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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年二学期

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29/74

24インチってどれくらいの大きさなんだ?

「もしよろしければご案内しましょうか~?」

「あ、大丈夫です」


 家電量販店に来てから、何回目になるか分からない店員の誘いを断る。

 ノルマでもあるんだろうか、店員が代わる代わる僕に声を掛けてくる。

 もっとお金持ってそうな人に話しかけた方がいいんじゃないですか?

 ほら、あっちのいかついスキンヘッドの人の方が羽振りがよさそうですよ。

 僕は見た目が弱っちいので、人に話しかけられやすい。

 店に行けばキャッチに捕まるし、よく分からんおばちゃんから写真撮影を頼まれる。

 だから基本的に買い物は通販で済ますのだが、今回はサイズ感を知りたかったために店舗に来ている。

 白石さんのアドバイス通りに、テレビでも買おうかなと思い立ったのだ。

 適当に買っちゃおうかなと一度考えたが、そもそも置く台すらないのだ。

 実物を見ないとレイアウトがピンとこないので、時間もあることだし店に来たわけだが。

 インチってなんだ? センチメートル表記じゃダメなのか?

 家電知識がなにも無いのだ、どれを買えばいいか分からない。

 もう買わなくてもいい気がしてきた。

 思い付きで店に来ただけだしな、多分買っても見ないし。

 ごめん白石さん、アドバイスはやっぱり無視することにしたよ。

 ぼんやりと考えながらテレビコーナーから離れる。

 ふらりふらりと店内に目をやりながらゆっくりと歩いていると、見知った顔がいた。

 エアコンコーナーで、額にしわをよせ真剣に吟味している友人に声を掛ける。


「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」

「いえ、大丈夫で......村瀬君じゃない、何してるのよ」


 店員のフリをした僕を見るなり、スッと冷たい目になる。

 ビックリさせることには成功したようだ。


「んー、ウィンドウショッピングかな」

「そんなことする性格じゃないでしょ」

「分からないよ? 休日は特にあてもなく、ぶらりと街中に繰り出してはウィンドウショッピングを繰り返し、適当なカフェでオシャレな写真をあげるのが趣味かもしれないじゃないか」

「あなたそういうタイプ嫌いでしょ」


 嫌いではないよ? 僕を巻き込まないなら。

 休日の過ごし方は個人の自由だからね。


「それで、白石さんは何してるの?」

「見て分からない?」

「僕の見間違いじゃなければ、エアコンを選んでるね」

「そうね」


 そういってまた、壁一面に取り付けられた白い長方形の群れに視線を戻してしまう。

 どうやら今日は会話を楽しむつもりはないようだ。

 少し機嫌も悪いかな? 口数もいつもより少ない。

 腕組みをして、口をきつく結んだ姿に店員も声掛けをためらうようで周りに人はいない。

 ふと、気がつく。


「あれ、白石さんって一人暮らしじゃないの?」

「そうだけど?」

「じゃあ、エアコンってアパート管理じゃないの? 勝手に買い換えていいのかい?」


 僕のアパートでは備え付けの家電、エアコンとか冷蔵庫は大家の許可なく変えてはいけないことになっている。

 白石さんのアパートでは違うのかな?


「私のアパート、エアコンは契約外よ」

「え、今までエアコン無しで生きてきたの? よくクッソ暑い夏を乗り越えたね」

「流石にあるわよ。自己負担なだけで。また壊れたから、修理じゃなくて買い替えに来たの」

「あぁ、そういうこと。エアコン無いアパートの契約ってあるんだね」

「あなた、自分が相当良い部屋に住んでる自覚を持った方がいいわね」

「契約したの僕じゃないからなぁ、あんまり詳しくないんだよな」


 言われてみれば、他の一人暮らしの部屋とか知らないなぁ。

 今の部屋って、まだ僕に保護者のポジションの人がいた時に、その人が適当に借りた部屋だし。

 元気かな、あのオッサン。

 自殺未遂をした僕を引き取って、アパートにぶち込んでくれた人に思いをはせる。

 僕の親戚で唯一、遺産には興味を示さなかった人だ。

 まぁ、僕にも興味を示さなかったのでこうして一人暮らししてるわけだが。

 おっと、思考が脱線した。


「そういや、白石さんって生活費はどうしてるの?」

「叔父さんの仕送り、あなたも見たでしょう」

「あぁ、あの優しそうな人ね。その人にもエアコン相談したらいいじゃない」

「自分でできることは自分でしたいの」


 実際に優しかったんだけども、この口ぶりだと白石さんは僕が叔父さんと話してるのを知らないな。

 じゃあ僕も話してないフリしとこ。


「自立心がすごいね」

「あなたも持った方がいいわよ」

「でも、困ったときに助けを求めるのも大事な事じゃない? 一人で悩んでも解決しないことってあるでしょ」

「じゃあエアコンを選んでくれる?」

「僕も家電詳しくないんだよね」

「役に立たないわね」

「向き不向きがあると思うんだよね、家電は僕の担当じゃないから」

「何が得意なの?」

「......お菓子作りとか?」

「今は役に立たないわね」


 彼女がため息をつくのを聞く。

 この反応も慣れたものだ。

 白石さんにため息をつかせたランキングがあれば僕はぶっちぎりの一位だろう。


「あれ~、えいじちゃんととおるちゃんだ~。デート中~?」

「陽菜、二人の時間を邪魔しちゃダメだって!」


 僕が役に立たない考えで頭をいっぱいにしていると、聞いたことのある悪魔の声がした。

 後ろを振り返ると、初めて会った時と同じように肩と足を大胆に露出した一ノ瀬さんがいた。

 もう秋なのに、寒くないのだろうか?

 少し離れたところに石井君が申し訳なさそうに立っている。


「そういう二人もデートかい?」

「今日はウィンドウショッピングして~、オシャレなディナーをしょうちゃんとするの~」

「陽菜とはそういう関係じゃないよ村瀬君」


 どうして石井君は、その考え方を僕らには適応してくれないんだろう。

 いや、文化祭であんなことした手前もう無理か。

 今更否定する方が変に勘違いされるか。

 白石さんも聞き流す態勢になっている。

 あ、そうだ。良いことを思いついた。


「二人って家電は詳しい?」


 三人寄れば文殊の知恵、四人いるからもっといい考えが浮かぶだろう。


「ごめん、俺は詳しくない」


 三人寄ってもダメなものはダメだった。

 もう店員に聞いた方が良さそうだ、餅は餅屋だ。

 ……ことわざって便利だな、どんな状況でも当てはまる言葉がある。


「でも陽菜が詳しいよ」

「あは~、アタシ詳しいよ~」


 ピースをしながら、アホっぽい笑顔で一ノ瀬さんが言う。

 ギャルって家電まで詳しいの?


「予算の目安は~? あと大まかなサイズと部屋の大きさも知りたいなぁ~」

「......これが予算とサイズのメモ」


 白石さんが一ノ瀬さんに紙を渡す。

 ちゃんとメモしてきてるの偉いな。僕もテレビを買いに来たのに、なんも考えてなかったな。

 感心してると石井君が僕の肩を叩く。


「ちょっと離れようか、部屋の話とか男子に聞かれたくないだろうし」

「......そういうものなの?」

「陽菜はそうだね、他の女子も自分から話す以外はそうじゃないかな?」


 真のイケメンは気遣いまでイケメンだなぁ。

 単純に人間関係に慣れているかどうかの差な気もするけど。

 僕もいつか気遣いのできる人間になれるかな?

 ……無理そうだなぁ、石井君や白石さんの叔父さんのようなスマートさは身につかない気がする。

 二人から少し距離をとる。

 一ノ瀬さんが指を指しながら何か説明している。

 白石さんは真剣な顔をして頷いている。


「あの二人って仲良かったっけ?」

「陽菜は誰にでもあんな感じだから......距離が近いって何回も注意してるんだけどね」


 あまり見慣れないペアに、新鮮さを感じたが石井君には慣れたものらしい。

 そういえば、教室でも何回か無理矢理絡みに行ってたかな?

 そのたびに石井君にはがされてたけど。

 おや、何か決まったのかな、二人でカウンターの方に向かっていくようだ。

 僕は別に待つ必要はないけど、乗りかかった舟だし最後まで待ってるか。


「ごめんね、二人の時間邪魔しちゃったね」

「今日白石さんといたのは偶然だから邪魔じゃないよ。それに僕らだけじゃ家電詳しくないからね、助かった側じゃないかな」

「そう? それなら良かったよ」


 ホッとする石井君に一つの疑問が浮かぶ。

 彼は、必要以上に僕に気を遣っているような感じがする。

 他のクラスメイトにはもっと気安い彼が、僕にはどこか一歩引いた接し方をしている。

 陽にも陰にも、男女関係なく明るい彼が僕にはどこかぎこちない。

 変な勘違いの仕方も、そのあたりが原因だろう。

 なんでだろうな?

 あれかな、同級生の気まずいシーンを目撃した負い目とかかな?

 僕からしたら事故だけど、彼からしたら盗み見と盗み聞きをしたことになるからな。

 気にしないように言っておくか。


「あんまり気を遣わなくていいよ。別に迷惑とか思わないし、同じクラスメイトだしね」

「ホント!? クラスでも話しかけてもいい?」

「うーん、たまになら」

「良かったぁー、村瀬君と仲良くなりたかったんだよね」


 そう言って石井君は透き通るような爽やかな笑顔を浮かべる。

 なんか予想してた反応と違うな、こんな少年みたいな反応されるとは。


「あ~、しょうちゃんが抜け駆けしてる~。アタシも混ぜてよ~」


 会計が終わったのか、二人がこちらにくる。

 石井君はどこか誇らしげに、一ノ瀬さんに語りかける。


「陽菜、エアコンの方は終わったのかい?」

「終わったよ~、条件ぴったしのエアコン選んだんだ~」

「助かったわ、ありがとう」

「あは~、お礼は今度一緒にご飯食べよ~」

「村瀬君が代わりに行くわ」

「自然に僕を身代わりにするのやめない?」

「はは、今度四人で一緒に食べようか。それじゃあ俺たちはこれで」


 そう言って二人は手を振りながら去っていく。

 なんか、何もしてないけどドッと疲れたな。


「僕らもどこか食べて帰る?」

「奢りならいいわよ」

「うーん、手作りじゃダメ?」

「......いいわ」

「じゃあドミシリオ行こうか」


 今日は何を作ろうかな、パッと作れるレシピの方がいいか。

 キッチン使っていいか店長に一応確認しなきゃ。


「あなたの得意分野がきたわね」

「今度は役に立ってみせるよ。そういえば、白石さんの得意って何なの?」

「文学」

「......僕より役に立たなそうじゃない?」

「二度と話してあげないわ」

「あぁ嘘! 嘘だから! 待ってよ、白石さん!」


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