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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年二学期

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牡羊座って全然羊の形じゃないよね

「あぁ~疲れたぁ。詠耳もお疲れさん」

「お疲れ様です。最近客多いですね」


 店長がぐったりとカウンターに突っ伏す。

 僕はドアの掛け看板を変えに表に出る。

 十二月にもなると、街のあちらこちらにイルミネーションが飾り付けられ、鮮やかに彩られている

 こころなしか、カップルも多いような気がする。

 クリスマス前に付き合って、クリスマスプレゼントをもらったら別れるというライフハックを、クラスの誰かが話していたことを思い出す。

 ライフハックと呼ぶにはあまりにも人の心がない。

 恋心を弄ばれた誰かさんに心の中で手を合わせる、強く生きてくれ。


「やっぱ店改修したのがいけなかったかなあ」

「なんで繁盛してるのを後悔してるんですか」

「いや、想像以上に人が来るもんだから忙しいんだよ。詠耳が居る時はいいけど居ないときはワンオペだからな」

「パートでも雇ったほうがいいんじゃないですか?」

「面接やってくれんか?」

「バイトの仕事内容じゃないですよ」


 改めて店内を見回す。

 今まではカウンター席と四つの小さいテーブル席があるだけの店だったが、夏過ぎから店長が暇な時間を使ってコツコツと改修工事をしていた。

 カウンター席は今まで通り何も変わらないが、テーブル席が個室のようになったのだ。

『秘密基地っぽくていいじゃん』とは店長の言葉だ。

 思い付きで行われたそれは思ったよりも客からの受けが良かったようだ。

 ビジネスマンの商談やカップルの秘密の逢瀬の場所として広まりつつあるようだ。


「詠耳のサイドメニューも評判いいしなぁ~、営業日減らそうかなぁ~」

「自分がバイトじゃないときどうしてるんですか?」

「サイド出してないし、テーブル席も二つ締め切ってる」

「やっぱり人雇った方がいいですよ」

「もっとひっそりやるつもりだったのになぁ」


 タバコに火をつけながら店長がぼやく。

 お菓子を本格的に作るようになって半年以上が経った。

 店長の提案で、試しに常連のおばちゃんたちにパンケーキをサービスしてみたら好評だった。

 それをきっかけに、今は僕がシフトに入っている時はサイドメニューも提供することになった。

 簡単なものしか作っていないが、それでも自分の作ったものが受け入れられるのはやりがいを感じる。

 が、それはそれとして最近は少し忙しい。

 なにせ僕と店長しかスタッフがいないのだ。


「平日は一人でも回せなくないんだけどなぁ、土日はやっぱり詠耳ともう一人欲しいよな」

「もういっそセルフにします? フードコートみたいに呼び出し形式にして取りに来てもらうとか」

「あ、それいいな。どうせならスマートフォンを個室に置いてそれで注文できるようにするか。で、注文が出来たら通知が鳴って取りに来てもらうって形にしよう。これなら別れ話してるカップルの部屋に入るって事故もなくなるはずだ」

「そんなことがあったんですか?」

「大変だったぞ、どっちが悪いかの口論に巻き込まれてな。人の痴話げんかなんか興味ねぇってのに」


 店長はぼりぼりと頭をかきながら苦々しい顔を浮かべる。

 僕も教室で巻き込まれたから、その気持ちは分かる。

 あれを痴話げんかとしてカウントしていいかは知らないが。


「まぁ、詠耳の案は嫁に相談して決めるかなぁ」

「奥さんにですか?」

「勝手に改造したら滅茶苦茶怒られたんだよなぁ。テーブル席一つだけずっと閉め切ってただろ?」

「あぁ、最近まで一部屋だけ使えませんでしたね。奥さんと何の関係があるんですか?」

「完全個室にしたんだけどさぁ、なんか法律に引っかかるらしくて『なにかする時は私を通せ』って怒られちまった」

「完全に店長が悪いじゃないですか」


 店長がてへっっとおおげさに笑う。

 大の大人、しかも男がやってもあまり可愛くない。


「おかげで機嫌取りにクリスマスは遠出する所になったわ。あ、イブとクリスマス臨時休業にするから詠耳も休みな」

「わかりました」


 今年のクリスマスは日曜日ということで、本来ならシフトだが休みにするらしい。

 高校も冬休みに入るし、宿題をする時間にでもしようか。

 そのまえに期末テストを乗り越えなければいけないが。

 床掃除をしながら考え事をしていると、いつの間にか起き上がった店長が僕に肩組をしてくる。


「それで、お嬢ちゃんとはどこまでいったんだよ」

「別に、特に何もないですよ?」

「嘘つけ、修学旅行サボって二人で出かけてたらしいじゃねえか。いいねぇ、青春だ」

「......なんで知ってるんですか?」

「常連が孫と出かけた時に、えらい美人を連れたお前を見かけたってよ。はしゃいでたぞ」

「うへぇ」

「水族館なんてシャレてるじゃねぇか」


 人の目というのはどこにあるか分からないものだ。

 水族館、ガラガラだったのに常連さんがいたことに気がつかなったな。


「クリスマスはどうすんだよ」

「特に何も話して無いですよ。バイトあると思ってましたし」

「かぁー! そんなんじゃお嬢ちゃんに愛想つかされちまうぞ。もっと情熱的にならねぇと!」


 情熱的ねぇ、僕らとは無縁な言葉な気がする。

 というか、付き合っているわけではないんだよな。

 もう周りに説明するようなことはしてないが、僕が勘違いして彼氏面するようになってはいけない。

 とりあえず、暇な時に予定でも聞いてみるか。

 期末テスト勉強も多分、カフェで二人でするだろうし、聞くタイミングはいくらでもあるだろう。


「俺が高校生の時はなぁ、もっと遊んだもんよ!」

「へぇー、どれくらい遊んでたんですか?」

「それはもう、とっかえひっかえよ。毎日遊び歩いたからな、いい場所おしえてやろうか?」

「それはぜひ、聞きたいわね」


 ピタリと店長の体が止まる。

 この人も、全然学ばないな。

 僕の軽口もそうだけど、人って案外賢くないのかもしれない。

 いや、僕らが賢くないだけか。

 主語がデカいって、白石さんにツッコまれそうだ。。


「お疲れ様です」

「いつもありがとうね詠耳君、このバカ変な事言ってなかった?」

「機嫌取りしなきゃってぼやいてましたよ」

「あ、おい詠耳!」

「へぇ、またなにかやらかしたの?」

「ちがう、まだなにもしてない!」

「まだ?」

「ガァァァァ! なんもない! なんもないから!」

「未成年の前でタバコ吸うなって、何回も言ってるでしょ?」

「じゃあすみません、お先に失礼します」

「エイジぃィィィィいぃぃ!!」


 いつものアイアンクローを食らう店長を尻目に店を出る。

 まぁ、奥さんの言い分の方が正しいからな。

 僕はオッサンのせいでタバコの臭いには慣れてるけれども、未成年の前で吸っていい理由にはならないだろうし。

 さて、クリスマスはどうしようか。

 ふと夜空を見上げる。

 オリオン座の三ツ星が輝いている。

 小学校の理科の内容とか全然覚えてないけど、オリオン座だけは未だにパッと分かる。

 星座とか見るのもありかなぁ、プラネタリウムとか面白そう。


「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」


 口ずさみながら誰もいない道を歩く。

 少しだけ、星を探して気がつく。

 ……これ夏の大三角だ。

 冬の大三角ってなんなんだろう。

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