればいいのに、わざわざインターホンを鳴らしたのはなんでなんだろう。

 ドアを開けて、フリーズする。

 リュックサックに大きめのバッグを両手に持った彼女の姿に、少し嫌な予感がする。

 白石さんの視線は俯いて、僕と目が合わない。

 表情には元気がなく、眠たそうにしている。


「やぁ、おはよう。旅人みたいな荷物だね。これからどこか行くのかな?」

「......めて」

「え? ごめん、聞こえなかった」

「三日間、泊めて」

「......とりあえず、家の中で話そうか。朝ごはん食べた? 甘口のカレーでいいなら作ってあるけど」


 なにやら訳アリのようだ。

 事前に連絡も無しで来るのも珍しいしな。

 勉強部屋の方に案内しようとしたけれど、荷物だけ廊下に放り出してそのままリビングの方に向かってしまった。


「あとで、説明するから、布団だけ貸して」


 白石さんはそう言い残して、敷きっぱなしになっているソファベッドに吸い込まれるように倒れていった。

 少ししてから寝息が聞こえてきた、そうとう眠かったんだろうなぁ。

 はて、何があったんだろうか。

 気にはなるが、起きるまでは知りようがないな。

 とりあえず、カーテンを閉めて白石さんが寝やすいようにしてあげる。

 カーテンを閉めてベッドの方に振り向くと、彼女は僕の枕を抱き枕にして体を丸めるように寝ている。

 うーん、僕別に臭くないよな?

 くんくんと自分の体を嗅いでみるが、カレーの匂いしかしない。

 なんで自分の臭いって感じ取れないんだろうね? 人体って不思議だ。

 寝ている時は表情から険しさが消えて、年相応の幼さをした白石さんの寝顔を見ながら考える。

 三日間かぁ、アパートで何か問題があったのかな?

 見るからに古い建物だったし、電気か水道でトラブルがあって寝れなかったとかかな?

 それなら、まぁ僕の家にくるのも納得がいく。

 彼女が寝ているそばに腰かける。

 インナーやアームカバーを着る余裕がなかったのか、シャツの隙間からは赤い傷跡が露わになっている。

 何も考えずにぼんやりと傷跡をさする。

 白石さんが僕の首を触るように、僕も彼女の右腕を触る回数が増えた気がする。

 さすがに真夏に肌が触れ合うのは暑いのか、手を振り払われてしまったが、穏やかな寝顔は変わらない。

 さて、ずっと見てるのもマナー違反かな。

 とりあえずカレーはお預けにして、白石さんが起きるまでは勉強でもするか。

 何が起きたかは、彼女が起きてからのお楽しみにしよう。


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