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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年一学期
3/74

想い出と思い出って違うのかい

「ふんふ~ん」


 鼻歌交じりに誰もいない廊下を歩く。

 今はお昼休み、各々が自分の居場所で昼食を楽しんでいる。

 僕は教室に居場所がないので、転々と人気がない場所を探してはそこで菓子パンを食べる毎日だ。

 友達がいないのではない。作らないのだ。

 決して僕が他人とコミュニケーションがとることのできない人間というわけではない。

 てか、作ろうと思えばいつでも作れるし?

 高校って勉強のための場所でしょ? 成績さえよければ許されるでしょ?

 カーストって馬鹿馬鹿しくないか?

 誰にいう訳でもなく脳内で言い訳をし階段を昇る。


「想い出はー、いつもキレイだけどー」


 脳内に適当に浮かんだ曲を口から垂れ流す。

 思い出って言うほどいつもキレイか? 僕の思い出はいつもセピア色だ。

 まぁいいさ、今の僕にはどうでもいいことだ。

 ズボンのポケットから僕の高いテンションの原因を取り出す。

 それは古びた鍵だ。

 廊下のロッカーの片隅で見つけた、校舎屋上とステッカーが貼られた鍵を手で弄ぶ。

 きっと用務員のおじさんが掃除の際に落としたのだろう。

 善良な生徒なら、すぐに届けるのだろう。

 ただせっかく拾ったのだ。一回くらいは使ってみたいじゃないか。

 僕の高校は屋上は基本的に立ち入り禁止だ。

 青春のド定番と言えば屋上なのにね、僕はよく知らないけど。

 屋上のドアの前まで来ると、見覚えのある人物が座っていた。


「……ストーカーしてきたの?」

「奇遇だね、今度から僕もご一緒させてもらってもいいかな」

「絶対に嫌」


 階段の最上段に腰を掛けた白石さんは、ちょうどお弁当を広げようとしていた。

 よほど僕に見つかったのが嫌だったのか、いつもより眉間にしわを寄せて僕をにらむ。

 今回に関しては事故なのになぁ。


「今回は本当にたまたまだから安心してよ。明日はまた別の場所を探すからさ。それより、今日は一緒にどうだい? 少し悪いことをしてみないかい?」


 キーホルダーを持ち、ぶらぶらと鍵を見せつける。

 おっと、眉間のしわが一段と深くなった。

 大丈夫? そんなに力入れたら痕になっちゃうよ?


「盗ってきたの?」

「いんや、朝拾った。こうやって偶然僕の手もとに来たってことはさ、使っても問題ないってことだよね? だから屋上でご飯にしようかなぁって。一緒にどうだい?」

「ねこばばする人の言い訳じゃない、私は嫌よ」

「失敬な、僕は道路で見つけた財布はちゃんと無視するタイプだ。関わりたくないからね。ねこばばみたいな犯罪と一緒にしないでほしいね」

「どっちにしろ校則違反でしょう」

「それについてはちゃんと確認したさ、屋上に関する校則は生徒手帳には書いてないよ。バレても子供のお遊びだと思ってくれるさ。基本的に僕は優等生だからね、少し怒られる程度だよ」


 生徒手帳をパラパラとめくる。

 屋上の使用に関する記載はない。

 記載がないのだから屋上を使うことになんの問題はない。


「拾った鍵を使うのは犯罪じゃない?」

「おっと、何も言い返せないな。気がつかないフリして使おうと思っていたのに、これでもう罪の意識が芽生えた訳だ」


 痛いところを突かれる。

 仕方ない、屋上は諦めよう。別に思い入れがあるわけじゃないし。

 ポイっと扉の前に鍵を捨てる。

 目立つところに捨てておけば、きっと誰かが見つけるだろう。


「屋上には行けなくなったことだし、仕方がないからここで食べるね」

「帰ってほしいのだけれど」

「まぁまぁ、たまにはいいんじゃない? 誰かとご飯を食べるっていうのもさ。ほら、世間一般だと問題になっているんでしょ?孤食ってやつ、たまには人と食べるご飯もいいんじゃない?」

「私、食事中に話す人嫌いなのよね」

「じゃあ君が食べ終わるまで黙ってみていよう」


 いつもよし少し深いため息を吐いて彼女はお弁当食べだした。

 強い拒絶や、自分がどこか行かないあたり彼女も僕に順応し始めたらしい。

 僕も彼女の横に、少し間を置いて座る。

 本当は真横に座って反応を確かめてみたかったけど、食事の邪魔をするのは忍びないのでやめた。

 僕はビニール袋から菓子パンを取り出してかじりつく。

 基本的に僕の体は菓子パンで構成されている。

 孤食・小食・固食、問題のオンパレードの食生活だ。

 そんな訳で、僕の昼食の時間は極端に短い。

 余った時間特にすることでもないので白石さんを観察しよう。

 お弁当は手作りなのかな、卵焼きが美味しそうだ。

 バランスもいい、緑、黄色、赤、色とりどりの野菜は見た目もキレイだ。

 まぁ僕は料理しないから本当にバランスがいいか分からないけど。


「あげないわよ」


 じろじろ見過ぎただろうか、弁当を守るように身をよじる。

 はは、かわいい。

 僕をにらんでなければもっとかわいい。


「大丈夫だよ、お腹いっぱいだからね。君の手作り弁当の味は興味があるけどね」

「なんで私の手作りってわかるの?」

「おや、本当に君お手製なのかい。適当に言ってみただけだよ」

「友達無くすわよ」


 はは、もういないよ。なんでだろうね。

 ごちそうさまでした、と律儀に声を出して手を合わせる。

 食べる所作もそうだが、育ちの良さがにじみ出ている。

 人をじろじろ見るのは育ちが悪い?

 そんなことはないよ、相手をよく見るのはコミュニケーションの基本って言うじゃないか。


「あなた、もっとちゃんとした食事した方がいいわよ」

「めんどくさいんだよなぁ、ちゃんとした料理するの。料理ができないわけじゃないんだよ? レシピを見ればほほが落ちるとまでは豪語しないけど、人並においしい料理は作れる自信はある。でもさぁ、一人分の食事の準備って大変じゃない? 余分に作って余られせたりしてね。作る作業は嫌いじゃないけどね」

「体壊しても知らないわよ」


 お弁当箱を丁寧にナプキンでくるみ立ち上がる。

 昼休みの終了を告げる予鈴が鳴る。


「心配してくれるのかい? いやはや、嬉しいね」

「死ねばいいのに」

「死ねなかったんだよなぁ」


 照れ隠しにしては口撃力が高いなぁ。

 まぁお互いに秘密を知りあっている仲ゆえのじゃれあいだと思いたい。

 本気で言っていたらどうしよう。まぁその時考えればいいか。

 よいしょと僕も立ち上がる。

 教室に帰ろうとする僕に白石さんが突き放す。


「付いてこないでよ」

「同じクラスなんだけど?」

「時間ずらしてくればいいでしょ。噂、巻き込まれたくないでしょ?」


 おやまぁお優しいこと。

 自分の噂に、僕まで悪口を言われないように気を遣ってくれるわけだ。

 僕は思いっきり悪事に巻き込もうとしたというのに。

 立ち去っていく彼女の足音を聞きながら、捨てた鍵を眺める。


「はぁ、返しにいくか」


 余ってしまった時間は有効活用しなければ。

 鍵を拾って手で弄ぶ。


「想い出はー、いつもキレイだけどー」


 白石さんの思い出はキレイなのかな。

 今度聞いてみよう。

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