小悪魔? 普通に悪魔
「それで、人気の転校生様が何しにこんなところまで来たの?」
「いあ!いあ!」
「それもうやめてくれないかなぁ......」
「えぇ~、気に入ってるのになぁ~」
元気に腕を振りかざしながら一ノ瀬さんが叫ぶ。
どうして人の黒歴史をわざわざ掘り返すのだろう。
人の心が分からないに違いない。
分かってて掘り返しているのなら、悪魔の所業である。
「ごめん二人とも、陽菜がどうしても今話したいって聞かなくて」
そう言って石井君は申し訳なさそうにしている。
きっといつも振り回されてるんだろうな。
分かるよ、僕も振り回されたから。君にも振り回されてるけど。
「クラスの皆とはお話したから~、あとはえいじちゃんととおるちゃんだけ~」
とおるちゃん? あぁ、そういや白石さんの下の名前、透か。
人から名前で呼ばれてるのを初めて見るかも。
僕が下の名前で呼ぶと心底嫌そうな顔するからな。
「よく名前分かるね。一緒にいる僕ですら、一瞬分からなかったのに」
「それはあなたがおかしいだけよ」
「あは~、クラス全員の名前と顔は覚えたからね~」
さらっととんでもないことを言ってのける。
ギャルって頭悪いと思ってた、これも偏見か。
転校してきて3時間程度でクラス全員と会話して、名前を覚える。
行動力の権化かな?
コミュ力お化けってのは、彼女のような人のことを言うんだろうな。
......なんでお化けって言うんだろうね?
「用件は? 無いなら帰ってほしいのだけど」
白石さんが冷たく言い放つ。
コミュニケーションしに来ただけだと思うけどね。
「口うるさい人はもういらないわ」
「おや、今悪口を言われたような気がするな」
「気のせいじゃない」
「じゃあ気のせいか」
本人が気のせいと言うなら気にしなくていいか。
僕らのやり取りを一ノ瀬さんはニヤニヤしながら見ている。
「いや~、しょうちゃんが告白するだけあってキレイだねとおるちゃん~」
「ちょっ、本人の前で言わなくていいじゃないか陽菜!」
石井君が顔を真っ赤にして言う。
そりゃ過去の告白失敗が蒸し返されたら、思春期の男子には恥ずかしいだろう。
そんなことはお構いなしに一ノ瀬さんが話を進める。
「用件は二つあって~、しょうちゃんが謝ることと~、二人とお喋りしたいな~って」
「石井君が謝るの? 一ノ瀬さんじゃなくて?」
「ん~? アタシ何か悪いことしたかな~」
「イヤナンデモナイデス」
変に突くと後でひどい目に遭いそうだ。
まだ顔を赤くした石井君が、白石さんに向かって頭を下げる。
「こないだは迷惑かけてごめん! あの二人にはきつく言ったから許してあげてほしい!」
「私に関わらないならいいわ」
教室での出来事を思い出す。
あの後すぐ夏休みに入ったからな、どういう話し合いになったかの報告を今しているのだろう。
僕にも謝ってほしいなぁ、ねぇ白石さん?
彼女の方を見ると、キッと睨み返されたので多分心が読まれてる。
静かなお昼休みを僕らに邪魔されて、ちょっとご機嫌斜めだ。
「これも全部、俺が周りに勘違いさせるような言い方したせいだから、本当にごめん」
「勘違い? どんな言い方したのさ?」
それは初耳だ。
僕から話を振ることはなかったから、告白された日の内容詳しく知らないんだよな。
「その、緊張しすぎて、『友達になってください』が『付き合ってください』になっちゃったんだ。そのせいで、俺が白石さんに告白したって広まったんだ」
「あは~、しょうちゃん面白いよね~」
「巻き込まれる方としてはたまったもんじゃないわね」
「本当に迷惑かけた、ごめん」
真剣に謝る石井君の姿には誠意があった。
白石さんもそれは感じ取ったようで、いつものため息をついている。
……僕はここにいていいんだろうか?
「謝らなくていいわ、悪気が無いのはわかったから」
「ありがとう、村瀬君にも迷惑かけたね」
「まぁ、僕は大した被害は受けてないから別に気にしなくていいよ」
「でも、恋人が告白されるのは気分が良くないだろう?」
「付き合ってないんだよなぁ......」
「え!? 付き合ってなにのにキスしたりインナーの下を見たのかい!?」
「石井君、全部勘違いなんだよ」
「そんな......今時の高校生はそんなに進んでいるのが普通なのか……?」
「石井君も今時の高校生だよ?」
あ、これはいつものパターンだ。
こうなった石井君は話を聞いてくれない。
そのうち叫んでどっか走り去っていくだろう。
どうして僕の話になるとこうなるんだろうなぁ。
横で腹を抱えて笑っている一ノ瀬さんに質問をする。
「なんで石井君は僕の話を聞いてくれないの?」
「しょうちゃんはね~、好きなことを一生懸命理解しようとするんだよ~。処理しきれないとこうやって自分の世界に入っちゃんだよね~」
「理解するなら、僕の話をただ聞いてくれるだけでいいのになぁ......」
「石井君って村瀬君のこと好きなの?」
「あ、それは僕も気になった」
白石さんが一ノ瀬さんに尋ねる。
あ、石井君が叫んでどこかに行った。
一ノ瀬さんも連れて行ってくれないか。
「しょうちゃんはね~、ちょっと変わってる人が好きなんだよ~」
「僕、普通だと思うけどね?」
「変わり者よ」
「白石さんも変人と思われたから、友達になってくれって言われたんでしょ。なんなら僕は石井君にそんなことを言われたことがないから、白石さんの方が変わり者だよ?」
「詭弁ね」
「あは~、二人は仲が良いんだね~」
「まぁ大親友と言っても過言ではないね」
「過言よ、ただの友達でしかないわ」
「これは手厳しい」
友達と親友の境界線ってどこにあるんだろうな。
お互いに秘密をさらけ出した仲なんだから親友でいいと思うんだけど。
最近こういったバカ話してないし、今度白石さんに聞いてみよ。
お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
今日は始業式の日だから、午後は軽い配布物と二学期のスケジュール確認して終わりだ。
早めに帰れそうだ。
三人で会話しながら教室に戻る。
「あまりこの場所には来ないでほしいわ」
「だってよ一ノ瀬さん」
「ひなって呼んでよ~」
「あなたもよ、村瀬君」
「親友なんだから一緒にご飯を食べたっていいじゃないか」
「親友じゃないからダメよ」
「アタシもとおるちゃんとお昼食べたいなぁ~」
「嫌よ、あととおるちゃん呼びはやめて」
うーん、騒がしい二学期になりそうだ。
まぁ、石井君の勘違いだけ解けば何とかなるかな?
僕へのクラスメイトの視線は、時間が解決してくれるだろう。
この時は思っていた。
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「えいじちゃん付き合って~」
その爆弾は、放課後になった瞬間僕に投げられた。
クラスメイト全員の、特に男子からの強い視線が僕に突き刺さる。
気軽に地獄を作るじゃん、悪魔かな?
神様はいないのに、悪魔がいるなんてアンバランスな世界だ。
「......どこに?」
石井君が失敗した言い方をわざわざ真似るあたり、いい性格をしている。
それとも血かな? 親戚だし、言い回しが似ているのも仕方がないのかもしれない。
あ、白石さんが速攻で帰ろうとしている。僕も連れて行ってくれ。
「う~ん、とりあえず学校全部!」
「石井君にお願いしなよ、彼の方が詳しいし面白いよ?」
「しょうちゃんは学校じゃなくても会えるから~、今日はえいじちゃんが良いなぁ~」
「......帰っていい?」
あれ、またデジャヴュを感じるなこのやり取り。
「ダメって言ったら~?」
「帰るかな」
「あは~、学校探検にれっつご~」
「痛い痛い痛い! まだ完治してないから引っ張らないで!」
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