Shall We Dance?
文化祭三年間大会被って出てないのでエアプです
「今日はもう帰っていいよ。文化祭中にも関わらず、受付なんてさせてごめんね」
「委員会の仕事ですから、大丈夫です」
図書館の先生の一言で、読んでいた本を閉じる。
体育館のイベントのあと、すぐに図書館の受付に戻って受付をしていたが、あっという間に閉館の時間になってしまった。
そのまま帰ろうと思ったが、体育館から図書館に直行したためカバンが教室に置きっぱなしだ。
廊下を歩きながらグラウンドを見る。
後夜祭が始まったのだろう、キャンプファイヤーが燃え広がり、赤く空を染めている。
来週からもう十月。陽が沈むのも、ずいぶん早くなった。
教室までたどり着く。皆後夜祭に参加しているか、帰宅したらしく明かりはついていない。
扉を開けると、いつもの席からグラウンドを眺めている村瀬君がいた。
手に持っている王冠が、炎の明かりを反射して輝いている。
「おや、僕のファムファタルじゃないか。こんな時間までお仕事かい? お疲れ様だね」
軽薄な調子で彼が話しかけてくる。
明かりが十分では無いため顔色は分からないが、ステージとは違っていつも通りのようだ。
「あなたは帰らないの?」
「ヒドイ目にあったし本当は帰ろうと思ったんだけどね、君のカバンが机にかけられたままだったから、教室で待っていれば会えるかなって」
「ヒドイ目? 美味しい役目だったでしょう?」
「普通の男子ならそうだろうけどさぁ、僕にとってはそうじゃないんだよな。あの後大変だったんだよ? 廊下を歩いてるだけで知らない人から声をかけられるし、写真は撮られるし。僕の写真なんていらないだろうに」
声には、疲れがにじんでいた。
本気で嫌がっているのだろう、明日からも大変そうだ。
村瀬君は私のように嫌われているわけではないから、しばらくは声をかけられるだろう。
また一ノ瀬さんや石井君に連れまわされる日々が待っているだろう。
「人気者ね、明日からが楽しみじゃない」
「人気とかいらないんだよなぁ、もう教室で二人きりで話すの難しそうじゃない? 僕としては、君とゆっくり話す時間があった方が嬉しいのに」
「人目を気にするなら、抱きつかなければよかったのに」
「ステージ上だと、恥ずかしさでいっぱいいっぱいだったんだよ。それに白石さんの鉄仮面を崩してやりたかったんだよ」
「真っ赤で可愛かったわよ?」
「あーうるさいうるさい、白石さんも少しは恥じらってよ」
不満げに口をとがらせる彼の声を、どこか愉快に感じながら聞いた。。
最初に抱きしめられた時はビックリしたが、その後のやり返しは上手くいったようだ。
自分でも大胆なことをしたと思うが、みみたぶをさする彼の姿を見るとずいぶん効果的だったようだ。
カバンを取ったらすぐに帰ろうと思っていたが、もう少し彼に付き合ってあげよう。
彼の前の席に座って、キャンプファイヤーを窓から眺める。
楽しそうな生徒の笑い声が響いている。
「王冠、かぶらないの?」
「いる? 図書券と交換しようよ」
「絶対に嫌よ」
「だよね、僕が白石さんの立場なら同じ答えをするよ」
「マントはどうしたの?」
「あぁ、かさばるから石井君に渡した。生徒会でまた違うイベントで使っていいよって。なんかマント見て顔真っ赤にしてたけど何だったんだろう?」
「あなた、そのマントを使って何したか考えなさいよ」
「……あぁ、そういうこと。何してるか見えないようにマントで隠したからな、いかがわしい妄想でもしたのかな?」
「石井君ならそうじゃない」
「彼、モテるのにそういうのに耐性ないよなぁ。もっと進んでそうなのに、不思議だね」
すぐに早とちりして、真っ赤になった石井君の顔が浮かぶ。
彼も村瀬君に負けず劣らず、うぶのようだ。
「モテは別に関係ないでしょう」
「そう? モテてたら、普段から話す分女の子に耐性できるもんじゃないの?」
「あなたの偏見でしょ。人は平気でも恋愛物が読めない人とかいるもの」
「へぇ、変わってる人もいるもんだ。現実はいいのに、創作はダメなんだ」
「あなたもそんな変わらないわよ?」
「僕が?」
「だってあなた、一ノ瀬さんに抱きつかれても何も思っていないでしょう?」
「あぁ、確かに。なるほど、ちょっと分かるような気がしてきたな」
二学期になって転校してきた、可愛らしい女の子。
160㎝もない私より小柄な体格に、豊満な胸の彼女に惹かれている男子は多い。
教室で男子の目線がちらちらと、彼女の胸元に注がれていることは多い。
そんな一ノ瀬さんに絡まれていても、村瀬君は表情を変えない。
周りから見てみれば、石井君より村瀬君の方が変わり者に見えるだろう。
表情がコロコロ変わる分だけ、石井君の方が可愛げがある。
「あんなに可愛い女の子なのに、何が不満なの?」
「出会い方。あと、その後に僕を苦しめたこと」
「空泳ぐオクトパスエンジェル教?」
「ほら、彼女のせいで僕に消えない傷跡がついたじゃないか。こういう心の傷は、なかなか癒えないんだよ?」
「自業自得じゃない」
「自分のクラスに転校してくるなんて予想できないよ......」
ナンパなんて、もっと普通に対処すれば良かったのに。
変なことばかり口にするから、いざという時にヒドイ目に合うのだ。
私が言ったところで治るようなものでは無い気がするので、口にはしないが。
二人の間に一瞬の沈黙が落ちる。
グラウンドからはひときわ大きな歓声が上がる。向こうは盛り上がっているらしい。
「天使が通ったね」
「それ、あんまり通じないわよ」
「なんで天使が通ることが、会話が途切れるって意味になったんだろうね?」
いつものように、くだらない雑談をし始める。
グラウンドの盛り上がりは、彼には大して重要ではないようだ。
「フランス人に聞きなさい」
「あ、これフランスの言い回しなんだ」
「口にする前に、一回調べる癖をつけた方がいいわよ」
「それだと、お喋りの楽しみが減るじゃないか。答えを求めているんじゃなくて、会話を求めているんだよ」
「私の意見は無視?」
「僕とのお喋りは嫌いかい? それならやめるけど」
嫌いかどうか、考えたことは無かった。
あまり人と会話をするのが好きではない私が、あまり嫌悪感を彼に抱かないのはなぜだろう?
村瀬君は一ノ瀬さんとの出会いを最悪と言うが、私からしても村瀬君との出会いは良いものではない。
それでも、不思議と彼のことは嫌いではない。
好きか嫌いの二択ならば、好きと言ってもいいだろう。
まぁ、そうでもない相手のみみたぶなんて噛まないが。
「沈黙が長いと不安になるんだけど、本当に僕の会話迷惑かい?」
不安そうに私の顔を覗き込む、彼の目は前髪に遮られて見ることができない。
今、彼はどんな目をしているのだろう。
前髪を手でかき分けて、しっかりと覗き込む。
私が急にこんなことをするとは思わなかったのだろう、彼の瞳はビックリして揺れている。
手のひらに感じる温かさが、段々と熱くなる。
「無言で触られると恥ずかしいんだけども」
「私、考えてみたのだけど、あなたのこと嫌いじゃないわ」
「それは嬉しいね、ちなみにラブ?」
「ライクね」
「あっそ、人の心を弄ぶのが上手いね」
視線がそっぽを向く。
ラブと言っていたら、どういう反応をしたのだろうか。
「これからのあなたの頑張り次第よ」
「やっぱり、君はファムファタルだよ」
「それって、告白と同義よ」
男を破滅させる魔性の女。
そんな大それたものではないけれど、彼をからかうのは面白い。
グラウンドのスピーカーからは、オクラホマミキサーが流れている。
彼の手を取って立ち上がる。
軽い彼の体は、大した抵抗もなく引っ張ることができる。
「一曲、踊ってもらえるかしら?」
「......女王様の仰せの通りに。でも僕ダンス分からないよ?」
「気分でいいじゃない、変なところでマメね」
「白石さんは、変なところで適当になるね」
浮ついた心の名前は結局分からなかったけれど、たまにはこういうのも悪くない。
高鳴る鼓動は、どちらの音か分からないほどうるさく聞こえた。
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