いつも通りが一番ってこと
晴れて僕らは恋人になった......という訳もなく、変わらない日常を過ごしている。
むしろ受験勉強のせいで、前より無言の時間が増えたかもしれない。
まぁ、付き合ってくれとは言わなかったからな。
相も変わらずの距離感で僕らは生きている。
球技大会も適当にこなしたし、学校行事もなぁなぁで誤魔化しながら参加している。
たまに放課後に残って雑談して、読書部屋で勉強する。
そんな変わらない日々を過ごしていただけなんだけど。
「今回はエッチした~?」
「猥談は苦手だからやめてくれない?」
いつものように一ノ瀬さんがニヤニヤしながら僕の右腕に抱きついてくる。
春が過ぎ、衣替えが終わって夏服になった。
冬でも露出が多かった彼女は、もっと肌面積が増えている。
なんでこれが許されているんだ? 校則はどこに消えてしまったのだろう。
スカートを短くし胸元のボタンを開けている姿は、普通の男子高校生には刺激的だろう。
僕? ドキドキするよ、何されるか分からないからね。色んな意味で刺激的だ。
「前回もそうだったけど、何を根拠にそんなこと聞くのさ。あと離れてくんない?」
「あは~、女の勘かな~」
「勘でそんな質問しないでよ」
「でもこないだ階段ですごいことしてたよね~」
「ノーコメントで」
変わらない日々の中で、少しだけ変わったこともある。
二人でお昼ご飯を食べる回数が増えたこととか、白石さんによくない癖がついたことだとか。
理由は分からないが、白石さんは僕の首を触るのが好きなようだ。
疲れた時や、イヤなことがあった時に、僕の首を掴んでくることが増えた。
多分、それを見られたんだろう。
正直、エッチなことかそうでないかと言われればエッチ寄りな気がするので強くは否定できない。
手をつないだ回数よりも、首を握られた回数の方がはるかに多い。
倒錯的だね、白石さんも、それがイヤじゃない僕も。
「もしかしてだけどさぁ、石井君も見てたりする?」
「しょうちゃんは見てないよ~、生徒会の仕事してたから~」
「それは良かった」
「否定しないんだ~」
「見てたんでしょ? なら取り繕ったってしょうがないでしょ」
「……えいじちゃん、変わったね」
感慨深そうに一ノ瀬さんが呟く。
どのポジションで喋っているんだ? この娘は。
「いつも通りだと思うけど?」
「いい男になったと思うよ~」
「それはどうも」
「いあ! いあ!」
「それを許した覚えは一度もないからね?」
折角忘れていた黒歴史を掘り返してくる彼女にチョップをかます。
力は込めてないので痛くないはずだが、彼女は大げさなリアクションで離れていく。
その時、教室の扉が開く音がした。
「陽菜、村瀬君、掃除は終わったかい」
「しょうちゃん~、えいじちゃんが殴ってきた~!」
「な! 村瀬君、暴力は良くないよ!」
「掃除は終わったから、帰っていい?」
石井君に抱きつきながら大嘘をつく一ノ瀬さんを冷たい目で見る。
よく回る口だこと。僕と違って、考えて喋ってる分たちが悪いだろう。
石井君は、彼女の本性を知っているんだろうか。
……知っていても、知らなくても彼は変わらない気がするなぁ。
「おお、ありがとう、だいぶキレイになったね。これなら十分使えるかな」
「じゃあ、僕は帰るね」
「うん、ありがとう。ちゃんと先生には伝えとくから」
「よろしく。それじゃあね」
「ばいばい~」
ひらひらと手を振って退出する。
今回も、生徒会のお手伝いだ。
本来なら、こういうのには参加しない主義だったけど、最近は少しだけ参加している。
なぜなら、内申点のためだ。
行きたい大学がハッキリと決まった今、何としても合格を目指さなければならない。
白石さんは模試でA判定をもらえるほどの学力がある、僕だけ落ちるのはあまりにも格好がつかないだろう。
僕はC判定、夏前なら悪くはないと先生は言うが、僕は自分を信用していない。
僕だけでなく、受験生は皆勉強しているのだ。
例年よりボーダーが上がるということはざらにあるらしい。
白石さんと、絶対に同じ大学に合格する。
そのために僕が目をつけたのが、指定校推薦だ。
なんと、うちの高校から志望校であるS大には二枠も推薦枠がある。
指定校推薦なら、よほどのミスを犯さなければ落ちるということはない。
担任にも相談してみたところ、どうやら僕の評定はそんなに悪いものではないらしい。
部活はしてないが、高校一年からアルバイト活動に励んでいる。
大きな問題を起こすこともなく、欠席も頻繁にするわけではない。
テストの成績も、二年生になってからは右肩上がりで高順位を維持し続けている。
生徒会のボランティアにも参加し、感謝状ももらっている。
文化祭で見せた行動も、社交性として評価されているらしい。
うーん、やっぱり切り取り方って大事だな。
僕が自分から行動に移したことはアルバイトぐらいしかない。
振り回されてばかりの性格も、たまには役に立つらしい。
白石さんは、推薦は狙わないらしい。
『私が推薦もらえると思う?』
貰えないと思うと素直に答えると、強く首を絞められた。
彼女なりの気の許し方なのかな? ボディタッチが増えたような気がする。
首ばっかりだけど、なにかフェチとかあるのかな?
今度聞いてみようかな。
自宅の鍵を回して、玄関ドアを開ける。
僕の物ではない靴があることに気がついて、少しだけ明るい気分になる自分がいる。
「嬉しそうね」
「やぁ、白石さんのことを考えていたんだ」
「どうせろくでもないことでしょ」
「まぁ、否定はできないかな」
マグカップを片手に、キッチンから出てくる彼女と鉢合わせる。
もはや、勝手知ったる他人の家と化している。
僕が許可したからいいんだけど、だいぶ遠慮がなくなってきた。
「なにぼうっとしてるのよ、勉強するわよ」
「こき使われて疲れてるんだけど、ちょっと休んじゃダメ?」
「C判定」
「......コーヒーだけ淹れてすぐ行くよ」
「がんばりなさい、同じ大学に行くんでしょ」
「はい......」
最近はずっとこのやり取りをしている。
模試を持ち出されたら、何も反論できないからなぁ。
ため息をつきながら、ちらりとマグカップを持った彼女の右腕を見る。
僕の家の中では、彼女はもう傷跡を隠さなくなった。
信頼は、されているようだ。
その気持ちに応えなければなぁ。
「いい勉強方法とか無いの?」
「暗記」
「暗記の仕方を教えて欲しんだけど」
「頑張って覚えなさい」
「白石さん、先生に向いてないよ」
「村瀬君以外に教えることはないから、向いてなくてもいいわ」
「僕が困ってるんだけど」
「甘えないで」
僕がコーヒーを淹れる横で、他愛もない会話をする。
何も変わらない日々だ。
それが、楽しいってことに最近気がついた。
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