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冗長な僕と淡白な君  作者: アストロコーラ
高校二年二学期

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22/74

八方美人ってなんで悪口なんだい?

 一ノ瀬さんに引っ張られるまま、学校を縦横無尽に歩き回る。

 フルートの音に誘われて吹奏楽部に行ったり、甘い香りに釣られて調理部に行ったりと、彼女の気の向くままに振り回されている。

 時々、立ち止まっては「ここは何~?」と説明を要求される。

 プレートに書いてあること以上の情報は僕も知らないので、聞かれても困るというのが本音だ。



「ここは生徒会室だね」

「へぇ~、しょうちゃんはここで働いてるんだね~」

「委員会活動を働いてるって表現するのかな」

「じゃあなんて言うの~?」

「活動するとかじゃない?」

「働いてるでも一緒じゃない~?」

「......一緒かもね」


 石井君は二年生ながら、副生徒会長に就任している。

 基本的に生徒会役員は三年生から選ぶのだが、二人いる副生徒会長の内一人は経験を積ませるために二年生から選ぶ。

 複数人立候補者がいれば選挙が発生するのだが、僕らの年は石井君以外は立候補しなかった。

 三学期にある選挙で、生徒会長立候補者がいなければそのまま彼が生徒会長になる。


「石井君が働いてるところでも見たかったの?」

「ん~? 違うよ~?」

「そろそろ連れまわされてる理由を聞きたいんだけどね」


 放課後になってからずいぶんと時間が経つ。

 グラウンドから聞こえてくる運動部の声も小さくなってきた。

 学校内に残っている生徒も、ずいぶんと減っている。

 僕も帰りたいなぁ、別にやることがあるわけではないけども。


「アタシ転校生だから、委員会とか部活とか案内してほしかったんだ~」

「その理由で僕を選ぶのは人選ミス過ぎると思うよ。部活も入ってないし、委員会活動なんてほとんどないし」

「えいじちゃんは何委員なの~?」

「緑化委員会」

「へぇ~、地味~」


 地味とはなんだ地味とは、緑化委員会は最高なんだぞ。

 なぜなら、活動内容が滅茶苦茶少ないから。

 朝と夕方に花壇に水をやるだけでいい。

 冬場なんて花が枯れてるから実質活動無しだ。暇すぎて委員会の時間中、皆で学校の窓を拭いたり学校周辺のゴミ拾いをしてる。

 春先は花を植えたり、夏休みも登校して水やりをしたりする必要があるが大した苦労ではない。


「とおるちゃんは~?」

「白石さんは図書委員、たまに図書館で当番してるよ」

「ふ~ん、図書館なら遊びに行けないな~」


 騒いではいけない場所の分別はつくようだ。

 良かったね白石さん、僕みたいに振り回されることは少なそうだ。


「えいじちゃんは文化祭何するの~?」

「何もする気はないよ、家近いから出欠確認する時間だけ顔出して家で寝てるつもり」


 我が学校の文化祭は少々変わっている。他の高校の事よく知らないけど。

 クラス主体の出し物は無く、基本的に部活動や委員会で屋台や出し物、活動をする。

 例えば、緑化委員会は花壇コンテストとかいって、花が一番元気よく咲いてるクラスの表彰をして終わりだ。

 また、個人の集まりでもちゃんと活動内容を作れば許可が出る。

 去年はクラスのオタクたちがバンドを組んでライブしてたっけな?

 あんまり人は集まらなかったらしいが、当人たちは満足してた。青春だね。

 三年生は受験があるため、有志以外は基本的に参加義務は免除されている。

 まぁ、だいたいの三年生は参加するらしいけど。

 高校での最後の一大イベントだからな、僕みたいなひねくれ者以外は参加するだろう。


「あぁ、文化祭を楽しむために、どこに参加するか今日吟味してたのか」

「そう~、しょうちゃんが去年は楽しかったって言ってたからさ~」

「へえ、石井君って去年何してたの?」

「女装コンテストと~、屋台のお手伝いしてたって~」

「あの体格で女装は無理があるんじゃないかな……」


 180オーバーの身長で、肉付きのいい石井君が女装するのは無理があるだろう。

 でもイケメンだし、頑張ってメイクすれば結構いい線いきそうな気がしてきた。

 ぼんやりと石井君の女装姿を想像していると、一ノ瀬さんがグイっと僕の顔を覗き込む。

 前髪をかき分け、じっと顔を見つめてくる。

 どうして陽の人ってボディタッチに抵抗がないんだろうね?

 パーソナルスペースの概念が無いのかな、僕みたいな内気の人間はそういうことされるとドキドキしちゃうんだよ。

 何か裏があるんじゃないかってね。


「えいじちゃん、出たら?」

「嫌だよ。知ってる? 普通の人からしたら罰ゲームなんだよ、女装って。やりたい人がやればいいんだよ」

「えぇ~、髪キレイだし、線も細いし、顔も良いから似合うと思うけどな~。アタシメイクした~い」

「嫌だね、僕の整った顔はむやみやたらに晒すものじゃないんだよ」

「自分で顔が良いって言うんだ~」

「自分以外誰も褒めてくれないからね。こういうことは自分で言って自分の機嫌を取らないと」

「面白い考え方~」


 あんまり顔について言及されたことってないな。

 まぁ人の容姿にとやかく言うのって品が無いしな、そんなもんか。

 初対面で顔面に点数を付けあった人達がいるって? きっと性格が終わってるんだろう。

 ブラブラと学校を一周し、自分のクラスに戻って来たときには誰も教室に残っていなかった。

 あぁー、疲れた。ここ最近で一番歩いたかも。


「学校探検はこれで終わりかな、帰っていい?」

「う~ん、しょうちゃんが帰ってくるまでお喋りしよ?」

「石井君まだ学校にいるの?」

「文化祭の準備だって~」


 そうか、生徒会は文化祭実行委員会も兼ねるからもうこの時期から忙しいのか。

 まだ一か月以上先だっていうのに、ご苦労なことだ。

 帰ろうとする僕を無理やり席に座らせ、その机に一ノ瀬さんが腰かける。


「文化祭について教えてよ~」

「えぇ? それこそ石井君に聞きなよ。わざわざ文化祭実行委員会なんてやってるんだから。それに僕、去年まともに参加してないから話すことないし」


 文化祭は一日目が一般開放、屋台や委員会の出し物がメインになる。

 文化系部活の発表もこの日にある。

 この日は人だかりでぐっちゃぐちゃになるので、こっそり家に帰ってもバレない。

 去年は出欠確認だけ出て、家で寝てた。

 二日目は一般開放されず、身内に向けたイベントがメインになる。

 石井君が出た女装コンテストとかはこの日になる。

 グラウンドに組んだステージで実行委員会の企画をしたり、有志による発表がある、らしい。

 去年は花壇コンテストの手伝いがあったので、その時間以外は適当な空き教室で寝てた。

 後夜祭もあるらしいけど、文化祭と違って出欠自由なので僕は出てない。

 だからなにをやるかは知らない。なんかキャンプファイヤーとかして踊るらしいよ。

 こんな具合に僕はまったく参加してないので、文化祭について話せることなどないのだ。

 白石さんも多分僕と一緒だろう。ずっと図書館で本読んでそう。

 僕も今年は図書館で時間潰そうかな、空き教室探すの大変なんだよな。


「それじゃ~、とおるちゃんの事教えてよ~」

「白石さんの事? そういうのは本人に聞くべきじゃない? それに僕ら二年生になってから話すようになったからあんまりよくは知らないよ」


 四月に話すようになって、もう少しで半年になるのか。

 なんかあっという間だったな、この期間。

 これが充実ってやつなのかな? まぁ僕が一方的に話してただけなんだけど。


「付き合ってるんでしょ~?」

「石井君の誤解なんだよなぁ。まぁもう噂として広まっちゃったからどうしようもないんだけど」


 そもそも白石さんが訂正する気ないしな。

 パパ活よりマシ扱いされたことを思い出す。


「ふ~ん」


 じろじろとこちらを見つめてくる。

 この手のタイプってなに考えているか読めないから怖いな。


「じゃあ、お互いに秘密の共有でもしてる仲なのかな? それも特別な秘密」


 おっと、急に話し方変わるじゃん。

 普段の気の抜けた話し方はどこにいっちゃったの?


「僕は隠し事はしない主義だよ?」

「えいじちゃんはそうかもね。でもとおるちゃんは違うよね?」

「どうしてそう思うんだい?」

「とおるちゃんのパーソナルスペースの許し方が、えいじちゃんと他の人で違うから」


 パーソナルスペースの概念はあるんだ。じゃあ僕への距離感はわざと近めでやってたんだ。

 うわぁ、コミュニケーション強者って怖いなぁ。


「えいじちゃんはパーソナルスペースが無いよね。私が腕に抱きついても、顔に触っても振り払わないし、対して意識もしてないし、すごい珍しいよ」

「普通に嫌だから次からはやめてほしいなぁ」

「逆に、とおるちゃんは他人に対してしっかりと距離を取ってる。階段の時も、教室に戻るときも私が近づくと嫌がるし、距離を取ろうとするし」

「ただ単に人見知りなだけかもよ? 一ノ瀬さんみたいに制服着崩して、イヤリングしてる人って初見だと怖いしね」

「私にだけならそう思ったかも。でも、教室での様子を見たら、全員に対して距離を取っていると思ったんだ」


 この人本当に今日転校してきたばかりの人なんですかね?

 どんな観察眼してるんだろう。

 一人称もアタシから私になってるし、人ってこんな簡単に豹変するんだな。


「そんなとおるちゃんが、えいじちゃんにだけは気を許したように一緒にお昼ご飯食べてるんだよ? 特別な関係だと思うよね」

「気を許してくれてるのかな? 僕あそこに行くたびに嫌な顔されてるけど」

「それにね」


 あ、流された。

 まぁ、こんだけ人の事理解できる人間に、誤魔化し通すのは無理だなぁ。


「こんな暑い真夏に、長袖のインナーなんて怪しすぎるよね」

「……そういうのは本人に言ってくれないかな」


 それはそう。僕も怪しいと思う。

 クラスの皆はインナー姿に慣れてるし、白石さんへの好意やら嫉妬やらの色眼鏡で見ているからその発想に至らないのだろう。

 ぶっちゃけ、リスカの痕を隠してる人間にしか見えないよなぁ。

 なんでパパ活なんて噂の方が広まってるんだろう。

 あいつリスカしてるぞって噂をしないぐらいの良識はあるのかな?

 それなら最初から陰口なんて叩かなきゃいいのに。


「......以上が、アタシの推理でした~。いい線いってる~?」

「僕から言うことは特に何もないよ。当たってるかもしれないし、外れてるかもしれない。僕も白石さんをよく知っているわけじゃないからね」


 実際、たまたま街で傷跡を見ただけで、その傷がついた理由とか知らないしな。

 僕が知っているのは、白い肌に走った赤い線と、両親がいないこと、甘いものが好きなことぐらいか。

 本人が話さないことは深掘りしない主義なのだ。

 あ、好きなレシピだけもっと教えて貰いたいな。

 リアクションから、どれだけ気に入ったのか判断するのって結構難しいからな。


「それよりさぁ、どっちの話し方が素の君な訳? ちょっとキャラ変わり過ぎて怖いんだけど。もう一ノ瀬さんのことどういう目で見ていいか分からないんだけど」

「あは~、どっちのアタシも、私だよ。人によって接し方や話し方を変えるのは、皆やってるよね?」

「それはそうだけども、落差があり過ぎてなぁ。ちょっと天然が入ってるギャルだと思ってたのに、ゴリゴリに計算高いタイプだったから脳が処理できてないよね」

「えいじちゃんは口が堅そうだからね~。それに~」

「面白そうだから?」

「あは~、分かってきたね~」


 一ノ瀬さんの手のひらが僕の頬に触れる。

 さっき嫌って言ったばっかりなのになぁ。


「二人だけの秘密だね~」


 一ノ瀬さんが甘えるような声で耳元で囁く。

 勝手に僕を巻き込むのはやめてくれないか。


「ごめん陽菜! 思ったより委員会の時間伸びちゃった!」


 石井君が汗をかきながら、教室の扉を開ける。


「待たせたよね、ごめ......ん......」


 口がパクパクと形だけ動いて、音にならない声を漏らしている。

 そりゃそうだ、一ノ瀬さんが僕にキスしてるように見えるだろう。

 どうしてこうも、神がかったタイミングで現れるのかね?


「ちなみにさぁ、石井君はどっちなの?」

「しょうちゃんは~、本物だよ~」


 そうか、石井君は天然か。

 じゃあなおさら、僕の力じゃどうしようもないな。


「陽菜! 人様の彼氏に何してるんだ! 村瀬君も、白石さんがいるのに!」

「できる限り協力するからさぁ、彼の誤解解いてもらうことってできる?」

「う~ん、誤解したままの方が面白いんじゃない~?」

「......やっぱり君は悪魔だよ」

「小悪魔って言ってほしいな~」


 悪魔なのは否定しないんだなぁ。


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