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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年二学期

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24/74

口は災いの元らしいよ

 どうしてこうなった? 何を間違えた?

 僕の人生、こんな思考ばっかりだな。

 目、目、目……多くの人の視線が僕に向けられる。

 見ても面白いものではないから、見ないでくれると嬉しいんだけどな。

 熱狂的な雰囲気に、圧倒されて声を上げることすらできやしない。

 マイクを持った司会が観客を煽る。


「文化祭二日目、楽しんでいるかー!?」

「うぉぉぉー!!」

「まだまだ、盛り上がっていけるかー!?」

「おぉぉー!!」


 人の大声って怖いね、ビリビリと空気が揺れる。

 本当にどうしてこうなったんだ?

 体育館のステージの上で歓声を浴びながら、何度繰り返したか分からない問いかけを繰り返す。


「それでは生徒会プレゼンツ! 校内カップルNo.1決定戦――ファムファタル祭の開幕です!」

「うぉぉー!!!」

「くたばれリア充ー!!」

「お幸せにー!」


 観客の方にチラリと目を向ける。

 最前列に用意されたスペースにいる、白石さんと目が合う。


「頑張ってね」


 ニコリと笑う彼女は、壇上で青い顔をしている僕の姿を楽しんでいるに違いない。

 あぁくそ、なんだってこんなことに。

 会場の上がっていくボルテージをよそに、僕の思考は過去に戻っていく。


 ——————————


「白石さんは、今年の文化祭は何か参加するのかい?」


 文化祭開催まであとわずかとなった放課後、窓から屋台の準備をしている賑やかな生徒の声を聴きながら、僕らは教室でボケっとしていた。

 日が沈むのも早くなってきたなぁ、もうすぐ十月だしなぁなんて考えながら、白石さんに話を振る。


「図書館にいるわ」

「だよね、僕も今年はそこで時間潰してようかなぁ」

「図書館で話すつもりはないわよ?」

「流石にそれは弁えてるよ、適当に中間試験の勉強でもしてようかなって」

「あら、あなたにしてはやる気じゃない」

「スパルタな先生がいたもんでね、机に向うのが習慣になったんだ」

「優秀な先生がいたものね」


 一学期に白石さんにテスト勉強を見てもらった時期を思い出す。

 毎日机に向うように習慣づけした結果、ちょっとは自発的に勉強するようになった。

 二学期はスケジュールがみっちりだ。

 文化祭のすぐ後に中間テストがあって、その後に修学旅行がある。

 修学旅行が終わったら、進路相談があってそのあと期末テスト。

 忙しいスケジュールと広いテスト範囲、早めに勉強するに越したことはない。

 文化祭中でも、受験生のために図書館は通常営業しているので時間を潰すにはうってつけだろう。


「村瀬君は何もしないの?」

「僕? 委員会の仕事があるよ。じゃーん、これなーんだ?」

「デジカメね」

「そ、花壇の写真を撮って提出しておしまい! いやー緑化委員会は素晴らしいね、これだけでいいんだから」

「私が言える義理ではないけど、それでいいの?」

「いいんだよ、僕が文化祭を楽しめるタイプに見える?」

「見えないわ」

「でしょ? イベントを楽しむには才能がいるんだよ。ちゃんと参加するって才能がね。せめて、楽しむ人の邪魔をしないようにするのが僕なりの気遣いってやつさ」

「『参加したくない』を、よくそこまで長々と言えるわね」


 手の指にストラップを引っ掛けて、ゆらゆらとデジカメを揺らす。

 本当は何も仕事をするつもりはなかったが、完全にフリーだと一ノ瀬さんに振り回されそうな気がしたので自分から立候補して仕事を入れた。

 まぁ、一ノ瀬さんは石井君の手伝いをしたり色々な所に顔を出したりせわしなく動いているので、杞憂だったかもしれないが。

 ここ数日は、石井君に勘違いされることも、一ノ瀬さんに振り回されることもなく平和に過ごせている。

 たまに白石さんと無駄話をして、カフェではお菓子とコーヒーの練習をして、充実した日々と言っていいんじゃないか?


「はー、こんな穏やかな日々が毎日続けばいいのになぁ」


 夕日の下で、ペンキを塗り合いながらはしゃぐ生徒たちを眺めながらそう思う。

 彼らの楽しさと、僕の楽しさは違うのだ。

 僕はこういう日々でいい。


「それ、フラグじゃない?」

「......流石に、文化祭当日にトラブルに巻き込まれることはないでしょ」

「本当に、そう言い切れる?」

「脅さないでよ、怖いなぁ」


 この時は、冗談だと思っていた。


 ——————————


 文化祭はつつがなく開催された。

 一日目の一般開催は祭りに乏しい地域柄もあってか、多くの人が訪れ大盛況だったらしい。

 図書館での勉強の息抜きがてら、食べ物でも買いに行こうかなと外に出て、人の多さを見て諦めるぐらいには混んでいた。

 グラウンドからは軽音楽部がライブをしているのだろう、楽器の音が防音の図書室にも少し漏れて聞こえていた。


(こんぐらいの雑音がある方が一番集中できるかもな)


 思いのほか進んだテスト勉強に、少しホクホクした気分になる。

 図書館、今まで利用してなかったけど、今度から使おうかなぁ。

 ここなら変な騒ぎに巻き込まれることもないだろうし、いい場所かも。

 チラリとカウンターの方を見ると、白石さんも黙々と本を読んでいる。

 やはりというか、出会った日も思ったが本を読んでいる時の白石さんは絵になるなぁ。

 僕の視線に気がついたのか、小さく手がしっしっと振られる。

 つれないな、と思ったがジロジロと見つめていた自分のマナー違反か。

 気分を入れ替えて、また教科書と向き合うことにした。

 そうして文化祭一日目は、無事平穏に過ごすことができた。

 そう、一日目は。

 問題は、二日目の教室、出欠確認の時間に起きた。


「えぇ!? 渡辺さん今日欠席なんですか!?」


 石井君の絶叫がクラスに響く。

 運悪く、夏風邪にかかったクラスメイトがいるらしく、今日は大事を取って欠席らしい。

 まぁ、人生不運な時もあるよね。どんまい。

 それより、なんで石井君がそんなに驚いているのだろうか。


「渡辺さんと予定があったんか?」


 クラスのチャラ目の男子が石井君に問いかける。


「あぁ、今日のイベントに、彼女と他クラスの中村君に出てもらう予定だったんだ」

「へぇ~、何に出る予定だったん? 代役立てるのはダメなん?」

「カップル限定のイベントだからね、あんまりこういのに出てくれる人はいないんだ」


 あ、すっごい嫌な予感がしてきた。

 幸い、石井君は真剣に頭を悩ませているようで、僕の方を向いてはいない。

 バレないように図書館に行こう。

 こっそりと席を立ちあがった僕の右腕が、ガッチリと柔らかい何かに掴まれる。


「あは~」

「......放してくれないかな? 行くところがあるんだよ」


 きらきらと無邪気に輝く笑顔が可愛いね、人が見たら天使みたいと形容するだろう。

 僕には悪魔のほほ笑みにしか見えないけど。


「しょうちゃ~ん、えいじちゃんに出てもらえば~?」

「え、村瀬君に?」


 ですよね、こういう流れになると思ったよちくしょう。

 なんとかして逃げ切らなきゃ。


「僕にも予定があるからね、代役は他の人に当たってもらえないかな?」

「そうだよ陽菜、無理言っちゃダメだよ」

「でも~、こないだは文化祭寝て過ごすって言ってたよね~?」

「……聞き間違いじゃないかな?」


 誰だよ、一ノ瀬さんに文化祭の過ごし方を話したやつ。僕だけども。

 あぁ、ペラペラと話していた過去の僕が憎い。

『沈黙は金、雄弁は銀』の意味が身にしみて分かった。


「それに、誰と出ろって言うんだい? カップル限定なんだろ? 僕は誰とも付き合って無いけど?」

「とおるちゃんと出れば~?」

「白石さんがこういうのに参加すると思う?」

「とおるちゃんが参加するって言ったら出るの?」

「いいよ、天地がひっくり返ってもありえないからね」


 僕の発言を聞くと、一ノ瀬さんはどこかへ消えてしまった。

 きっと、白石さんを追っかけに行ったのだろう。

 居場所分かるのかな? あ、僕が図書委員って教えてたわ。

 本当に失言ばかりだな、この口は。


「ごめんね村瀬君、陽菜が無理ばっか言って」

「本当にそ……いや、気にしないでいいよ。同じクラスメイトだからね、協力するのは当然だよ」


 危うく本音を口にするところだった。

 九割ぐらい言いかけたけど、石井君は鈍感系ラブコメ主人公なので問題ない。


「ちなみに、渡辺さんは何の企画に出るつもりだったの?」

「カップルの女子側にイベント直前に質問した内容を男子が当てるってクイズ企画だよ。ポイントが一番高いペアが、学校一番のカップルとして表彰されるんだ」

「ヘェー、オモシロソウダネ」


 なんだそれ、罰ゲームじゃないか。

 表彰されて嬉しいものなのか? 在学中に別れたらどうするんだろう。

 まぁ、内容を聞く限り白石さんは絶対に出たがらないだろう。

 安心安心、今日も図書館で勉強できそうだ。

 僕が内心、安堵していると息を切らせた一ノ瀬さんが帰ってきた。


「とおるちゃん、出るって~」

「……は?」

「本当!? 助かるなぁ、お礼言わなきゃ! 村瀬君もありがとうね!」

「え、あ、ちょ——」

「じゃあ、イベント開始前に体育館に集合してくれ! 軽い流れの説明だけするから!」


 そういって石井君は走り去ってしまった。

 あれ、天地ってこんな簡単にひっくり返っていいのか?

 自分の頬を軽く叩いてみるが、痛みが伝わるだけだった


「夢じゃないよ~?」


 一ノ瀬さんも面白がって僕の頬を引っ張っている。

 ネイルが頬に突き刺さって痛かった。

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