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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年三学期

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今は昔、許されない恋があった

「冷めない恋はないってよく言うけどさ、それじゃあ最期まで添い遂げた人たちは恋って言わないのかな?」

「惰性なんじゃない」

「ロマンも夢もない意見だね、もっと女子高生らしい、きゃぴっとした答えが欲しかったよ」

「なら人選ミスでしょ。急に恋だなんて、どうしたの?」

「国語で『舞姫』やったでしょ? 主人公が恋に生きれる人間だったら、結末は違ったのかなぁって思ってね」


 三学期になって、三年生は自由登校の期間になった。

 騒々しかった学校はいつもより人が少なく、どこかもの寂しい雰囲気をかもし出していた。

 いつもなら談笑する人がいるはずの教室も、今は僕たちしかいない。

 真面目な人はもう受験に向けて勉強をしているし、最後の夏に向けてより一層部活に打ち込む人も増えてきた。

 生徒会活動も二年生が主体となって放課後に集まって活動している。

 このクラスからも多くの人が委員長副委員長が出ている。

 部活も、委員会も、塾も、何にも所属していない僕らのような人間はいないということだ。


「白石さんは昔の小説は読むの? 夏目漱石とか太宰治とか、教科書に載っているような人の作品とかさ」

「昔のはあんまり詳しくないわ」

「そうなんだ、今の小説の方が面白いとかそういう感じ?」

「単純に、時代背景があまり分からないからよ。物語に没頭する前に、知らないことがいっぱいあると気になって集中できないのよ」

「時代背景ってそんなに大事なの?」

「人によるわ。雰囲気で楽しむ人もいれば、私みたいに気になる人もいる。村瀬君は『舞姫』で時代背景は気にならなかったの?」

「僕はあんまり気にならなかったな。よく豊太郎は、孕ませておいてほったらかしにできるなぁって。」

「感想が浅すぎるわね......」

「現代文ってそんなものじゃないの?」

「小説の時代背景とか、書き手の生い立ちを理解してるともっと楽しいわよ。『舞姫』なら明治時代ね」

「へぇ、そうなの? 歴史の勉強もちゃんと紐づけないといけないんだなぁ」


 読書って奥深いなぁ。

 言われてみれば、歴史物とか読んでてもあんまり理解できないのは、僕の日本史が浅いからかもしれない。

 ライトノベルも舞台が分かるとイメージがはかどるって言うもんな。


「面白そうな、話の途中、ごめん」


 ふと僕らの頭上から低い声がゆっくり響く。

 声のする方を向くと、細い枯れ木のような男が立っている。

 ガリガリの長身にぼさぼさの髪、くまで真っ黒になった目元が特徴的な僕のクラスメイトだ。

 グループワークでよく一緒になるオタク君だ。


小宅(おたく)君の方から話しかけてくるなんて珍しいね。僕に用事かな」


 苗字からしてオタクになることを宿命づけられたような人間だが、僕は彼のことが嫌いではない。

 陰の物同士波長が合うのかな、同じオタクでもタイツ狂いのクラスメイトより彼の方が話しやすい。

 何より、同じ緑化委員会のよしみである。

 よく冬場のやることがない委員会の時間は、隣り合って二人して黙々と窓を拭いたり掃除をしたりしてる。

 彼は主張が強くないから、一緒にいて苦ではない数少ない人物だ。

 確か、彼が緑化委員長になったはずだ。


「明日の、委員会の、時間なんだけど」

「あぁ、視聴覚室の掃除だっけ。相変わらず、暖かくなるまでは掃除しかやることがないねぇ」

「村瀬君は、生徒会室に、行ってほしい」

「え?」

「石井会長から、指名だ」

「面倒事の匂いがするわね」

「何で白石さんが楽しそうなのさ」

「他人事だから」

「良い性格してるよ相変わらず」

「申し訳ない、けど、頼んだ」


 ペコリと下げられる頭に僕も慌てて立ち上がる。

 いるかどうかも分からないのに、わざわざ教室まで来て伝えてくれたのだ。

 彼は悪くない。

 こういう時の諸悪の根源は石井君なのだから。


「気にしなくていいよ、生徒会室に行けばいいんだね?」

「そう、それじゃあ」

「分かったよ。あぁ、そうだ小宅君に一つ聞きたいんだけどさ」


 帰ろうとした彼に呼びかけ、一つ質問を投げかけた。


「『舞姫』って、君的にどうだった?」

「趣味よりも、恋よりも、優先しなければいけない、ことがある、昔のエリートは、大変だな」


 そういうと細い体をゆらゆらと揺らしながら教室から出て行った。

 うーん、そういう見方もあるのか。

 僕にもっと友達がいたら現代文談義とかできたのかな?

 ……しないな、盛り上がらなさそうだ。

 椅子に腰かけて、窓の外をぼんやりと見る。

 冬至を過ぎたとはいえ、陽が沈むのはまだ早いようだ。

 グラウンドでは、ライトが煌々と照らされていた。


「僕個人に用件って何だと思う? 絶対に面倒くさいと思うんだけど」

「さぁ、明日のお楽しみね」

「イヤだなぁ、生徒会メンバーに仲のいい人がいるわけでもないし、行きたくないなぁ」

「仲のいい人がそもそもいないでしょ」

「事実でも口にしていい事といけない事があるんだよ?」

「ちなみに、一ノ瀬さんも生徒会所属よ」

「......明日、一緒に行かない?」

「無理よ、私も図書館当番だもの」


 あぁ、憂うつだ。

 豊太郎も、船の中でこんな気分だったのかな?

 悩み事のスケールは違うけれど、きっとそうに違いない。

 あぁ、時代背景は分からないけれど、感情だけは一丁前に分かった気分になれた。

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