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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年三学期

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変わらないもの

 どうしてこんなことになったんだろうなぁ。

 大きなテレビに移されたダンスを真似しながら考える。

 ゆっくりと、体を大きく動かす。

 周りのおじいさんおばあさんも楽しそうに体を動かしている。

 僕は今、デイサービスの施設で高齢者に囲まれながら踊っている。

 柔らかな日差しが部屋に差し込み、冬と言えども体が温かくなってきた。

 最前線では石井君や一ノ瀬さんが、職員さんと一緒に踊っている。

 学校では着崩した制服をする一ノ瀬さんは珍しく、しっかりとボタンを留めてスカートも長くしている。


「村瀬先輩、そろそろ準備のほうお願いします」

「分かった」


 黒髪を短くまとめた、生真面目を絵にかいたような雰囲気の女子生徒から声をかけられる。

 二人いる副生徒会長の内の一人だ。

 生徒会メンバーの数少ない一年生で、あまりパッとしない僕にもちゃんと敬語で話しかけてくれる。

 後輩とか、絶対にできないと思ってんだけどなぁ。

 学校側が用意してくれた使い捨てエプロンを着ながら、コーヒーを淹れる準備をする。

 どうしてこうなったんだろうなぁ。

 お湯を沸かしながら、生徒会室に呼びだされた日を思い出す。


 ——————————


「ごめんね、村瀬君。本当なら僕から直接伝えるべきだったんだけど、ちょっと忙しくて」

「あは~、えいじちゃんだ~」


 生徒会室に入ると、クラスで使うものと何ら変わらない机と椅子に座って作業をする石井君に迎えられる。

 ふかふかなチェアとか、でっかい机とか無いんだ。

 生徒会長の部屋なのに、少し夢がないな。

 私立でもないただの公立の高校だし、それが普通なのかもしれないが。


「忙しいのに僕なんかに構ってていいの? そもそも、呼び出しの理由すら聞いてないけど」

「実はね、忙しいのは村瀬君に関係があるからなんだよ」


 おっと、面倒事の臭いがするな。

 こういう時に、心当たりがないのが一番不安になるね。

 生徒会の忙しさと僕に何の関係があるんだろうか。


「毎年この時期に、生徒会と有志のメンバーで地域交流の一環で福祉施設に行くのは知ってるかい?」

「あー、ごめん知らないや」


 ボランティア活動か何かかな?

 当然、僕のような人間がそんな真面目な活動を知っているわけがない。

 地域交流どころか、クラス内にすら交流がないのに。


「今年もいつもお世話になっているデイサービスで、今週の土曜日にイベントをする予定だったんだ」

「あぁ、それで準備が忙しかったのか。事前準備とか出し物の練習とかしてたんだ」


 あれ、それなら僕関係なくないか?

 それに、あらかじめ決まっている予定にそんなドタバタするほど石井君は段取りができない人間ではないはずだ。


「昨日デイサービスの職員さんと、参加してくれる人の代表者が学校に来てくれて話し合ったんだけどね」

「代表の人がえいじちゃんを指名してきたんだよね~」

「はぁ? 誰かと間違えてるとかじゃなくて?」

「ちゃんと村瀬君で合ってるよ。何でも、デザートが絶品だとか」

「......あー、誰か分かっちゃった」


 僕がお菓子を作ることを知っている人はそんなに多くない。

 自分の家で作るか、バイト先のドミシリオで作るか。

 その少ない人の中で、デイサービスに通っている人は一人しか知らない。

 常連のおばあちゃん、木下さんだ。

 そういえば、最近デイに通い始めたとか言ってたなぁ。

 アクティブで元気なおばあちゃんだから、今回のイベントにも参加したのだろう。


「急な話になるから、参加できるかどうかわからないとは答えたんだけどね。『エイジくんはいい男だからOKしてくれるわよ』としか言わなくてね」

「あは~、アルバイト先教えて貰っちゃった~。今度遊びに行くね~」


 何してくれてるんだあの人は。

 一ノ瀬さんにはバレないようにはぐらかし続けてきたというのに。


「強制ではないから断れるんだけど、僕としては参加してもらえると嬉しいな」

「嬉しいなぁ~」


 正面には善意100%の笑顔を浮かべる石井君、右腕にはいつの間にか移動してきた一ノ瀬さんが抱きついている。

 僕は、ハッキリNOと言えない日本人のようだ。


 ——————————


「熱いので気をつけてください」


 淹れたコーヒーとあらかじめ作っておいたデザートを他の生徒たちが配膳する。

 いつも作っているデザートとは違い、食べやすさや糖尿病の配慮など気にしなければいけないことが多くあって少し苦労した。

 職員さんと協力して作ったので、作業量自体は大したことは無かったのが幸いだ。

 初めて牛乳寒天を作ったが、職員さんのお墨付きをいただいたので問題はないだろう。

 美味しそうに食べる人たちの顔を見て、胸をなでおろす。

 よく通る声で誰かに自慢している声が聞こえる。木下さんは遠い席に座っているようだ。

 絡まれても面倒なので、適当に近くの席に座る。


「すみません、ご一緒させていただきますね」


 白髪を丁寧にセットした、七十代ぐらいの男性の向かいに座る。

 コーヒーを飲む姿が様になっている、僕も歳を取ったらこんな落ち着いた雰囲気が出るかな?


「気にすることはない。こちらこそ、すまないね」


 低く、ゆっくりとした声で話す老人は、何故か僕に謝罪をしてきた。

 ハッキリと喋る様子は、あまり年齢を感じさせない。


「うちの家内が、だいぶ無理を言っただろう」

「あぁ、木下さんの旦那さんですか」

「あれは騒がしいからな、家でも君の話をよく聞くよ。いつも世話になっているようだ、ありがとう」

「いえいえ、自分がよくしてもらってる側ですよ」


 落ち着いた話し方に、少し安心感を覚える。

 僕の周りでちゃんと大人らしい大人ってあんまり居なかったから、新鮮だ。

 強いて言えば白石さんの叔父さんも落ち着いているか。

 ただあの人と話してると疲れるんだよな、圧があるというかなんというか。


「コーヒーもいただいたことだ。礼、と言えるかどうか分らんが、話の一つでも聞こうじゃないか」

「話ですか?」

「そうだ、多感な時期だ。悩みの一つや二つあるだろう? 年寄りの知恵も存外、馬鹿にならないものだ」


 コーヒーをすすりながら、チラリと周りを見る。

 生徒会メンバーは色んな席を周りながら話しているが、僕が座っているからかこの席に来る気配はない。

 他の高齢者も近くには座っておらず、この席だけ周囲から浮いているよな静かさを放っている。

 たまには、白石さん以外にもお喋りしてみるのもいいか。

 僕と、静かな場所と、話し相手が一人だけ。

 いつもと同じような環境だからか、少しだけ僕の口も軽かった。


「それじゃあ、失礼して。奥さんとは長い付き合いですか?」

「あぁ、小学校の頃からの付き合いになるかな。恋人として付き合い始めたという意味なら、高校からになるが」

「へぇ、ずいぶんと長いですね」

「そうだな、六十年か。悪くはない時間だった」


 しみじみと、目を細めている。

 色々な思い出が脳裏を駆け巡っているのだろう。

 六十年先か、生きてるかな僕。


「それで? 聞きたいことはそんなことじゃあるまい」

「あぁー、子供の戯言だと思って聞いてもらえればいいんですけど」


 こないだ、教室で白石さんにした質問と同じ質問をする。


「冷めない恋はないってよく言うじゃないですか。それじゃあ、最期まで添い遂げた人たちは恋って言わないのかなぁ、と。」

「ロマンチックな考え方をするね。愛って言葉にしたらいいんじゃないかな? それでは君の気は収まらないかい?」

「愛なら冷めないって考え方があんまり理解できないんですよね。愛も恋も似たようなものじゃないですか。どっちにしても、最期まで冷めない感情はないのか疑問に思ったんですよ」

「ふむ......無いんじゃないかな?」


 少しだけ考える素振りを見せながら、断言をされる。

 六十年も続いてる関係でも、冷めているのかな?


「そもそもだ、ずっと続く感情なんて不健全だとは思わないか? ずっと好き、ずっと嫌い、ずっと苦しい、ずっと嬉しい、そんな感情を持つことは正しいかね?」

「ずっと好きだから、関係が続くんじゃないんですか?」

「そういう訳じゃないさ、ケンカしたこともたくさんある。良いことがあった分、悪いこともあった。知りたくないことも、知られたくないこともあった。嫌いと思っていた時期もあるさ」


 木下さんは、口を湿らすようにコーヒーを口にする。

 嫌いな時期もあって、よく関係が続くなぁ。

 そうか、冷めない恋はないのか。

 少し残念だな。


「君は、自分の気持ちが変わるのが怖いのかい?」

「え?」

「いや、冷めない恋があってほしそうに聞いてくるからね。特定の相手がいるのかい?」

「......どうなんでしょうね。あんまり自分の気持ちとか考えたことないんで」

「ははっ、若いな」


 ふと、白石さんがいない日常を思い出す。

 色あせた、何もない日々だった。

 今の楽しい日々も、いつかは色あせるのかな。

 それは、寂しいな。

 ずっと続けばいいと思うが、それは白石さんの言う惰性とは違うのかな?


「気持ちが冷める瞬間はいくつもあったよ。ただ、憎しみが沸いたことはない。嫌いになることはあっても、無関心になったことはない。それが、長続きしている秘訣かな。私の答えは、君の疑問に満足するものだったかな?」

「分からないことが増えました」

「大いに悩みたまえ、それが許されるのが若さだ。あぁ、たくさん話したから喉が渇いたな、おかわりをいただけるかな?」

「......僕のコーヒー、美味しかったですか?」

「これからが楽しみな味だよ」


 それは褒められてるのだろうか。

 まだまだって意味なんだろうか。

 うーん、微妙な評価だ。


「この年になると、苦さも青さも楽しめるものだ。また、君の淹れるコーヒーが飲める機会を楽しみにしているよ」

「次には、美味しいと断言してもらえるように頑張りますよ」


 空になったカップに注ぎながら答える。

 交流会も、そろそろ終わりの時間かな。

 石井君が前に立って話している。


「今日はありがとうございました」

「なに、お喋りをしただけだ。礼を言うほどのことではないさ。年寄りのたわ言と聞き流してくれてもいい」

「いや、参考にさせてもらいますよ」


 変わらない感情は不健全ねぇ、そういう考え方もあるのか。

 少し、気が楽になったかな。


「あぁ、そうだ。最後に一つだけいいですか?」

「いいよ、何でも聞きたまえ」

「来年受験なんですけど、何かいい勉強法とかありますか?」

「暗記だね。繰り返しあるのみだ」


 何回聞いたか分からない答えに肩を落とす。

 勉学に近道はないということかな、皆同じ答えだ。

 変わらない感情はないが、変わらない答えというものは世の中にはあるようだ。


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