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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校三年

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格言をよく使う人には気をつけた方が良いよ

 雨が降っている日のアルバイトは好きだ。

 なぜなら、客が全然来ないから。

 本格的な梅雨入りを迎え、ここ数日お天道様は顔を見せずにいる。

 雨がアスファルトを叩く音が店内にも聞こえてくるほどの土砂降りだ。

 店内には僕を除くと、裏で事務仕事をしている店長と目の前に座って半泣きでココアを飲んでいる少女だけだ。


「うぅ、どうして私はこうもダメなんでしょうか......」

「なんというか、意外にポンコツだよね、結城さん」

「ぐはっ!」


 普段の凛々しい王子様のような雰囲気は鳴りを潜め、そこにはただただ弱気な女の子がいるだけだった。

 その姿に加虐心がそそられるが、一応頼れる先輩ポジションにいるらしいのであまりいじめないように自制する。

 結城さんはカフェが混んでいない時間帯を選んでは、僕にちょくちょくお悩み相談をしに来ている。

 今回も店前で五分ぐらいウロウロしてから入ってきた。

 本当は声を掛けてあげるのが優しいんだろうけど、その様子が可愛らしかったので何もせず眺めていた。

 白石さんが僕に対してSっ気があるのが分かるような気がしてきた。

 リアクションが面白い人間って、いじりたくなるんだなぁ。


「勉強も村瀬先輩に時間を割いてもらっているのに上の下止まり、生徒会では石井会長のお世話になってばかり、気遣いをしようと頑張ってみても一ノ瀬さんが既にフォローに回っている、副生徒会長の仕事って何なんでしょうね……」

「上の下なら上出来じゃないの?」

「でも、村瀬先輩今回の中間テスト五位でしたよね」

「努力の結果かな」


 こないだ終わったばかりの中間テストの結果を思い出す。

 初めての一桁順位だったので嬉しかった。

 今までずっと上位にいた人間が皆、大学試験の対策でテスト勉強に重きを置いていないという理由もあるが。

 それでも、内申点が必要な僕にはありがたいし、努力の結果が目に見える形で出るのは嬉しかった。


「そんな人に教えてもらってるのに、私は……ポンコツなんだぁ!」

「結城さん見た目とキャラ違うようね、ビジュアルだけなら王子様系で頼れそうなのに」

「高校デビューしたんですよ......あぁ、背伸びしすぎた……なんでカッコいい系でキャラ作っちゃったんだろう……」

「まぁ、若気の至りってことでいいんじゃない」

「それって振り返るときに言うことじゃないですか! 私は今! 至っているんですよ!」


 日本語がおかしくなってしまった彼女は、その場の勢いでココアを飲み干して、熱いと叫んでいる。

 面白いなぁ、見た目が良い人間が壊れている様子は。

 まぁ、一応相談されている立場なので先輩らしいアドバイスでもしますか。


「とりあえず、周りと比較するのはやめた方がいいんじゃない?」

「そんな仙人みたいなこと出来たら苦労しませんよ......」

「他人じゃなくて、過去の自分と比べるとかさ。比較対象にずっと石井君と一ノ瀬さんがいたら、一生自己肯定なんてできないよ」

「うぅ......今その二人には一生勝てないって言われた……」

「じゃあ勝てる姿を想像できるかい? 僕は無理だ、あの化け物どもに勝てる姿は想像できない」


 人間、上を見続けることはしんどいものだ。

 もし僕が真人間で、石井君に勝とうと決心していたら早々に心が壊れていただろう。

 誰にでも分け隔てなく明るく接し、スポーツは三年間真面目に部活に打ち込んできた人間より優れていて、勉強も涼し気な顔をしてずっと学年上位をキープし続ける化け物、それが石井君だ。

 勝てないものには勝てない、世の真理だ。

 だから、そういったものに挑戦し続けられる人間は偉いしリスペクトに値するのだ。

 一ノ瀬さん? 転校初日で学年の生徒全員の顔と名前を覚える化け物だよ。

 今思えば、石井君と仲の良い人間の把握だったんだろうなぁ、怖い怖い。


「村瀬先輩って、大人の余裕がありますよね。もっと周りと比較して自分がイヤになったりしないんですか?」

「他人と自分を比較するほど真面目に生きていないだけだよ。それに、比較して何の意味があるのさ」

「意味がなくてもしちゃうのが人ってもんだと思うんですけど」

「それはそうだけど、その考え方にこだわるのは結城さんの性格の問題でしょ」

「うっ!」

「もっと適当に生きたらいいのさ、僕も簡単に生きろってアドバイス貰ったことあるしね」


 カウンターに突っ伏す結城さんに水を差し出す。

 憂いを帯びた横顔は、黙っていれば物思いに耽る王子様に見えるだろう。


「良い言葉を教えてあげよう、人の振り見て我が振り直せ」

「あぁ、良い格言ですよね。私もたまに思い出しては参考にしてますよ」

「この格言を真に受ける人はバカです」

「なんてことを言うんですか、主語がデカい人は嫌われますよ?」

「おや、最近同じようなことを言われたような気がするな」


 自分にとって都合の悪いことは忘れるに限る。

 それが心健やかに生きるコツだ。


「だってさ、人の良いところも悪いところも参考にしましょうなんてキリがないじゃない。自分の欠点なんて山ほどあって、人の美点なんてイヤなほど目につくのに、いちいち自分の修正してたら生きていけないよ」

「でも、よく聞く言葉じゃないですか」

「言う人は気持ちよくなれるからでしょ。正論なんだから。言われた方が真に受けたら、苦しいよってこと。結城さんは今まさに苦しんでるでしょ。僕と比べて、石井君と比べて、一ノ瀬さんと比べて、自分の足りない点を直そうとしてるんでしょ?」

「......はい」

「そんなこと無理なんだよ。生き方が違う、頭の出来が違う、考え方が違う、性格が違う、何もかも違う生き物を基準にする癖はなくした方がいい。もっと、自分らしく生きた方がいい」

「そういうものですかね......」


 しょげた様子で水をすすっている彼女の心には、響いたようだ。

 少しの間何かを考えて、決心したようにこちらを見る。


「分かりました! 私、もっと自分を中心に生きようと思います!」

「そうそう、その調子その調子......チョロいな」

「今チョロいって言いませんでした?」

「いや? 純真無垢でいい子だなぁって」

「明らかに口の動きと合ってないじゃないですか! もしかしてアドバイスも適当ですか!?」

「二割ぐらい本気でアドバイスしたよ」

「じゃあ八割適当じゃないですか!」

「もっと人を疑うことを覚えた方がいいよ。いつかひどい目に遭う」

「今遭ってますよ! もう村瀬先輩には頼りません!」


 ぷんぷんと怒って伝票をもってレジ前に行ってしまった。

 もう少しからかっていたかったが、終わりか。

 まぁ元気になったようなので良しとしよう。


「お会計じゃあ1,200円ね」

「あれ、高くないですか?」

「水飲んだじゃん、あれ700円」

「あぁ、有料なんですね。メニューに書いてないからサービスだと勘違いしてました。はい1,200円丁度でお願いします」

「......なんで信じるかなぁ」

「え、嘘なんですか!?」

「はい、おつり700円ね」

「お水代入ってないじゃないですか! うわーん! 先輩にオモチャにされてる!」

「’失礼な、ちゃんと真面目に向き合ってるよ。数少ない僕がいじれる人間だからね」

「もういいです! 村瀬先輩には相談も頼りもしませんから!」

「はーい。あ、次の勉強は水曜日でいいんだっけ?」

「はい、水曜日にお願いします! さようなら!」


 勢いよく店から飛び出していく結城さんの背に手を振る。

 なんというか、愛嬌のあるバカって可愛いな。

 あれが後輩力っていうものなんだろうか。

 素直というか、純粋というか、だましやすいというか。

 僕もあれぐらいの素直さは見習うべきなのかな?

 人の振り見て我が振り直せ、たまになら、そう思ってもいいだろう。


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