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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年二学期

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二人だけの場所を作ろう

「どう、似合ってる?」

「まぁ、いいんじゃない」

「結構いい値段したねぇ、買った甲斐があるといいなぁ」

「長く使いたいなら値段は仕方ないんじゃない?」


 クリスマスイブ、僕は新品のコートに身を包んで白石さんの前でポーズをとる。

 学生服にも、僕が持っているパーカーにも似合うコートを選んでもらった。

 紺色の落ち着いたチェスターコートだ。

 普段行くようなショッピングモールとは違い、ちゃんとした服屋で初めて買い物したかも。

 せっかくだからと、パーカー以外のアウターやズボンも買ったせいで、結構な額になった。でも、数年使うことを考えれば悪くない。


「服の種類って呪文みたいで、店員さんが何言ってるか全く理解できなかったよ。サイドゴアとかメルトン生地とかコーデュロイとか知らないんだよなぁ」

「知らない分野なんてそんなものでしょ」

「白石さんは理解できたの?」

「聞き流してたわ」


 さすがのメンタルだ。

 伊達に学校で嫌われているわけではない。

 僕にもこれくらいの図太さがあればなぁ、振り回されずに済むのになぁ。


「じゃあ僕のクリスマスはこれで終わりかな、次は白石さんの番だよ」


 クリスマスというには味気ないが、まぁこんなもんだろう。

 昼過ぎに集まったから、まだイルミネーションも光らずに壁からぶら下がるだけのオブジェになっている。

 あとは白石さんの用件を叶えて、解散かな。


「じゃあ家具屋に行きましょうか」

「......あんまり高いものは勘弁してね」


 バイト代は貯まっているし、両親の遺産も僕が散財したところで無くなるものではないが、金銭感覚だけはしっかりとしておきたい。

 僕は純真無垢だから、いつお金をだまし取られるとも分からないし、普通の感覚は持っていたいのだ。

 え、学生のくせに住んでるアパートの家賃が高すぎる?

 契約したのは僕じゃないから、それはノーカンだ。


「単刀直入に聞くけど、何万までなら出せる?」


 歩きながら白石さんが訪ねてくる。

 うーん、こういう時のプレゼントの相場って知らないんだよなぁ。

 ただ、万単位で聞いてくるのは少し怖いなぁ。

 とりあえず、指を三本立てる。

 もう、高校生の金銭感覚としてはバグっているような気がしたけど、月のバイト代の以下って考えたらまぁまぁだろう。


「そう、私も五万用意したから、そこそこいい場所が作れそうね」

「......白石さんもお金持ってきたの?」

「当たり前じゃない」

「当たり前も何も、僕まだ何するか聞いてないんだけど」

「察しが悪いわね、それとも記憶力の方かしら」

「僕は皆みたいにエスパーじゃないし、暗記も出来ない人間って最近身に染みて実感したよ」

「エスパー?」

「おっと、なんでもないよ。それで、察しの悪い僕にも分かるように教えてくれると嬉しいな」


 咳ばらいをして話をそらす。

 皆当たり前のように僕の心を読むから、つい口に出してしまった。

 それにしても二人合わせて六万円、高校生の身には大金だ。

 何に使うのだろう、こんなにお金を使いそうなことを話してたら覚えてそうなものだけどな。

 うぅんと唸って記憶をさかのぼっても思い当たる節がない。


「部屋を作るって言ったじゃない」

「部屋? なんの」

「本当に覚えてないのね」


 ここまで言われてもピンとこない。

 はて、何の話だろうか。


「村瀬君の空き部屋を、読書部屋にするわ」

「......あぁ、あれって本気だったんだ。風邪でおかしくなった発言だと思ってた」

「失礼ね、私はいつだって正気よ」

「正気の人間は人のアパートに、勝手に部屋を作ろうとしないんだけど」

「あら、あなた否定しなかったじゃない。合意ってことでしょう?」

「否定しないことと、合意はイコールにならないんだよなぁ」


 修学旅行前に、白石さんが高熱でダウンした時を思い出す。

 確かに、合鍵渡したときにそんな話したなぁ。

 否定した記憶は確かにない、OKを出した記憶もないが。


「自分のアパートじゃダメなの?」

「勉強に集中したい時に、本があると気が散るのよ」

「それ、僕にも当てはまると思わないの?」

「思わないわ。あと、カフェ以外でも勉強教えてあげるわよ」

「あー、それはありがたいかも」


 分からないときに答えてくれる人がいるのは大きいからなぁ。

 スパルタだけど、解説は丁寧だし悪くは無いのかもしれない。


「それに、使ってない部屋がもったいないでしょ。有効活用しましょう」

「僕のプライバシーは?」

「いる?」

「いらないと思った理由を教えてほしいね。健全な男子高校生なんだけど?」

「健全かしら?」

「多分そう」

「なんで自分で言っておいて自信ないのよ」


 健全ってなんだろうね、友人がいない学校生活は健全なんだろうか?

 いや、友人の有無で決まるわけではない、本人が充実した生活を送れていれば健全と言えるだろう。

 ……レクリエーションも修学旅行もまともに参加してないな。

 学生として、僕は不良かもしれない。

 ちょっと悲しくなってきたな、自分の日ごろの行いのせいだから自業自得だけど。

 そんな話をしていると、目的の家具屋に着いた。


「本棚とか必要な家具は私が決めるから、お気に入りの椅子でも探してきなさい」

「おすすめの選び方とかある?」

「十分ぐらい座ってしっくりくるものがいいわね、あとは好みね」


 そう言って、白石さんは去ってしまった。

 好みねぇ、どういう椅子が好きなんだろうね僕は。

 とりあえず、椅子のコーナーに行くか。

 椅子と一口に言っても、様々なジャンルがあるようだ。

 座椅子、ゲーミングチェア、オフィスチェア、はまだ聞いたことがあるがエルゴノミクスチェアなんてものは初めて見たな。

 うーん、僕の好みは特にないから、白石さんの視線になって考えるか。

 あんまり座面が高いと座りにくそうだし、本も読みにくそうだから大きいのは除外。

 レザーも長時間座っていると蒸しそうな気がするから除外。

 ゲーミングチェアは値段が高いので除外。

 たくさんある椅子を選別していくと、ちょうどいい条件のものが一つだけあった。

 大きすぎず、長時間座っても問題なさそうなウレタンクッションのデスクチェアだ。

 座って感触を確かめる。

 悪くはない、気がする。

 比較対象になる椅子が学校の椅子になっちゃうからなぁ、そりゃなんでもいい椅子になる。

 キャスターも回転座面もなめらかに動き、ストレスはない。

 値段もまぁ、お手頃価格なんじゃないだろうか。

 諭吉が1.5人分だ。

 ……今は諭吉って言わないのか。1.5栄一か、語呂悪いな。

 新しいお札そんなに好きじゃないんだよなぁ。

 慣れていないのもそうだけれど、なにかオモチャっぽいような質感が苦手だ。

 数字がデカく書いてあるのがオモチャっぽく感じるのかな。

 それとも月日が経って、よれよれになった札ばっかりになったら気にならなくなるのかな。


「気に入った椅子が見つかったようね」

「あれ、もういいのかい?」

「会計はまだよ、それに結構時間経ってるわよ」

「本当だ、この椅子いいよ。くだらない考え事がはかどる」

「それっていいことなの?」

「まぁ、座り心地はいいってことで」


 僕が立ち上がった後に白石さんも座って、性能をチェックしている。

 高さを調節したり、キャスターで動いたり、座りながら一回転したりする様は子供っぽいけど、表情は真剣そのものでギャップが面白い。


「良いわね」

「そう、お眼鏡に叶ったようでなにより」

「じゃあこれ二つね」

「二つ?」

「私とあなたの分で二つでしょ?」

「白石さんの読書部屋でしょ、僕の分いる?」

「あなた、立って勉強するの?」

「あぁ、そこで勉強教えてくれるのね」


 三人の栄一が消えていく。

 僕の提示した予算ピッタリだ。


「机と本棚、あとカーペットは私が買うから、椅子の分はお願いね」

「割り勘じゃなくていいの? 白石さんの方が高そうだけど」

「私のわがままなんだから、私が多めに出すわよ」

「わがままな自覚はあるんだ」

「何か言った?」

「何も」


 注文用の札を二つ取って白石さんの横に立つ。

 彼女の手を見れば、自分と同じように何枚か札を持っている。

 あとはお会計するだけか。


「そういえば、白石さんってアルバイトしてるの?」

「してるわよ、不定期だけど」

「へぇ、何にしてるの?」

「ライン工」

「......なんかイメージと違うなぁ」

「何を期待してたのよ」

「こう、もっと華やかな世界? アパレルショップとかお花屋さんとか?」

「私に向いてると思う?」

「......」


 向いてないかも。

 絶対に営業スマイルとか明るい接客はできないだろうしなぁ。

 そこに無ければ無いですねとか平気で言うタイプだろうしなぁ。

 そう考えると、白石さんって素直なんだろうなぁ。

 僕みたいにアルバイト中は割り切って別人のように振舞うことができないってことだし。

 叔父さんが極端な子って言ってた理由が分かるよ。


「失礼なこと考えてるでしょ」

「気のせいでしょ。あ、会計僕らの番だってよ」


 買うものが多く、かつ大きいため配送してもらうことに。

 最速だと明日に届けてくれるということなので、明日の昼にしてもらう。

 一日ずっと、家具の組み立てで終わりそうな気がするな。

 予定はなかったし、ちょうどいいか。

 会計を済ませて店を出る頃には、外は暗くなり始めイルミネーションが点灯している。

 人通りも多くなり始めてきた。

 混み始める前に帰るか。


「じゃあ今日は解散かな? 服選んでくれてありがとうね」

「えぇ、それじゃあ明日の昼に村瀬君の家で」

「え?」

「だって私の部屋よ、レイアウトは私が決めたいわ」

「いや、白石さんの部屋ではないよ?」

「それに、家具の組み立てだって二人でやった方が楽でしょ?」

「まぁ、それはそうだけど。白石さんってクリスマスに何も予定ないの?」

「彼氏と過ごそうとしてるじゃない、日本人らしいクリスマスでしょ?」

「いや、うーん、そうなるのかぁ」


 彼女のからかいに、思わずしかめっ面になる。

 彼氏役だけどさぁ、急にそういう扱いになるとビックリしちゃうんだよなぁ。


「ふふ、面白い顔してるわよ?」

「誰のせいだと思う?」

「うぶな自分のせいでしょ」

「言い返せないのが悲しいね。ただ、あんまり煽られると何するか分からないよ?」

「結局そう言って、文化祭からなにもしてこないじゃない」

「君の家に行ったよ」

「看病しただけじゃない」

「病人に手を出すのは人として終わってるでしょ」

「ベッドには入ってきたのに?」

「不可抗力なんだよなぁ」


 僕から入ったわけではないので、あれはセーフってことにしてくれませんか?

 ていうか、がっつり覚えているじゃないか。

 熱で覚えていないって言ってたくせに。


「それじゃあ、また明日。寝てても勝手に上がるからよろしく」

「昼過ぎね、それより早く来て勝手に上がるのは無しね」

「それも悪くないわね」


 そう言って、白石さんは駅の中に消えていった。

 本当に早く来かねないな、早起きしておこう。

 あぁ、来客用のコップとかもあった方がいいのかな。

 明日はとりあえずコンビニで紙コップでも買えばいいか。

 人を家に招くということに慣れていないせいで、何を用意すればいいか分からない。

 とりあえず、甘いもの用意しておけばいいか。

 帰りに、コンビニでケーキでも買って帰ろう。

 僕も改札を越えて電車に乗り込む。

 いつもより、車窓から見える景色がカラフルで、少しだけ賑やかな気分になれた。

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