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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校三年

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止まない雨

 じっとりとした空気にうんざりとしながら雨空を見上げる。

 梅雨時期の天気予報を信じてはいけないということを忘れていた。

 ザーザーと激しい勢いで降る雨は当分止みそうにない。。

 一年生だろうか、雨の中はしゃぎながら走っている姿を見ながらどうするか考える。

 まぁ、急いで帰る理由もないので別に構わないけれど。

 教室で勉強って気分にもならないしなぁ、自習室も図書館もこの時期は盛況だし、どうしたものか。


「傘でも忘れたの?」

「ナチュラルに僕の心を読むのはやめてくれない?」

「読みやすい村瀬君の問題でしょ」


 僕の前に現れた白石さんの手には折りたたみ傘が握られている。

 準備万端で素晴らしいことだ。

 このタイミングで声を掛けてくれたってことは、入れてくれるのかな?


「相合傘でもして帰る?」

「狭いからイヤよ」

「あぁ、そう。相変わらずつれないね。思いを伝え合った仲だって言うのに」

「濡れたくないもの」


 そう言いながら僕の前の席に座る。

 お、放課後に教室でお喋りするのはだいぶ久しぶりだ。

 最近はずっと、僕の家にすぐ帰って勉強漬けだったからな。

 白石さんもたまには気分転換したいのだろう。

 湿気でまとまらないのか、毛先をずっと気にしている彼女は、僕が黙っていると不思議そうにこちらを見つめた。


「変な事を喋らないの?」

「僕が毎回変な事を考えていると思う?」

「じゃあ帰るわ」

「あぁ嘘だから! ずっと変な事ばっかり考えているから話を聞いてほしいな!」

「それはそれでどうなのよ」


 呆れるような視線を向けてくる彼女の小言は聞き流すことにした。

 くだらない話をご所望なのだ、意味もオチもない話をしてあげようじゃないか。


「よくさぁ、不良がこんな雨の日に、捨てられている猫に傘をさしてあげるみたいな話あるじゃん?」

「普段の印象が悪いから、ギャップで良い人間だと思ってしまうみたいな話ね」

「そうそう、そういうの。よくその話に対して普段から真面目に生きろよとか、いつも優しい人間の方が偉いだろみたいな意見がつくよね」

「まぁ、当たり前の意見ね」


 当たり前の話だが、ギャップというのはやはり印象に残るのだろう。

 僕もギャップにはお世話になっている。

 去年まで空気だった人間が、真面目に学校生活を送るだけで高評価になるのだ、ありがたやありがたや。


「それが?」

「逆のバージョンってすごい可哀そうだよなぁ、って最近思ってさ」

「逆?」

「普段から好青年だとか、熱血なスポーツマンがさ、普通の人間らしい陰湿の面を見せるだけでガクッと評価が下がること」


 僕のように地べたを這っていた人間は、ある意味上がり目しかないので前向きに生きるだけで評価が上がる。

 逆に、普段からしっかりしている人間がちょっとしたイヤな面を見せると、評価が下がる。

 同じことをしても、評価をされるのは去年までだらしなかった僕なのだ、不公平だよね。


「良いやつはずっと良いやつであれよって押し付ける風潮あるよね。人間誰にもマイナスの面はあるのにね」

「村瀬君はマイナスばっかりで得したってこと?」

「多分白石さんも僕と同じ側の人間だと思うよ。おっと、学校で首を絞めようとするのはやめてくれないか、最近握力強くなってきたよね」


 伸びてくる彼女の手を払いのける。

 一ノ瀬さんに見られた実績があるからな、他の誰かにも見つからないとは限らない。

 今ならただのカップルのじゃれ合いで済むけど、誰もいない教室で首を絞められている姿なんてサスペンスになってしまう。

 ふてくされる白石さんの顔は可愛いけれど、少しだけ危機感を覚え始める。

 僕、これからずっと首を狙われるのかな?

 彼女が筋トレに目覚めないことだけを祈ろう。


「それで、話のオチは?」

「ないよ、くだらない話だから。あぁ、でも僕も石井君が裏で猫とか蹴っていたらイヤだなぁって思ったから、結局人間って偏見の生き物なんだなって思ったことかな」

「主語が大きい人間は嫌われるわよ」

「嫌われた後は好かれるだけだから別にいいんじゃない」

「あなたにマイナス評価を覆せるだけの人間性はないでしょ」

「でも白石さんのマイナス評価は覆して見せたでしょ?」

「今もマイナスって言ったら?」

「結構本気で傷つく」

「じゃあマイナスね」


 白石さんはいたずらする少女のようにほほ笑み、席を立ち上がる。

 どうやら今日のお喋りの時間は終わりのようだ。

 雨音が聞こえなくなった外を見る。土砂降りから小降りに変わったようだ。

 今なら、軽く濡れる程度で帰れるかな。

 濡れる覚悟をしながら外靴に履き替えた時、白石さんから折りたたみ傘を渡される。


「濡らさないでよ」


 どうやら、傘を差す大役をいただけるようだ。

 彼女の気が変わらないうちに、お言葉に甘えさせていただこう。


「狭いのはイヤって言ってなかった?」

「あなたは傘を差すだけで、中に入っていいとは言ってないわよ」

「それならもう最初から自分で持ってよ。僕が持つ意味ないじゃん」


 左手で傘を開くと、白石さんはピッタリと僕の横に並ぶ。

 傘の下、雨の匂いに混じって、彼女のシャンプーの甘い香りが漂う。


「冗談よ、丁寧にエスコートしてくださる?」

「報酬とか出る?」

「美人と相合傘するだけじゃ不満?」

「物足りないかぁっ痛!」


 喋っている途中で傘を持つ手の甲をつねられた。

 本気でつねられたわけではないが、皮って結構痛いんだよな。

 抗議の目で白石さんを見ても、彼女は素知らぬ顔をしている。


「贅沢者ね、私じゃ不満なの?」

「いつも一緒にいるからね、たまには違う刺激が欲しくなるのさ」

「じゃあ一ノ瀬さん呼ぶわよ」

「ごめんなさい、一ノ瀬さんだけは勘弁してください」

「最近お熱の後輩なら?」

「結城さんのこと? うーん、悪くないかも」

「さようなら」

「冗談だってば!」


 いつの間にか雨は止んで、雲の切れ間からは陽の光が差していたけれど。

 気がつかないフリをして、家に着くまで二人で傘の下で話し続けた。


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